奈良県の靴ブランド『TOUN』で初めて一からスニーカーをデザインしたという山野さん。靴、ファッション、歩く、機能、道具、自立……靴を取り巻くさまざまなキーワードから山野さんが選び出した5冊は、どれも人の営みや生きることそのものの強さをも感じさせる本だ。
山野英之さんが選ぶ、靴×ローカルデザインのアイデア本5冊
『(un)FASHION』は、ファッションではなく道具として身に纏うモノのあり方を調査した写真集です。「世界の日常の服」という感じですね。どうしてこの服を着ることが必然なのか? では、履物は? 服についての基本をもう一度考えるきっかけになりました。
『靴のおはなし』は、靴についてのエッセイ本で、奈良市の靴会社『NAOT』の出版部門『ループ舎』で発行されています。ブランドのあり方、活動の仕方のひとつとしてアウトプットしたものが本だった、というのがいいですよね。
また、『TOUN』のデザインにあたっては、もともと奈良県にある技術と歴史、そして機能の3点を軸にアイディアを組み立てていきました。靴に限ったことではありませんが、ものをつくるとき、機能の中にはつくり手がもともと意図していたことと、意図していなかったことがあります。その意図しないことを別の角度から考察してみるのは意義のあることでは、と読んだのが『路上觀察學入門』です。考現学の一種ともいえそうですが、散歩をしていて目についたまちの意図されていないものを、素直に観察して愛でる。今回は靴をつくるということで路上の本を選びましたが、こういった客観的なまなざしを意識するのは、何をつくるにも必要ではないでしょうか。
道具とのつき合い方を突き詰めて考えさせてくれるのが、『草のつるぎ・一滴の夏』。道具というのは本来、使う側が自意識を持ってつき合っていくものです。しかしいい道具というのは、そういう意思さえも気づかぬうちに呑み込んでしまうような、いわば道具としての正義がある。その戦いを書いている作品です。
『レイリ』は、戦で家族を失った「死にたがり」の少女の話。主君の影武者としてさまざまな出会いや別れを繰り返し、やがてもう一度歩き出すことを選ぶようになります。主人公の名前「レイリ」は「零里」なのですが、それが1里、2里と自分の足で歩き出すようになる。距離、自分の足で歩く、自立といったテーマが好きでこの本を選びました。