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連載 | テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか

未来をつくる問い

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1903年12月17日、ライト兄弟は世界初の有人動力による継続飛行に成功した。機体を操縦して飛んだといっても、12秒間、36メートル余り。技術的にも不安要素だらけで、安心して命を預けられるレベルではない。

だが、初飛行からわずか十数年で旅客機が飛び始める。「当時の旅客機にあなたは搭乗しますか?」と聞かれたら、どう答えるだろう。ライト兄弟が開発したライトフライヤー号よりも航空機の信頼性が向上しているとしても、興味本位のチャレンジャーを除けばほとんどの現代人が「NO」に違いない。飛行への命懸けの渇望が今日の航空機の進化を導き、身近な移動手段へと変えた。

ライト兄弟の快挙から約130年、2030年代には人工知能がさまざまな分野で人間の能力を超えると目されている。人工知能に関する研究をしていると、その未来が訪れることに違和感はない。すでに実感となっており、時間の問題だと考えている。

それは脅威ではなく、むしろ人工知能が人間の脳の底知れぬ力を炙り出し、お互いの能力を合わせて社会課題を解決していくようになる。複雑性を増す社会課題に対応するには、人工知能による「知能の補完」が必要不可欠になるからだ。

新しいテクノロジーやそれによって創造される未来像には疑いの目はつきものであり、満場一致で賛同される革新もない。実際、先端テクノロジーで仕立てられたコンセプトやプロダクトの多くが徒花となり、丸ごと記憶の外側へと散り去る。

では、テクノロジーの存在意義が見極められる根拠はどこにあり、誰が選別しているのか。

選別の主は手段としてのテクノロジーではなく人間にほかならず、人間にとっての必然性はあるか、残るに値する本質は存在するかが見極めの根拠となる。人間が命のリスクを負ってまで航空機にこだわったのは、世界の壁を越えることへの必然性や本質を捉えていたからこそであり、発明から果てしない時間を途切れることなく、意志をつないで発展させた。

人工知能も、人間が社会課題解決のための必然性を認めたならば、自ずと発展して未来をつくるパートナーになる。

アバターを操りながら三次元の仮想空間に生きることが、人間にとっての必然や本質であればメタバースの世界は確立するし、そうでなければ泡となる。人間がそれを未来へつれていく必然性はあるのか。たったひとつの自問自答で、人間とテクノロジーの未来は見えてくる。

7年にわたり、「テクノロジーは人間をどこへつれていくのか」という問いへの探究を続けてきた。当連載から生まれた拙著『未来のためのあたたかい思考法』(木楽舎)でも論じたとおり、やはり主語はテクノロジーではなく人間であり、「人間がテクノロジーをどこへつれていくのか」が本当の問いなのだ。テクノロジーをつれて未来をどう描くかは人間に委ねられており、責任の所在もわれわれ人間にある。

これにて連載の幕は閉じるが、問いへの答え探しは未来へと続き、それが未来をつくる。

文●小川和也

おがわ・かずや●アントレプレナー/フューチャリスト。アントレプレナーとしてイノベーションを起こし続ける一方、フューチャリストとしてテクノロジーに多角的な考察を重ねて未来のあり方を提言している。2017年、世界最高峰のマーケティングアワードである「DMA国際エコー賞」(現・ANA国際エコー賞)を受賞。北海道大学客員教授として人工知能の研究、沢井製薬テレビ・ラジオCM「ミライラボ」篇に出演し、薬の未来を提唱するなど、多方面でフューチャリストとして活動。人間とテクノロジーの未来を説いた著書『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は高等学校「現代文」の教科書をはじめとした多くの教材や入試問題にも採用され、テクノロジー教育を担う代表的論著に。近著『未来のためのあたたかい思考法』(木楽舎)では寓話的に未来の思考法を説く。

記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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