水の都・アムステルダムのまちなみを楽しみながら、運河をきれいにできるクルーズツアーがあります。その名は『Plastic Whale』。観光と環境問題を組み合わせた斬新なツアーは、プラスチックごみ問題を解決したいというアイデアから生まれました。
プラスチックごみを回収するクルーズツアー。
世界初の「プラスチックを釣る」会社、『Plastic Whale(プラスチック・ホエール)』。アムステルダムの歴史ある美しい運河で、クルーズを楽しむだけでなく、運河に浮いているプラスチックごみを回収するツアーを提供している。
約2時間のツアーでは、まず船長のエリックさんから網の使い方とごみの選別方法を教わる。運河にはプラスチックをはじめ、多くのごみが浮かんでいて、乗客は誰が一番多く拾えるかを楽しんで競う。
エリックさんはプラスチックごみの問題についても教えてくれる。毎年、数千万トンのプラスチックが生産され、そのごく一部はリサイクルされるが、残りは燃やされるか、埋められるか、もしくは水面に浮遊して「プラスチックスープ」と呼ばれる状態を引き起こす。プラスチックが分解され、自然に還るには数百年の時間を要する。
『Plastic Whale』のボート自体、運河で回収したペットボトルをリサイクルして造られている。そして、日々、クルーズで集まるプラスチックごみでまた新たなボートを造っている。
ごみ問題を解決したい。シンプルなアイデアの力。
『Plastic Whale』は、設立からわずか8年で10隻のボートを所有するまでになった。繁忙期には1日2〜3回出航し、多くのプラスチックごみを載せて戻ってくる。
エリックさんは、『Plastic Whale』のミッションを、「プラスチックごみを拾うためのボートを造る。そのためにプラスチックごみを拾う。これをプラスチックごみがなくなるまで繰り返し続けることです」と話す。
『Plastic Whale』設立者であるマリウス・シュミットさんは、もともと一般企業のマーケティング担当だったが、人生をもっと有意義に使いたいと考えていた。
転機となったのは、1年間の休暇中に訪れたマレーシア・ボルネオ島のビーチリゾートでの出来事だった。
ビーチで目を覚ました彼は、ついさっきまできれいだったビーチが、流れ着いたプラスチックごみで覆われているのを目の当たりにした。その光景は脳裏から離れなかった。
アムステルダムに戻ると、この「プラスチックスープ」問題について行動を起こそうと決めたが、問題解決のためのスキルや知識を持ち合わせていなかった。しかし、自分と同じように、環境問題に対してアクションを起こしたいが、なにから始めればいいのかわからない人もまた、たくさんいると信じていた。
SNS上で「プラスチックごみでボートを造りたいが、僕はボートを造ったことも、操縦したこともない。誰か力を貸して!」と呼びかけたところ、電話とメールが殺到した。その多くは、彼が持っていなかったスキルや知識を持つ人々からだった。
話し合いはもう十分。まず、動き出そう!
マリウスさんはまず、「プラスチックスープ」に対してアクションを起こそうという人々のコミュニティをつくったが、そこでは話し合いばかりになってしまった。
「もう十分だ。行動を起こそう」
運河からプラスチックごみを取り除くため、ボートと網、そして友人を集めた。これが『Plastic Whale』の元祖である。多くの人が興味を持ってくれたので、Facebookのイベントページを作成し、誰でも参加できるようにした。
2011年9月に最初のイベントが開催され、30隻のボートと450人以上が参加し、プラスチックごみを回収するという、予想を上回る規模のイベントとなった。
1年後に開催された2回目のイベントでは、規模はその2倍以上となり、漁網で数百キログラムのプラスチックごみを運び出した。
イベントの成功を喜ぶ一方で、マリウスさんは、これを持続可能なビジネスにしたいと考えた。13年、イベント参加者である『スターバックス』の社員から依頼を受け、企業向けのイベントを開催した。楽しく有意義に、環境問題にアプローチしている姿を見せることは、CSRを重視する企業にとって、よいブランディングであり、これは大きなビジネスチャンスであった。
マリウスさんは営業に力を入れる必要はなかった。「プラスチックを釣る」アイデアはすぐに広まり、多くのメディアに注目された。
数々の企業が、従業員やクライアントと一緒に「プラスチックを釣る」ために、スポンサーになってくれた。そのことはプラスチックごみでボートを造るという、マリウスさんの次なる構想を実現するための後押しになった。
プラスチックには価値があり、資源になる。
マリウスさんは知人の協力を得て、14年に初めてペットボトルの再生素材でボートを造った。プラスチックごみの価値について伝えることは「使命」であり、そのために人を惹きつけるデザインも重要だった。 p>
「魅力的なボートにすることで、プラスチックごみは資源であるというメッセージが強く伝わります。ほかの資源と同様に、プラスチックごみも価値があるものだとして扱われるべきです」
『Plastic Whale』のツアーには、環境問題を学ぶオランダ国内の修学旅行生も多く参加している。参加者への学習効果も大きいが、このツアーの最大の効果は、運河沿いを歩く観光客へのアプローチかもしれない。アムステルダムの運河沿いでは、毎日何千人もの人々がボートを目にし、ペットボトルを運河に捨てるとどうなるかを考えるきっかけとなっている。
そして今年、『Plastic Whale』はプラスチック再生素材を用いたオフィス家具をリリースした。オランダの家具会社と手を組み、机の場合、天板はリサイクルされたペットボトルから、脚などは環境に配慮して育てられた木材とリサイクルされたスチールを使って作られている。
すでに15団体から家具の注文を受け、将来的にはより多くの製品ができる見込みだ。 再生素材を用いた家具のポテンシャルは大きく、オランダだけでなく、世界中で『Plastic Whale』がより多くのプラスチックごみを回収する理由となっている。
マリウスさんは、大きな環境課題に挑むには、「語る」よりも「実施する」人が必要であると考えている。そして実際に、これまで2万人以上がツアーに参加した。
さらにアムステルダムにとどまらず、彼はこの活動を世界に広げた。『Plastic Whale』の拠点はイギリス、ドイツ、オーストラリアに広がり、プラスチック回収量はこれからも増える見込みである。
このビジネスの資源はプラスチックごみであるが、マリウスさんはそれが枯渇することを恐れてはいない。
「魚の乱獲はよくないことですが、プラスチックの乱獲は私たちにとってポジティブなことです。そしてプラスチックごみがなくなれば環境はよくなります。私たちは『Plastic Whale』が不要になる世界を目指しています!」
誌上ツアー
『Plastic Whale』へようこそ!
\ドキドキワクワク!/
ツアーが始まる前に、船長のエリックさんから道具の使い方や注意事項などの説明を受ける。
\いざ出発!/
運河には、小さいごみだけでなく大きな廃棄物も捨てられている。現実を知る瞬間だ。
\そっちに向かうね!/
運河沿いを歩く住民や観光客との交流も楽しめる。これも『Plastic Whale』の大きな役割だ。
\よいしょー!/
自転車が捨てられたボートを発見! 自転車は回収できないが、できるだけ多くのごみを回収する。
\チョコレートでほっと一息。/
このボートのスポンサー『TONY”S CHOCOLONELY』のチョコレートをみんなで分ける。
\お疲れさまでした!/
ツアー終了後、参加者は満足げな表情を浮かべた。気持ちのいい達成感を味わえるそうだ。
Information
Plastic Whale
Le Mairekade 33A, 1013 CB Amsterdam
時期により開催日は異なる。所要時間は約2時間。airbnbから予約可。
https://plasticwhale.com/plastic-fishing