不動産に新しい価値を生み出す。 異業種企業をつないだ次世代のまちづくり。

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2022.06.28

東急グループにてコミュニティを軸にしたまちづくりに取り組む熊田さん。不動産ディベロッパーとしてまちづくりに取り組む中で、異業種企業との連携の大切さに気づいたと言います。熊田さんが考える、これからのまちづくり、不動産のあり方とは?お話を伺います。

熊田 雄介
くまだ ゆうすけ|東急株式会社 沿線開発事業部 開発第一グループ 品川担当
1979年生まれ。大学院卒業後、2004年に株式会社日本総合研究所入社。2007年に東急不動産株式会社に入り、商業施設の開発やアクイジション業務に従事。不動産事業の次世代化に向けたデジタル施策の検討や異業種企業協業を推進。2021年より東急株式会社へ出向し、品川区エリアの沿線開発を担当。五反田バレーへの参画、大井町のカフェ「PARK COFFEE」の開業など様々な視点から新たなまちづくりを模索する。

目標を探し、視野を広げる

岐阜県岐阜市に生まれました。小さい頃から両親に、「勉強をしなさい」とよく言われていました。テストの点数が悪いと怒られるので、小中学校時代は勉強を必死で頑張りましたね。大変でしたが、100点をとれると喜んでもらえるし、自分も褒められて嬉しい。だからまた勉強する、という良い循環ができていました。高校受験でも努力が実を結び、地元の進学校へ入学することができたんです。

両親はとても喜んでくれましたが、大学進学以降のキャリアパスについては、ほとんど何も言われなかったので、自分自身で考えていくしかありませんでした。しかし、地元は東京や大阪からも離れた岐阜。情報が少なく、周辺にロールモデルもいなかったため、次の目標が立てられない状況でしたね。

そこでまずは自分の視野を広げようと、名古屋の大学に進学し、いろいろなことを体験してみることにしました。自分の知らない世界を見てみたいと思って、キャバクラのバイトをしたりもしましたね(笑)。様々な人間ドラマが生まれる世界を目の当たりにして、価値観が広がりました。

新しい価値を生み出すことが目標に

大学院に進み、就職を見据えて業界研究をはじめました。工学系の研究室だったので、周囲は大手自動車メーカーに入って車をつくりたいと考える人が多かったです。でも私はそれにはあまり惹かれず、世の中に次々と生み出される新しいサービスやビジネスに興味を惹かれました。加えて、一度は東京に住んでみたいという憧れがありましたね。東京は日本の経済の中心地。そこで仕事をしてみたい気持ちがありました。

東京で新しいものを生み出す人になりたい。そう思いましたが、具体的なロールモデルは見つけられず、それがどんな仕事なのかはわかりませんでした。想いが叶えられそうな企業に入ろうと、東京のシンクタンクに就職することに決めたのです。

「IT革命」という言葉が世の中に飛び交っていた時期。入社するとシステム開発のプロジェクトをいくつも任せられました。ただ、私がすべきことはオーダーされたシステムが期日内に完成するようプロジェクトを回すだけで、作ったシステムがどう使われて何が変わったのかが見えにくい環境でした。そのため、より高い視座で社会を見てみたいと思い、転職を考えました。

その頃ちょうど渋谷に行くことがあり、再開発で街が大きく変わっていく様子に魅力を感じていました。折良く東急不動産株式会社を紹介され、まちづくりに携わるのも面白いかもしれない、と感じて入社することに決めました。

アライアンスの重要性への気づき

未経験だったので、まずは不動産業界のことを覚えていきました。土地の購入、建物の建築、不動産のオペレーション…インプットしなければならないことはたくさんありました。やがて、大型の不動産の開発や売買を担当するように。都内の大型商業施設を購入し販売する、百億円単位の仕事もありました。

そんな中、2016年ごろに羽田空港における行政提案コンペを担当することになりました。その土地を使ってどんな街を作るか、ディベロッパーが複数の企業アライアンスを組んで事業提案をしていくコンペです。

かなり広大な土地だったので、様々な企業や団体と連携して、事業案を考えていきました。
羽田空港は日本の中でもトップの空港。そこにできる施設には、ものすごい可能性があると感じました。日本の玄関口である空港に何があると良いかを考え、構想を練っていったんです。

産業支援をするラボ型のオフィスを建ててはどうか。ITを使って公共交通機関を結びつけるMaaSのシステムを導入したらどうか。新鮮な野菜や稀少な果物が味わえる場外市場をつくってはどうか。そんないくつかの案を土台に、複合的なまちづくりを考えました。

これらは自社だけではできません。異業種の企業に協力をお願いしていきました。他社との連携は難しかったですね。例えば、音楽業界の企業さんに話をしにいくと、使っている言語が違うし、ものを考えるときの時間軸も違うんです。不動産会社はよく「10年」くらいのスパンで物事を考えますが、音楽業界の人は流行を相手にしていますから「10年」先はさすがに分からない。相手の視点に立って、相手のメリットを考えて話をする必要があるのだと学びました。

様々な業界のことを知ってその企業の視点に立って考える経験は、自分の視野が広がるようで楽しかったですね。そしてそれ以上に、異業種の企業が集まることで、こんなに面白いことができるのか、と感動したんです。多種多様なリソースが集まって何かを作ることのすごさに気がつきました。

結局、残念ながらコンペには負けてしまいました。ただそこから、これまでより社外に目が向くようになったのです。他社ときちんと会話をしてアライアンス、つまりお互いに利益を生み出す協力体制を組むことによって、新しい価値を生み出すことができると知りました。

次世代の不動産とは?海外での学び

その後、次世代型の不動産開発を考えるプロジェクトに参加することになりました。当社の社員に加え、アメリカのコンサルティング会社のチームとともに進めるプロジェクトです。その中で、1カ月ほどアメリカに滞在することに。サンフランシスコに行く機会があり、数々のスタートアップが生まれているシリコンバレーを訪れました。

当時はまだスーツにネクタイ、革靴で定時出勤が当たり前だった私たちと比べ、シリコンバレーでは多くの人が自由な服装をしてスニーカーを履き、勤務中にカフェに行ってリラックスして仕事をしていました。

次々とイノベーティブな企業が生まれているアメリカの、ビジネスの最先端の地に身を置いてみると、イノベーティブな取り組みを行うためには、ワークスタイルをはじめ、様々な仕事のやり方を変えていかないといけないのだなと痛感しました。

ある意味かぶれた発想ではあるのですが(笑)しかし、アメリカに滞在し、ワークショップを通じて次世代の不動産事業を考え続ける経験は、自分にとって考え方が大きく変わる転機になりました。刺激を受けながら帰国し、社内のチームで次世代の不動産事業を考えるためのコンセプトを立案しました。

コンセプトを具体的な取り組みにしていくため、国内でパートナーを探すようになりました。個人としても人脈を広げようと考え、多くのスタートアップとお会いし、大企業の若手中堅社員の実践コミュニティ「ONE JAPAN」にも参加するようになりました。

不動産業界の常識に挑む

次世代の不動産を考えていく中で、様々な検証をしました。例えば不動産の貸し方。通常、店舗に不動産を貸すときは3〜5年単位で契約します。しかしそれを、2週間など短期にしてみるとどうなるか試してみました。

他にも、賃貸先店舗の在庫管理サービスを提供したり、インフルエンサーを店員として送り込みプロモーションを実施したりと、通常は賃貸先店舗が実施する内容にまで踏み込んで様々試していきました。

不動産業界のこれまでの常識だと「そんなことしないよね」と思われていたことに、収益の可能性を見出しチャレンジすることは、私たちにとってはイノベーションでした。周囲の企業の方々も我々の取り組みを見て「一緒にやりたい」と言ってくださる方が多くいました。

ただ、会社からは一定の結果を求められます。私たちも初めてのことを検証しているし状況も変わっていくので、事業化までの明確なロードマップを描くのがとても難しかったですね。大企業で新規事業を進める人は同じような課題を持っているのではないかと思います。

コミュニティで不動産に新たな価値を

この連載記事は、自分らしく生きたい人へ向けた人生経験のシェアリングサービス「another life.」からのコンテンツ提供でお届けしています。※このインタビューはanother life.にて、2022年4月28日に公開されたものです。

取り組みを続ける中で、循環型ファッションの実現を目指すファッションコミュニティを立ち上げることになりました。ファッション業界では、衣服の大量消費・大量廃棄が課題。それを解決すべく、在庫を再活用する取り組みを考えたのです。

まずアパレルブランドと連携し、洋服や雑貨類の在庫を提供してもらいます。服作りに興味のあるアーティスト、デザイナーたちから成るコミュニティメンバーが、提供してもらった衣服を使って、新しい作品を作っていくコミュニティです。コミュニティメンバーたちには、提供いただいたブランドの歴史やストーリーを知った上で、それを踏まえて作品を作ってもらいます。そうすることで新しい価値が生まれ、衣服の循環ができると考えました。

この取り組みには多くの有名ブランドに参加していただき、2021年には表参道にコミュニティの拠点となる「New Make Labo」をオープンすることができました。現在ではコミュニティのフォロワーは約7千人にまで増加。コミュニティが不動産に価値を生む、一つの例を作ることができたと感じています。

協業で生み出す価値をまちづくりへ

今は、東急不動産株式会社から東急株式会社に出向し、品川区エリアの沿線開発を担当しています。

2021年10月には、品川区における重点エリアである大井町駅の近くに「PARK COFFEE」というカフェをオープンさせました。このカフェを地域の拠点とし、街づくりに賛同してくれる仲間が集うコミュニティを生み出していきたいと考えています。

地域コミュニティを形成するために、様々な切り口でのイベントを実施しています。例えば、この地域に住むママさんたち向けの出産や子育てに関して話し合える座談会、簡単なワークショップなどを開催したりしています。

また、SDGsにも積極的に取り組んでいます。社会課題である食品ロス・フードロス削減に取り組む株式会社ロスゼロさんや株式会社クラダシさんと一緒に、カフェでロスフードの販売会を実施しました。通常廃棄されてしまう食品を店頭で販売しながら、来店したお客様に日本で起きているフードロスの現状を知っていただく取り組みです。

これらは、大企業の若手中堅社員の実践コミュニティ「ONE JAPAN」のプログラムをきっかけに連携が生まれ、「フードロス削減」というテーマに関心がある方とのつながりを作ることができたと感じています。

私はずっと不動産ディベロッパーとして仕事をしてきました。建物を作れば人が来る時代もありましたが、これからの不動産は、建物を作るだけでなく、その場所に来ていただく目的まで設計していかなければなりません。目的というと固い言葉ですが、みんな、楽しいことがあるから、好きなものがあるから出かけますよね。そんな楽しさ、好きを持って集まれる場所を不動産開発の一環として作っていくべきだと思うのです。それこそが不動産の新たな価値となります。

そのためには、様々な企業や団体との連携が必要不可欠です。常にアンテナを高くし、様々な方々との協業を新たな価値に繋げ、次世代のまちづくりに貢献していきたいと思っています。

この連載記事は、自分らしく生きたい人へ向けた人生経験のシェアリングサービス「another life.」からのコンテンツ提供でお届けしています。※このインタビューはanother life.にて、2021年12月27日に公開されたものです。

インタビュー・ライティング:粟村 千愛