地域のシンボルとして長く愛され続けてきた小学校が閉校になった。跡地は『東神楽大学』という、働く、学ぶ、遊ぶための複合施設に生まれ変わり、遠くから訪れる人や、地域の人たちに人生の“きっかけ”を提供しています!(写真:『東神楽大学』の学長を務める脇坂真吏さん(中央) と、陽気なスタッフたち。)
上/旧・東神楽町立忠栄小学校の入り口には、『東神楽大学』の看板が並んで立つ。東神楽町から月10万円で借り、シェアオフィスやシェアキッチン、ゲストハウスなど、働く、学ぶ、遊ぶためのさまざまな場を設けた複合施設として、学長の脇坂真吏さんが代表を務める『アグリイノベーションデザイン』が運営している。雪が解ける春、本格的にスタートする。右/玄関ホールには、ロッカールームを活用した「学長の本棚」が置かれている。扉に貼られた紙の答えとなる本がなかに入っていて、校舎内で読める。中/廊下には、1922年からの卒業写真が貼られている。子どもたちが自分の父母や祖父母を見つけて喜んでいるそう。左/教室から見える風景。北海道特有の屋根の雪が落ちやすいD型(屋根がDの字を横倒しした形)の建物が見える。
目次
月数万円も稼ぐ小学生が現れたら、おもしろいでしょ!
北海道のほぼ真ん中に位置する東神楽町。1990年に5763人だった人口は、2015年に倍近い1万317人に増えた。それは、隣接する旭川市のJR旭川駅に近いひじり野地区を宅地造成したことで、子育て世代が移住してきたから。ただ、町の人口は増えたものの、ひじり野地区や中央市街地区に集中した。一方で、『東神楽大学』がある忠栄地区など農村地帯の人口は減り、明治時代から続いた『忠栄小学校』も21年3月に閉校になってしまった。
そこで町は、旧・忠栄小学校の校舎などを利活用する事業者をプロポーザル方式で募集。16年度から東神楽町農業プロデューサーとして農業の活性化に取り組んでいた『アグリイノベーションデザイン』代表の脇坂真吏さんが手を挙げ、提案者として選ばれた。そして、国から助成された「デジタル田園都市国家構想推進交付金」の1億円を活用しながら改修をスタート。「大きな施設ですから、大幅な増改築を行ったら1億円なんてあっという間になくなります。地域のシンボルである小学校の記憶を残しつつ、DIYで節約しながら地道にリノベーションを行いました。教員住宅をゲストハウスに、教室をシェアオフィスやカフェにつくり替えていくうちに、僕のDIYスキルはレベル1からレベル20ぐらいに跳ね上がりましたよ」と学長の脇坂さんは冗談を交えながら、手づくり感あふれる『東神楽大学』を案内してくれた。
上/旧・理科室を活用したコワーキングスペース。2時間単位での利用と月単位の利用がある。つい実験がしたくなる雰囲気。右/旧・図書室はレンタルオフィスに。カウンターは何に使う? 中央/旧・校長室は4名ほどのレンタルオフィスに。左/旧・教室もレンタルオフィスに。学校だけに明るい室内。
『東神楽大学』には、まちに足りない要素や、まちを生かす要素を取り入れた学びや遊びを体験し、仕事に打ち込めるよう、さまざまなコンテンツが用意されている。そのコンテンツを脇坂さんは“きっかけ”と呼ぶ。「都会に比べると、東神楽で体験できる学びのきっかけは数が限られています。できるだけ多様で、質の高いきっかけを提供することで、東神楽に住む魅力や価値を引き上げ、外へ出た若者も東神楽に戻ってきたいと思うような場づくりをしようと、コンテンツを企画しています」。
上/旧・職員室を事務局として活用。脇坂さんや地域おこし協力隊隊員を含めて7名のスタッフが従事している。右/旧・音楽室はシェアスタジオに。カメラ、マイク、照明など動画配信に必要な機材が完備。セミナーの生配信やYouTube動画の撮影・編集などに使える。撮影配信のプロによる有料サポートも予定。左/Nゲージの線路も。自分の車両を持参し、走らせることもできる。
「コンテンツ=きっかけ」のなかでも、よりおもしろい可能性を秘めているのが「シェアキッチンです」と、脇坂さんは以前は給食室だった部屋の扉を開ける。菓子製造許可を取得しているのでお菓子とパン、サンドイッチをつくることができる。「たとえば、ここで小学生が親と一緒にお菓子づくりを学び、地元の食材を使ったクッキーやパンを上手に焼けるようになったら、購買部(売店)で委託販売もできます。あまりにおいしくて人気に火がつき、月数万円も稼ぐようになるかもしれませんよ。そんな小学生が町から現れたらおもしろいじゃないですか」と、真新しいキッチンに夢を描いた。
上/冬は雪に覆われる東神楽町にとって体育館は貴重なスポーツの場。先着順で予約利用できる。イベント会場としてもレンタルできる。右/更衣室だったスペースには卓球台を設置。レンタルで利用できる。左/中学、高校とバスケットボール部だった脇坂さん。『東神楽大学』では今、バスケットボール部とボッチャ部があり、部長を務めている。
“きっかけ” を増やすには、“掛け合わせ”と、地域の人!
まちに足りない要素として、宿泊施設も挙げられる。観光客の多くは旭川市のホテルか、町内の温泉施設に宿泊するのが常だそうだ。そこで、校庭の旧・教員住宅をゲストハウスにリノベーションすることに。床を張り替え、壁を塗り、2棟のゲストハウスが完成した。校長室と呼ばれる棟は、閉校になる直前まで校長先生が実際に住んでいたそうだ。建物の前には人気のテントサウナも設置した。
「旭川空港から車で約10分、JR旭川駅からは約30分。旭山動物園、富良野市、美瑛町、大雪山の山登りや、レンタルサイクルで自然を満喫するなど観光にも便利な立地にあるので、ぜひ宿泊してほしいです」と脇坂さん。さらに、「学びのきっかけを提供する仕組みとして、『クリエイターカレッジ』というコンテンツも設けています」とのこと。「アーティスト・イン・レジデンスに近いもので、利用の仕方によっては、クリエイターは最大1か月間無料で宿泊できます」。自然と田園に包まれたのどかな環境で、作品づくりや仕事に没頭しつつ、大学のワークショップやセミナーなどで自身のクリエイティビティを参加者に伝える“きっかけの提供者”にもなってもらう。
「アーティストでなくてもかまいません。クリエイターならどなたでもOKです。先生がユニークな物理の授業を開いてもいいし、自称・ユーチューバーが稼ぐ方法を伝授してもいい。僕らスタッフが『おもしろい!』と判断した人は、みんなクリエイターなのです」と微笑む脇坂さん。「先日も、国内外で演奏活動をしている19世紀につくられたギターの奏者の男性が宿泊されました。滞在中には、音楽好きの町内のお寺の住職と『仏法と演奏』と題して演奏会を行いました」。そんな、“きっかけの提供者”が世界中から泊まりにきてほしいと脇坂さんは期待する。
多様なきっかけを得るためには、「“掛け算”をおすすめします」と脇坂さん。「ゲストハウスに泊まりながらコワーキングスペースでワーケーションをするとか、繁忙期の農家を手伝うとか、体育館を借りてスポーツ合宿するとか。汗をかいた後のテントサウナは最高ですし。校庭に観光農園をつくる予定なので、朝摘んだ野菜を学食(カフェ)で調理して食べたり、また、キャンプ場もつくるので、キャンプをしながら星空ツアーに参加したり。利用者が使い方を”掛け合わせ“、『東神楽大学』がハブとなってつないだ地域の人と交流しながら、ワクワクを何倍にも膨らませてほしいです」。
遠くから訪れる人だけでなく、地域の人にも『東神楽大学』をどんどん利用してほしいと言う。「とっておきの企画があります。地域の大人たちの生き方を学ぶ講座です。東神楽町には農家の人、中小企業の経営者、役場職員、さらには町長と、おもしろい大人が大勢います。『若い頃はこんなことに夢中だった』とか、『実はこんなレアな趣味を持っています』とか、地域の大人たちの隠れた一面や生きざまを、セミナーで語っていただきたいのです。特に子どもたちに向けて」と脇坂さん。
「町の人口はまた1万人を割り込みました。子どもたちが地元に残る、あるいは、都会へ出ても戻ってくるという選択肢を持つきっかけとして、『東神楽にもこんなおもしろい大人がいて、会社があるんだ』と記憶に刻みたいのです。僕が知っているだけで20〜30人はいますから、月1回で2年分は企画できますよ」と笑顔で語った。
使い方の掛け算と地域の人とのつながりによって、都会以上のきっかけが得られる『東神楽大学』で、皆さんも学んでみては?
『東神楽大学』・脇坂真吏さんが気になる、学びを楽しむコンテンツ。
Twitter:PR TIMES
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プレスリリースを発信するサイト「PR TIMES」のツイッター。見ているだけで、世の中の新商品とトレンドが素早くキャッチできます。地方と都市の情報格差を埋めるためにもトレンドをつかむことが大事です。
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Book:すべての働く人のための新しい経営学
三谷宏治著、ディスカヴァー・トゥエンティワン刊
会社を経営するうえで、毎年1冊は経営に関する本を読みますが、その一冊です。経営に必要なスキームや学ばなければいけないことが体系立てられ、わかりやすく書かれています。これから経営を学ぼうとする人にもオススメ。
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Book:企業の「成長の壁」を突破する改革 顧客起点の経営
西口一希著、日経BP刊
自分たちにとってお客様は誰で、お客様は何を価値としているかなど、「お客様とは何か?」を、シンプルな3つのフレームワークを使い、わかりやすく説明しています。『東神楽大学』の立ち上げ中に読み、ためになりました。
西口一希著、日経BP刊
自分たちにとってお客様は誰で、お客様は何を価値としているかなど、「お客様とは何か?」を、シンプルな3つのフレームワークを使い、わかりやすく説明しています。『東神楽大学』の立ち上げ中に読み、ためになりました。
photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2023年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。