ドライブインの輝き。
今回紹介するリトルプレスは『月刊ドライブインvol.3』。日本全国に今でも残るドライブインを旅して回り、そこで出会った店主にインタビューし、まとめたリトルプレス。
著者の橋本倫史さんは、2011年の夏頃からドライブイン巡りを始めた。その後閉店していく店が6年の間に何軒もあり、このままにしておくと「いよいよ記録できなくなるかもしれない」と、そんな焦りもあって、ひとりで取材・撮影・執筆・発行までを担当する『月刊ドライブイン』を創刊した。
第1号、第2号には、ドライブインの店主に、歴史や物語をロングインタビューした文章と、ドライブイン独特の装飾を持つ建物や、店主を写したモノクロ写真が掲載されている。
第3号の前半は趣が少し変わり、「一九六六年のピザハウス かつて都心にドライブインがあった」と題し、1949年生まれの編集者・亀和田武さんに、1960年代、都心のドライブインにまつわるインタビューをしている。
亀和田さんは、高校3年生だった66年、友人が運転する車に乗って訪れた渋谷の『ジロー』に衝撃を受ける。
シャンソン喫茶から始まった『ジロー』は、食事も提供するアメリカのコーヒーショップのような形態となり、ホットケーキをいち早く提供し始める。その後、アメリカのピザが楽しめる『ジローピザハウス』へと変わっていく。
『ニコラス』『キャンティ』『ハンバーガーイン』など、アメリカの外食文化を日本に持ち込み、伝説となった店の紹介ののち、日本にドライブインができた経緯が語られる。
日本でドライブインが輝いていた時代は、アメリカがまだ遠かった時代。多くの人が憧れていた時代。そのアメリカが身近になるにつれ、輝きが失われ、ほかの業態に変わっていった。
それでも今なお残っている店は、その場所の歴史を受け継ぐ店主が、営業を続けている店が多い。
第3号の後半は、神奈川県平塚市にある『ペッパーズドライブイン』。クリームソーダやコカ・コーラの看板が掲げられた外観は、アメリカをそのまま切り取ってきたようにも見える。
オーナーの小川秀規さんへのインタビューは、店を始めた経緯から、アメリカを感じさせる外観や内装の理由。アメリカとは一見関係ないようなカレーを提供することになった発端。日本のソウルフードのようなカレーがアメリカ人の客に受け入れられている理由まで明らかにする。
橋本さんが、街道沿いに残るドライブイン一軒一軒の物語を拾い集めていき、忘れられつつある戦後から今に至る地域の歴史、人々の暮らしや価値観、家族とはなにかが明らかになっていく。
アメリカとの関わりのなかで、生まれ変わった日本という社会の姿が、改めて浮かび上がってくる。
『月刊ドライブイン』著者より一言
ドライブインの存在に気づいたのは、原付で全国を巡っていた時のこと。一度も入ったことはありませんでしたが、全国にドライブインは残っていました。それぞれのドライブインの興亡を辿れば、日本の戦後の姿が見えてくるのではないかと思っています。
今月のおすすめリトルプレス
『月刊ドライブイン vol.3』
日本全国に残る、ドライブインで働く人に取材したルポルタージュ。
取材・撮影・文:橋本倫史
2017年6月発行、148×210ミリ(40ページ)、500円