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答えのない 日々に寄り添う。朝倉圭一

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黄金色に染まった稲穂が風に揺れている。今年も収穫の季節が来た。毎年続いてきた秋祭りは、3年目の中止が決まった。先日、祭りでしか会わない隣人と、街でばったり会った時、以前はどんな距離感で話をしていたか思い出せず、妙な空気になってしまった。集まって言葉を交わす時間の大切さを、しみじみと感じた。

何気ない日々に息苦しさを感じた時、読み返す一冊の本がある。「初期大乗仏教」の経典、維摩経。とらわれないことの大切さを説いた経典で、紀元2世紀に書かれたとされる非常に古い経典だ。以来、多くの解説や意訳がなされているが、平易かつ時代に寄り添う一冊として、釈徹宗著『維摩経─空と慈悲の物語 』を紹介することにする。維摩経では、善悪や損得のような、物事を単純に分けて考えることから離れ、時に頼り、頼られるの繰り返しの中で、天秤のように、互いがそのままで、均衡を保つバランスの在り処に意識を向けることが、大切だと説かれている。

「民藝」が日常生活の中で使い込まれた道具を、美しく育ったものだと捉えたように、時間をかけることでしか得られないものは実に多い。個々が分断されている今、変化や救いを求める焦る気持ちを抑えて、稲穂を揺らす風のような緩やかさで、焦ることなく揺れながら自分と社会との関係について、見直す時間にしたいなと、ゆらゆら飛ぶトンボを見ながら、そう思った。

『維摩経─空と慈悲の物語』

 (141212)

釈徹宗著、N H K出版刊
朝倉圭一
あさくら・けいいち●1984年生まれ、岐阜県高山市出身。民藝の器と私設図書館『やわい屋』店主。
移築した古民家で器を売りながら本を読んで暮らしている。「Podcast」にて「ちぐはぐ学入門」を配信。
text by Keiichi Asakura

記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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