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特集 | クリエイティブシティに学ぶ!アムステルダムのまちづくり

食材をレスキューし、新しいビジネスに。『Instock』のおいしい挑戦。

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アムステルダム東部にあるレストラン『Instock』。ここではスーパーや農場などで捨てられる予定だった食材が活用され、日々おいしい料理に生まれ変わっています。どんなきっかけで始まったのか、そして業界を超えて広がる動きとは?彼らの挑戦をお伝えします!

目次

メニューを見ずに注文する客。

 アムステルダムの斬新なレストラン『Instock(インストック)』。その本質を理解するのにぴったりの料理はどれだろう……メニューと10分にらめっこし、にんじんのフムス、グリル野菜、ひよこ豆のパフを挟んだサンドイッチに決めた。

 元気な店員に注文を伝えたそのとき、爽やかなスポーツマン風の男性が店に入ってきた。店員は慣れた様子で挨拶しメニューを手渡したが、彼はちらりと見ただけでこう言った。

 「とりあえずジュースと、食べ物はあるものでなんでもかまわないよ」。店員は笑顔を見せ、くるりと背を向けキッチンに向かった。

 10分かけてメニューを選ぶのではなく、10秒で決める。彼らにとっては日常のこの風景が『Instock』のすべてだ。

 レストランの名前である”Instock“は「手持ちのもの」を意味する。スタイリッシュな空間でおいしい料理を食べることは『Instock』の魅力のひとつだが、このソーシャルレストランは、さらに深い意義をもつ。

 食べ物に対する小売業者と消費者の姿勢──何を、なぜ、どのように食べるか──その視点を変えるという使命を掲げている。

現代的なビジネスアイデア。

  『Instock』は、オランダ最大のスーパーマーケットチェーンである『アルバート・ハイン』から生まれた。将来を期待された若い3人の従業員が同じ店舗に配属されたとき、食品廃棄物の多さを目の当たりにし、この問題をなんとかしようと考えた。

 幸運にも新規事業の社内コンペの公募があり、3人は「レスキューされた食材」、つまり廃棄予定の食材を使った料理を出す期間限定のレストランを提案した。

廃棄予定だった食材を加工し、レストランで提供する。
廃棄予定だった食材を加工し、レストランで提供する。

 それは突き動かされるようなアイデアだった。彼らはコンペのような一時的な活動でなく、これをフルタイムの仕事として取り組む必要があると考えた。レストランの候補地を見つけ出し、事業計画を書き直して経営陣にプレゼンした結果、首尾よく話は進んだ。

 『アルバート・ハイン』の経営陣は当初、5か月間プロジェクトを支援すると決めた。その期間は徐々に延長され、5年後には『Instock』はスピンアウトし、完全に独立した社会的企業となった。彼らの使命感と質の高い料理は人々に受け入れられ、レストランは3店舗に増えた。

レストランの壁に掲げられた数字。これまでに約753トンもの食材をレスキューした。
レストランの壁に掲げられた数字。これまでに約753トンもの食材をレスキューした。

 最初の頃、彼らは電動カートを用いて、『アルバート・ハイン』の店舗で「在庫が過剰」「見た目が悪い」「賞味期限が近い」食材を毎日集め、シェフは毎朝変化する食材をもとにランチとディナーのメニューを考えた。

左/倉庫に集められた大量の食材。中/『Instock』で出された料理を楽しむ客。右/料理のメニューは日々変わる。シェフの腕の見せどころだ。
左/倉庫に集められた大量の食材。中/『Instock』で出された料理を楽しむ客。右/料理のメニューは日々変わる。シェフの腕の見せどころだ。

 この試みが成功するにつれ、集まる食材が増え、よりシステマティックな体制を整える必要が出てきた。今は店舗や小売業者、農場の協力者から月に約20トンもの食材が、冷蔵庫のある商業規模の倉庫に集められている。

食材を救うだけではない。

 『Instock』にどんな食材が届くかを事前に把握することはできないが、シェフたちはどの食材がいつレスキューされる可能性があるかを推測し、食材によって調理可能なメニューのデータベースを作成した。

小さくて売れにくいキャベツを回収するスタッフ。毎日、大量の野菜が集まる。
小さくて売れにくいキャベツを回収するスタッフ。毎日、大量の野菜が集まる。

 これにより料理の質が向上しただけでなく、古いジャガイモとパンから造られるビールや、ビールの醸造の副産物から作られるグラノーラなどのオリジナル商品を製造することにつながった。 『Instock』は食品を救うという使命を持っているが、単にアップサイクルするだけでなく、生産者から最終消費者までのフードチェーンに沿って、一人ひとりの認識と行動を変えるという目標を持っている。

『Instock』オリジナルのビール、グラノーラ、書籍。
『Instock』オリジナルのビール、グラノーラ、書籍。

 客の声を受け、燻製・発酵など保存方法を教えることに焦点を当てた書籍『Instock Cooking』が生まれ、さらに料理教室が毎月開かれた。ウェブサイトでは学校向けの「フードレスキュー教育プログラム」が公開され、彼らの影響は業界を超えて波及し、新しい基準や実践例をつくる手助けとなっている。

『Instock Cooking』の様子。食材の活用方法を教える。
『Instock Cooking』の様子。食材の活用方法を教える。

 2冊目の本『Circular Chefs』ではミシュラン星付きのシェフと組んで廃棄をゼロにするレシピを載せ、レストランと家庭の両方でサーキュラー・クッキングの仲間をつくろうと試みる。地元のレストランに対して集めた食材を卸売りするサービスにも着手した。

 さらには、国内の志を同じくする社会的企業とともに、全国の食品廃棄物を排除するための擁護団体『Verspilling is Verrukkelijk(和訳で「廃棄物は楽しい」)』を設立した。

目指すのは、ビジネスを楽しく有意義にすること。

 『Instock』は路上で食べ物を配ったり、SNSを活用して生産者から余剰分を分けてもらったりと、型破りな行動も多い。食料廃棄の解決を楽しいものとして発信するために、彼らは魅力的で明るい存在であり続ける。

 共同設立者の一人、セルマ・セディクさんは言う。

 「食料廃棄は、私たちが直面している最も重要で、なくすべき環境問題の一つです。それはまた、私たちが迅速に、効果的に何かを変え、自身の消費習慣に変化をもたらしていると感じることができる問題でもあります」

左から共同創業者のセルマ・セディクさん、バート・ルーターさん、フレーク・ファン・ニムヴェーゲンさん。打ち合わせでは笑顔が絶えない。
左から共同創業者のセルマ・セディクさん、バート・ルーターさん、フレーク・ファン・ニムヴェーゲンさん。打ち合わせでは笑顔が絶えない。

 捨てられるはずだった食材を使いこなすレストランと、彼らの料理を求める客。『Instock』の挑戦は、人々の行動に確実に変化をもたらしている。

 10分かけて選んだ、「捨てられるはずだった」食材でできたサンドイッチ。次に訪れるときは、たったひとこと、「お任せします」とオーダーすることは間違いない。

Information
Instock
Czaar Peterstraat 21, 1018 NW Amsterdam
月〜金曜:8:30〜23:00/土・日曜:11:00〜23:00 
www.instock.nl

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