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場づくり・コミュニティ

分からなくて 愛おしい。朝倉圭一

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店内での過ごし方について、細かな注意を促す張り紙が貼られている。ここ数年で当たり前になった光景だが、時々、警告文のような強い語気のものと出合うことがある。僕はそのたびなんだが自分が責められているような気持ちになる。そんな折、街の本屋で、本書と出合った。 『他者と生きる-リスク・病い・死をめぐる人類学』は、統計から導かれた

数字や、著名人の死といった大衆の関心を惹く情報を用いて、病を未然に防ぐリスク管理型の医療では答えることができない「われわれはいかに生きるべきか」という問いに向き合い、他者との関係から生まれる確かな生の実感や、自分らしさといった多様な可能性に目をむけた一冊だ。

人は言葉が通じるがゆえに、他者と分かり合えると思い込みがちだが、親密な間柄でも理解し合えるとは限らない。その事実は残酷なことのようにも思えるが、そんなことはない。わが家の雄猫「玄米」(5歳)と言葉は通じないが、いつもテーブルの上でティッシュ箱を枕に寝ている彼に、何度も救われてきた。僕らは毎日、明確に必要とは言い切れないけど、なくてはならないものに囲まれて暮らしている。統計や誰かの経験では測ることのできない他者に対する愛おしさの根っこは、暮らしの中にいつも潜んでいる。

『他者と生きる-リスク・病い・死をめぐる人類学』

 (109296)

磯野真穂著、集英社刊
朝倉圭一
あさくら・けいいち●1984年生まれ、岐阜県高山市出身。民藝の器と私設図書館『やわい屋』店主。
移築した古民家で器を売りながら本を読んで暮らしている。「Podcast」にて「ちぐはぐ学入門」を配信。
text by Keiichi Asakura

記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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