移住先での新生活に期待をふくらませていても、いざ引っ越してみると、想定外のことに戸惑うことも多いのではないだろうか。2018年に岡山市へ拠点を移し横浜市との2拠点生活を始めたうめたになみさんが、最初にぶつかったのは情報収集の難しさだという。知り合いのいない土地で知識も薄い中、「自分が知りたいこと」にたどり着くには。うめたにさんが実践した方法を聞いた。
再婚を機に岡山へ。横浜との2拠点生活をスタート
2018年6月。再婚を機に、夫の地元である岡山市へ引っ越してきたうめたにさん。横浜市では、成人した娘・息子と自分の両親と一緒に、二世帯住宅に住んでいたという。移住は大きな決断だったのではないだろうか。
うめたにさん「再婚もそうですが、自分の人生にとって転換期で『私はこうじゃないといけない』という殻を破りたかったというか。子どもたちも社会人になり一人暮らしも視野に入れ始めたタイミングで、私の岡山行きも背中を押してくれました」
そもそも、うめたにさん自身には「移住」という認識はあまりなかったという。2~3カ月に1度は横浜に帰り、双方を行き来する2拠点生活をイメージしていたので、“ちょっと旅して暮らす”ように思っていたそうだ。
うめたにさん「今でも一応2拠点生活のつもりですが、コロナ禍でほとんど横浜には帰れていませんね。2020年は2回だけでした」
岡山には夫以外に知り合いはおらず全くの新天地。不安もあったが、これから始まる穏やかな生活を楽しみに引っ越してきたという。
うめたにさん「岡山駅前は横浜とそう印象は変わりませんでしたが、車で5分も走ると違いますね。特に夫と住む自宅は市街地から離れた郊外にあるので自然も多いし、空が高いなー!と思いました」
移住直後にぶつかった情報収集の壁
移住後しばらくは、夫と観光地に出かけたりカフェめぐりをしたりと、穏やかな暮らしを楽しんでいた。しかし横浜でも子育てNPOに在籍するなど活動的なうめたにさんは、岡山での新しい出会いやコミュニティの広がりを期待したのだが、これがなかなか難しかったそうで…。
うめたにさん「もちろん岡山に来る前にも来てからも、情報収集しようといろいろ調べていたんですが、知り合いもいないし知識もないので、自分が求める情報をうまく得られないんです」
観光センターや市のふれあいセンターなど公共の施設を回ってみても、観光地についての情報や一般的な生活情報は得られるが、うめたにさんが求めていたコミュニティや、キーマンとなる人、感度の高い情報には出会えなかったという。
観光以外の“地域の生きた情報”を得るには
知り合いがいない場合はどうしてもネットでの情報収集が主になるが、検索の仕方やキーワードが的確でないと、いつまでたっても自分の求める情報にたどりつかないとうめたにさんは話す。
うめたにさん「最初の頃は『岡山 引っ越し』と検索していたんですが、なかなか知りたい情報が見つからなかったんです。でも、検索ワードを『岡山 移住』に変えただけで、移住者のインタビューが出てきたりして、情報の幅が格段に広がりました」
これは単純なことのようで、意外に盲点かもしれない。というのは、住む場所を変えた人がみな自分を“移住者”と認識しているとは限らないからだ。
うめたにさん「たとえばものづくりや農業など目的があって移住した人ではなく、私のように結婚とか、あるいは転勤などで引っ越してきた場合は特に、自分が“移住者”という感覚がない。だから『岡山 引っ越し』とかで検索してしまっていたんです」
また、地域のリアルな情報はネットでは得られないことも多い。
うめたにさん「地元の人が当たり前、日常だと思っていることはあまり載っていないので、やっぱり人に会って話を聞くことが一番だと思いました」
実際に住んでみて感じた、移住先でのちょっとした戸惑いとは
意外だった車社会と物価
とにかく人に会い、地域のリアルな情報を得るために行動する中で、移住前には予想していなかったことがもう一つあった。
うめたにさん「岡山が意外に車社会なことにびっくりしました。当時は夫の車しかなく仕事に乗っていってしまうので、私はバスや電車を使って出かけていました。最近やっと自分の車を買いました。」
また、関東などに比べて物価が安いと思われがちだが、実はそうでもない。この点も、うめたにさんが岡山に実際住み始めてから感じたことだそう。
うめたにさん「野菜は農産物直売所だと安いんですが、スーパーだとそんなに安くはないですし、日用品は結構高いと思います」
こうした生活のリアルな事情は実際に住んでみないと分からないことであり、だからこそ、ネットだけではない人とのコミュニケーションが不可欠だとうめたにさんは言う。
あえて方言で話してもらう
人とコミュニケーションを深める上で、苦労したのが言葉の面。うめたにさんは幼少期から住み始めた横浜を一度も出たことがなく、移住直後は岡山弁の会話になかなかついていけなかったという。
うめたにさん「年配の方だと特に、ばーっと話されると頭が真っ白になって、何も理解できないということもありました(笑)。若い方だとそうでもないんですが、それでも分からない言葉が出てくると、聞き直していましたね。たとえば、『おえん』(=だめ、いけない)とかは、最初は全然分からなかったです」
岡山弁を学ぼうと書籍を読んだりもしたが、やはり理解するには実践が一番。
うめたにさん「人に会うたび『横浜から来たんです、いろいろ教えてください』と言ってまわってましたが、そうすると気を遣われて方言でお話されない方もいるので、その時はあえて『ぜひ方言でお話してください』とお願いして、分からない言葉を尋ねていました」
人とのつながりを求め、自ら立ち上げたコミュニティ
うめたにさんが岡山に移住して実感した、情報収集の難しさや知り合いのいない孤独感、生活する上でのちょっとした悩み。「これを解決するには、とにかく人に会うしかない」と、2019年に自ら始めたのが「岡山初心者の会」であり、その後に任意団体として設立した「cococara okayama (ココカラ オカヤマ)」だ(スタートから現在までのストーリーはこちら)。
うめたにさん「私と同じように悩む移住者たちと、地域の人とをつなぐ場として定着すると嬉しいですね」
2021年は新たなチャレンジも
岡山に引っ越して2年半が過ぎ、さまざまな壁を乗り越えながら挑戦を続けてきたうめたにさん。そして2021年は、岡山でできた仲間とともに、また新しいチャレンジを始めている。横浜で所属している子育てNPO「こまちぷらす」での経験を活かし、新たに任意団体『cotocoto.coto』を立ち上げ、子どもや親の居場所となるコミュニティの準備を進めているところだという。
うめたにさん「2021年4月に“つながる@home『ことこと』”をスタート予定です。子どもが大好きなので、子どもを真ん中にして誰でもがふらっと立ち寄れる場を作りたい。支援する側・される側ではなくて、それぞれの得意を活かして、リビングをみんなでシェアするような大きな家族みたいなコミュニティを目指します」
知り合いのいない移住先で陥りがちな、情報不足による孤独感や戸惑い。それを解決し充実した暮らしを楽しむには、ネットだけに頼らず、自ら地域や人と関わりを持とうとすることが必要なのかもしれない。
●「cocokara okayama」についての記事「移住先での孤独感を克服するには?実体験から生まれたコミュニティに取材」はこちらから