セルフビルドの家で焼くパン屋さん。山と共に生きる魅力とは?

セルフビルドの家で焼くパン屋さん。山と共に生きる魅力とは?

2022.07.03

旭川市の隣にある北海道上川郡当麻町。その山をご夫婦で整え、家を建て、パン屋さんを始めた女性がいます。なぜこの地を選び、ベーカリーショップを開いたのか。 その暮らしについてお聞きしました。

山で知り合い結婚。山に触れた生活を求め2010年に北海道へ移住

当麻町 kigi


北海道旭川市の隣町・当麻町。
水田がどこまでも広がる風景を見渡せる山を整え、家を建て、パン屋さんをオープンしたご家族がいます。

オープンまでに10年の月日が経過しました。
なぜこの地に自宅とパン屋さんを?

今回筆者がお話を伺ったのは、北海道室蘭市出身の、林 紗弥子さん。
山がお好きで学生時代から20代頃までは、本州の山小屋で仕事をしていたのだとか。
クライミングが趣味で、同じ趣味をお持ちのご主人とは、山で知り合い結婚。
2010年に北海道・上富良野町へ移住されました。
紗弥子さんはこれまで天然酵母のベーカリーショップで働いたり、北海道上富良野町のお店でパンを作り販売していました。

丁度その頃、妊娠。上富良野町には産院がなく、旭川市内の助産院へ通われていたと言います。
そこで、当麻町に山を持っている方を紹介され、上富良野町から当麻町へ移住されました。

2011年から少しずつ山の手入れをスタートしたのです。
お二人の思いとご縁がつながって、当麻町の山に出会われました。

やめたいとは言えない…泥だらけになりながらの子育て

当麻町kigi

山は昔のまま、手つかずの状態でした。
重機を購入し、ご主人と紗弥子さん二人で少しずつ山を切り開きます。

生まれたばかりのお子さんを抱き、泥だらけのまま授乳したこともあるのだとか。
辛い、もうやめたい・・・と思ったことはなかったのでしょうか。

「やめたいと思っても、言えないんです。本当にわたし達にできるのかなと。
けれど、それを口にはできない・・・二人とも本当に一生懸命でした。
後には引けない、やるしかない、そんな思いで10年間やってきました。」

重機や工具を買い切り開くご主人。
朝はおにぎりをたくさん作っては山に行き、働く紗弥子さん。
趣味のクライミングは、高い場所を作業する際、とても役立ったと言います。

「家を建てる時、そこにはお店を一緒に作りたいと思っていました。北海道出身ですが、本州のパン屋さんで働き、北海道の小麦はとても貴重でおいしいということがわかったんです。だから家を建てお店を併設させられたらなぁと思っていました。
この素晴らしい当麻町の空気、景色の中で、そして、山で暮らして山でパン屋さんもできたら…と。」

ここまで来てくれる人のためにパンを作りたい。大切さをかみしめる

当麻

そうして2021年12月、「丘の上ベーカリー kigi」がオープンしました。
地元・当麻町「グリーンライフ」の有機小麦を製粉するところからパン作りはスタートします。

「パン作りは一人でやる作業なので、いまは質を落とさずあまり売り上げを求めずに作りたいと思っています。
このお店を探し、わざわざ来て下さるお客さまを大切にしたい。来て下さったという嬉しさや感謝の気持ちをかみめていたいんです。」

「もちろん営業しているので、売れ残ったりお客さんがあまりきてくれないと困るなと思います。けれど、焦る必要はない、長い目で見て行こうと。そう思わせてくれたのは、この10年の年月ですね。焦っても良いものは作れませんよね。世の中にあるいいものは、急いでは作れないんだと、目に見えないところこそ大切に作っていきたいんです。」

苦労した10年があるからこそ今がある、そういう心持は人間形成にもつながると紗弥子さんは言います。

時間をかけてパンを丁寧に作る、地元産の素材を使う、本当のおいしいものを提供する、その思いはこの10年が全ての土台になっているようです。

取材に伺った日も、オープン前から多くのお客さんが来店。
お客さんの誰もが楽しみにしているのが伝わってきました。

「焦ることはない」夢は石窯でのパン作り

当麻町 kigi

紗弥子さんには小学5年生と小学1年生の二人のお子さんがいます。
山は二人にとっての遊びの場。
うちっていいよね、とお子さんもここでの暮らしを気に入っているようです。

少しずつ完成していく家とお店を、地域の人も優しく見守ってくれました。
また、オープンしたときは当麻町として広報誌や動画などで取り上げ、応援してくれています。

「山での暮らしは皆さんが想像するようなゆったりとしたものではありません。夏は草取り、冬は除雪。野生動物もいます。薪割も生活する上で大切な仕事。それでも形になったのはとてもうれしかったです。
街の方も初めは何をしてるんだろう?という気持ちだったと思いますが、林さん、やってるね、頑張ってるね。と見守ってくださるようになりました。」

紗弥子さんにこれからの夢を聞いてみました。

「今は電気を使ってオーブンで焼いています。けれどいつかは石窯でパンを焼きたいんです。
遠赤外線効果はパンを持ち上げる力がある。熱を加えても水分は逃さないんですね。
味も質も全然違う魅力的なパンができるんです。
とっても憧れていますね。そのためにお店の床も土間にしてあるんです。」

”時間をかけてパンを作る”という思いは、きっといつか実現へとつながるでしょう。

店舗情報
丘の上のベーカリー kigi
住所:北海道上川郡当麻町北星3区
電話:090-2692-9273
営業日:木曜、土曜、11:00~16:00 売切れ次第閉店

文:炭本まみ

■ライタープロフィール
炭本まみ:北海道旭川市出身。保育士として10年勤務後、様々な仕事を経験し、フリーライターに。子育て・発達障害など保育士経験と子育て経験を基にした記事と、地元旭川、北海道の魅力をもっと地元民や道外の人に知ってもらえる記事を執筆中。