沖縄県中部に位置する北中城村。ここに工房兼ショップを構える「ガラス工房ブンタロウ」。「One corner of the studio〜工房の片隅で〜」と題し、県内作家の作品を集めた企画展が行われた。コンセプトは“再生”。このイベントに込めた想いを工房店主、壷内さんに聞いた。

新しく作るのではなく、今あるものを活用する
きっかけは、日々の作品をつくる上で製品化に至らなかった試作品。
工房の片隅で眠ってしまっている作品を出品できないかと、廃瓶や窓ガラスの廃材などを原料に制作している県内5工房に呼びかけた。
試作品と言っても、会場に並べられた作品はどれも各作家の個性が光る魅力溢れるものばかり。いつもと違う手法を試してみたり、少し変わった製法で作られた作品はこの展示会でしか手に入らないものもある。
「自分自身、新しく何かを創造するタイプではなく、今あるものを活用してこの業界を盛り上げることができないかと考えました」と壷内さんは話してくれた。
企画展には各工房からお皿やグラスなど約100点の作品が集まった。
参加した工房はこちら
◆ガラス工房ブンタロウ(壷内 文太/北中城村)


◆亜sian.h(津波古 亜希/南城市)

◆ガラス工房ロブスト(池田 章洋/うるま市)

◆再生ガラス工房てとてと(松本 栄/うるま市)


◆琉球ガラス工房glass32(具志堅 充/名護市)

「この企画自体が実験的でもある」
と話す壷内さん。販売手数料などは取らず、売り上げは全額各作家に渡すことで、新型コロナウイルスで影響を受けた工房を支援したいという。
想いとガラスを再生する
ガラス工房ブンタロウ店内には、作品と一緒にたくさんの廃瓶が並べられており、壷内さんは日々この廃瓶を使用して様々な作品を生み出している。


壷内さんの現在のルーツは南洋の島、パラオにあるという。
岡山県出身の壷内さんは、大学時代を沖縄で過ごし土木を学ぶ。
その頃から“みんなに喜んでもらえるものを考えるより、誰か1人のひとに喜んでもらえるものづくりがしたい”という気持ちが芽生えたそうだ。
大学卒業後、秋田で2年間ガラスについて学び、沖縄へ戻ってからは見習いとして工房で働いた。
転機となったのは、29歳の時に先輩に誘われてガラス工房を立ち上げるため1年間パラオへ行ったことだった。
そこで初めて再生ガラスと出会う。
パラオでは「リサイクル」に対して当時は日本ほど関心がなく、まだまだ意識が浸透していなかった。
現地スタッフに廃瓶を使ったガラス工芸の指導をしながら、一般の人達にガラスを通してリサイクルを啓蒙する事にも尽力した。
そういった活動の中で自分自身が国の在り方を変える為の一助になった実感があったと言う。
その時の気持ちから「ガラスっていろんな事ができるかもしれない。今やれることを全てやろう」と心に決めて沖縄へ戻り、まずは“ガラスを知ってもらう為の場所”として「glass gallery hub(グラスギャラリーハブ)」を2017年にopenした。
「Openから2年間、仕事をしていく中で自分に求められている事とやれる事が段々と分かってきました。そしてガラスの魅力や楽しさを知ってもらうには
まずは自分を知って興味をもってもらわないと自分が素敵だと思っていることに目を向けてもらえないと気づいたんです」と話す壺内さん。
そして“自分を知ってもらう為の場所”として2019年、「ガラス工房ブンタロウ」に屋号を変更。
“ブンタロウ”は自分のアイデンティティに関わる高祖父(祖父の祖父)の名前を使わせてもらったのだそう。
現在は再生ガラスを扱った作品作りの傍ら、壷内さんの中にある想いが芽生えた。
「つくり手というのはどうしても仕事場でモノに対して向き合っている時間が多く、『伝える事』が得意でない人が多いように感じます。
自分は伝える事にも興味があるので、そこを活かしてつくり手とお客様を繋げる事をしていきたいという想いがあります。今回の企画もその中の一つだと思っています。
現在は月の半分を制作の時間に充てて、もう半分は『伝える事』の勉強のために時間を使っています。
まだ自分に何ができるか分からないですが、自身がつくり手だからこそ見えたり感じたりすることを伝えていけたらいいなと思っています。」
プロフィール
壷内文太(つぼうち ぶんた)
岡山県出身。29歳で単身パラオへ渡り再生ガラスと出会う。沖縄へ帰国後、2017年北中城村で「glass gallery hub」をopen。その後2019年に「ガラス工房ブンタロウ」へ屋号を変更、現在に至る。