「ローカルの仕事で必要なのは、整理されていない問題を解決する能力」と話す木下斉さん。その能力を養い、今の自分の立ち位置を確認するためにも、過去を「整理」した本を読み、地域や日本の歴史を知ることが大切だと、この5冊の本を順番に読むよう勧めてくれました。
1冊目は、『補注 報徳記』。二宮金次郎(尊徳)の伝記です。二宮金次郎と言えば、薪を背負いながら本を読む少年の像が思い浮かびますが、何をやった人か知らない人も多いのではないでしょうか。今、盛んに取り組まれている地域活性化を江戸後期に実践し、人口減少ステージにあった、主に北関東から東北地方の600以上の農村の再生に携わった人です。本にはそのエピソードが多数、書かれています。江戸後期は藩、今で言う地方自治体の財政が逼迫していたため、増税ばかり行われていました。多くの年貢を取られる庶民の就労意識は失せ、特に若者は稼げるまちへ移住。人口が減少した地域では新規就農者を外から募るも、既存の住民とトラブルが発生。「今と同じじゃん」という内容に驚きつつ、そんな地域の財政を立て直し、農村の再生事業を展開した二宮金次郎の手腕に感嘆します。若い人たちもこの本を読むことで、約200年前に地域で活躍した二宮金次郎から「見えないバトン」を渡されて、今ここに立っているという気持ちにさせられるでしょう。
2冊目は『明治維新1858‐1881』で、3冊目が『都市の魅力学』です。「出生率の低下」「止まらない地方の過疎化」とメディアは報じますが、なぜそうなってきたかに目を向けようとはしません。地方が魅力を失った理由は、東京一極集中のせいではないというのがこの本の論拠です。ザクッと言うと、地方は自らイノベーションを起こす気がなかったがために衰退し、住民からも支持されず、若者が出ていくのだという、至極当たり前のことを経済産業論の観点から述べた本です。太平洋戦争以前は、地方都市も独自の発展を遂げようとし、100年単位で地域の未来を考える人が大勢いました。ところが今や、ふるさと納税でいくら集まったとか、移住者が何人とか、短期で成果を上げることが地域活性化だと勘違いの多いこと。今こうなっている因果関係を歴史に見出し、本質的な課題に目を向けなければ、魅力ある地域の未来は訪れないと考えたほうがいいでしょう。
4冊目は『経済白書で読む戦後日本経済の歩み』で、最後は『自動車の社会的費用』です。歴史を俯瞰することで、地域のなかの自分の立ち位置が見えてくることを期待します。
坂野潤治著、大野健一著、講談社刊
土志田征一編、有斐閣刊
宇沢弘文著、岩波書店刊
二宮金次郎の弟子・富田高慶が著した本。地方の財政再建や農村再生の実績は明治天皇の目に留まり、明治初期にベストセラーになりました。神奈川県小田原市の『報徳二宮神社』で購入でき、取り寄せも可能です。
都市の魅力学/原田 泰著、文藝春秋刊
戦前の地方都市はなぜ栄えていたのか。東京と地方がどういう構造で現在の関係になったのか。大阪、京都、名古屋、神戸、横浜、札幌、仙台、広島、福岡など地方都市の歴史や特性を示しながら、その答えを探ります。