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特集 | かっこいい農業 これからの日本らしい農業のあり方 !

東京農工大学大学院農学研究院准教授|井上真紀さんが選ぶ、「農度」を高める本5冊

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昆虫と植物、微生物の「生物間相互作用」を研究している井上真紀さん。年に何回かは虫を捕りに、学生と一緒に野山を駆け回っているそうだ。そんな井上さんが「もっと虫を知ってほしい」と、本棚から取り出した本がこちら。

東京農工大学大学院農学研究院准教授|井上真紀さんが選ぶ、「農度」を高める本5冊

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(左上から時計回りに)2.『わたしたちのカメムシずかん ─やっかいものが宝ものになった話』/1.『「ただの虫」を無視しない農業 ─生物多様性管理』/3.『応用昆虫学』/4.『花と昆虫、不思議なだましあい発見記』/5.『あっ! ハチがいる! ─世界のハチとハチの巣とハチの生活』 
 田畑に被害を及ぼす害虫を根絶させようと農薬を撒けば、害虫の数を大幅に減らすことができます。ただ、農薬に耐性を持った害虫は生き残ります。さらに、害虫の天敵である益虫まで農薬で駆除することになるため、生き残った害虫は天敵のいない環境下で急激に数を増やすという悪循環が繰り返されてきたのが従来の農業です。

 そこで導入されたのが、IPM(総合的病害虫・雑草管理)という考え方です。害虫の駆除を化学農薬だけに頼るのではなく、生物農薬(害虫の天敵)などを活用し、根絶ではなく多少は害虫が生き残っても、経済的被害がある程度抑えられたらよしとする方法です。農薬散布による農家の健康被害も軽減されます。

 IPMの考え方をベースにしながら、『「ただの虫」を無視しない農業』の中で著者は、IBM(総合的生物多様性管理)という新しい考え方を提唱しています。水田や畑には多様な生き物が暮らしています。たとえば、害虫の天敵であるクモが生きやすい環境をつくることで、天敵としての力を最大限に発揮させつつ、そのぶん農薬は最小限に抑える。昆虫も植物も、生き物全体を育てる農地を目指すことが未来の農業のあり方だと著者は主張しています。

 そこで重要になるのが、「ただの虫」です。天敵の活躍で、害虫が田畑を害しない程度の数まで減れば、それは「ただの虫」です。害虫を「ただの虫」にすることが害虫管理の目指すところと、著者は述べています。

 もう一冊は、岩手県・葛巻町の小学校であった実話を絵本にした『わたしたちのカメムシずかん』です。葛巻町は寒いので、冬が近づくとたくさんのカメムシが暖かい校舎の中に入ってきます。児童たちはそのカメムシを嫌々ながらホウキで掃き集め、外へ出すのですが、校長先生の提案によってカメムシのことを調べてみることになりました。児童たちは調べていくうちに、嫌いだったカメムシが、色、模様、形などさまざまな種類があることに気づきます。結果、1年間で35種類のカメムシを見つけ、「カメムシずかん」をつくることになるのですが、その顛末が描かれています。

 カメムシは臭いも放つため、多くの人から嫌われている虫ですが、農業の世界では害虫を食べる益虫として販売もされています。嫌って排除するのではなく、虫に興味を持つことの大切さや、虫の多様性を知るためのユニークな題材としておすすめしたい絵本です。

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いのうえ・まき●東京農工大学大学院農学研究院准教授。研究対象は、社会性昆虫、防除生態学、進化生態学、昆虫病理学。昆虫をめぐる微生物や植物の適応戦略の解明に関する研究、昆虫とその他の生き物の生物間相互作用と共進化に関する研究に従事。
photographs by Yuichi Maruya text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2022年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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