本屋の楽しみを本屋が解説。
今回紹介するリトルプレスは、451ブックス(つまり、僕です)が編集・デザインした『本楽1(本屋に行くと、楽しいことがある。)』。
岡山・香川・広島・兵庫などの書店を中心に49の店舗が出店する本のイベント「イチョウ並木の本まつり」の会場で、来場者に配布するために作った小冊子。
このイベントを主催したのは、本屋を営む有志による「瀬戸内ブッククルーズ」。
出版不況といわれ、販売も書店の数も減少が止まらない昨今、本屋の魅力を知ってもらい、本屋に来てもらうために製作した本。
インターネット書店の便利さや品揃えに押され、大型書店のような品揃えもなく、生き残る術がないように思われている今だからこそ、僕は小さな書店の魅力があると思う。
SANAAが設計した『Jテラスカフェ』を会場に開催した2日間は、約1400人の来場があり、意中の本を見つけたり、店主と言葉を交わしたり、ウンチクにふれられ、本をテーマに企画したイベントや、ワークショップなどでも、多くの楽しそうな表情を見ることができた。
そう、本は楽しい。
小冊子を作るにあたり、本に関わる人たち(書店主、編集者、出版社、作者)に原稿を依頼した。
本屋が青春ドラマの舞台だったことを書いてくれたのは、岡山の出版社、吉備人出版の山川隆之さん。今年を「読書元年」にするための方法について書いてくれたのは、ホホホ座の山下賢二さん。倉敷の古書店、蟲文庫の田中美穂さんは、本と本屋から始まったおもしろいこと。リトルプレスの作者、森田晃平さんは、本屋が光って見える理由を書いてくれた。小説家志望だった岡山の古本屋、古本斑猫軒の渡邉賢二くんには短編小説を依頼。
小さな書店がどうやってできたのかをインタビューしたのは、岡山の古書店ブリゼ、などなど。
インターネットで本を検索して目的の本を見つけ、履歴から抽出されたオススメが表示される。しかし、その検索結果やオススメは、興味のある範囲にとどまり、広告主の誘導に左右され、考え方や、手に入れる情報が偏る。
一方、リアルな本屋にはさまざまな本が並び、普段気がつかないものも目に入る。また、店主の趣向で選ばれた本や、個性的な本が並ぶ書店もあり、それまで関心のなかった世界、異なる価値観に出合う可能性がある。
誰が選んだか分からない匿名性の中で選ぶのではなく、目の前の店主や店員が選んだ本が並ぶ棚。
知らなかった世界を知ることは、驚きとともに多様性を育み、それを「楽しい」と感じてほしい。「本屋に行くと、楽しいことがある」と、僕たちは信じている。
『本楽1(本屋に行くと、楽しいことがある。)』発行人より一言
「瀬戸内ブッククルーズ」は、岡山・香川・広島・兵庫などの小さな本屋を応援しています。本との出合いが、それぞれのただひとつの体験になる。店主の個性と、本との偶然の出合いを、「本のイベント」と「本楽」をとおして感じてもらえればと思っています。
今月のおすすめリトルプレス
『本楽1(本屋に行くと、楽しいことがある。)』
本と本屋を楽しむためのリトルプレス。
編集:451ブックス・根木慶太郎
発行:瀬戸内ブッククルーズ実行委員会
2017年12月発行、148×210ミリ(26ページ)、300円