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特集 | SDGs入門~買い物から地球環境を考える!~

「SHIMEY」は川に魚が増えるルアー。利益の半分は放流資金と河川整備に

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魚を釣る道具の一つ、ルアー。さまざまな製品があるなかで、佐々木一樹さんがつくるのは、川に魚が増えるルアー。さらに、川だけでなく山の環境もよくするルアーも試作中です!

TOP写真右/『YOSHINAGA BASE』代表社員であり、ルアーデザイナーの佐々木一樹さん。左/「SHIMEY」のルアー。透明な下顎に突起のあるラダーと、ないプレーン。それによって水中での動き方が変わる。
目次

魚を減らすのではなく増やす、「SHIMEY」の仕組み。

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ベルトサンダーでスギのルアーを削り、成形する。「どんな釣りに使うのか。釣り人が釣る環境を想像しながらつくっています」と佐々木さん。
佐々木一樹さんはルアーデザイナーだ。静岡県にある『DUO』というルアーメーカーに長く勤め、退職後に『YOSHINAGA BASE』を立ち上げ、ルアーの設計や開発を行っている。ルアーとは釣具で、プラスチックや金属、シリコンなどの素材でつくられる疑似餌のこと。釣り糸の先に付け、水中に沈め、動きを操ることで肉食魚にエサと認識させ、針と一緒に食いつかせて釣り上げる。
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佐々木さんがデザインした「SHIMEY」のパッケージ。富士山がデザインされている。右がラダータイプの「コパー」、左がプレーンタイプの「ヤマメ」。
佐々木さんは、主に釣具メーカーのクライアントから請け負ってルアーの設計や開発を行っているが、オリジナルのブランドも立ち上げている。川に魚が増えるルアー「SHIMEY」だ。「言ってみれば、ルアーは自然界から魚を減らす釣具。各社から多様な機能のルアーが開発されていますが、いい機能であればあるほど魚は釣れ、減っていきます。僕も何か機能を持ったルアーをつくりたいと考えたとき、魚を減らすのではなく増やす機能を付与できないかと逆の発想で考えたのです」と佐々木さんは話す。「前職を辞めた後、富士川水系の『芝川観光非出資漁業協同組合』の準会員になり、活動を手伝っていました。漁協の予算は潤沢なものではなく、活動はほぼボランティアという状況。そこで、資金の面からも活動の一助になれないかと、『SHIMEY』の仕組みを思い付いたのです」。
その仕組みとは、販売利益の50パーセントがプロジェクトに協力している漁協に還元され、放流魚の購入費用などに充てられるというもの。「SHIMEY」1個は1650円なので、2個でお手頃サイズのニジマスを5匹ほど購入できる。「漁協が開催するイベントで『SHIMEY』を販売するためのPR費といった対価としてお支払いしています」と佐々木さん。現在、「SHIMEY」は5つの漁協と3つの釣具店、そして『YOSHINAGA BASE』のウェブサイトで購入でき、2020年に発売以降、約30万円が漁協に還元されたそうだ。
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ラボに置かれた証明書。「SHIMEY」の販売利益5万円が、『早川河川漁協』の代金として佐々木さんから支払われた。
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右上/アマゴの発眼卵。発眼卵とは卵のなかに魚の眼が見える段階の卵のこと。右下/川底に穴を掘り、発眼卵を放流する。左/釣り大会や放流イベントを行うときに「SHIMEY」を販売する。4万2075円が『原野谷川非出資漁協』に放流魚代金として支払われた。

山の状況にも目を向けてほしい。 スギを使ったルアー「SEED」。

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上/鮮やかなカラーリングに目を奪われる「SHIMEY」のルアー。ラダータイプかプレーンタイプか、どんな模様にするか。釣り人の経験や好みによって、どのルアーを選ぶかが決まる。右下/ラダー(手前)は、頭部が薄く尻部が太い。プレーン(奥)は、頭部が太く背中が三角屋根の形に。左下/ラダー(左)は水中での直進性に優れ、プレーン(右)は流れに合わせて動きやすい。
ルアーの名前である「SHIMEY」には、2つの意味がある。一つは、ルアーが背負った「使命」。1個の購入で数百円分の対価が漁協に支払われ、放流魚の購入や河川の整備などに使われるという、ルアーの持つソーシャルな使命だ。もう一つは、「山紫水明」という四字熟語から取った「紫明」。山紫水明とは、山の木々は陽光を浴びて紫に霞んで見え、川の水は明るく澄み切って見えるという、美しい自然風景を表した言葉だ。「SHIMEY」が売れることで、放流されるたくさんの魚たちが棲む川や山の環境が美しくなっていってほしいという願いが込められたネーミングなのだ。
「僕は岩手県宮古市で生まれ、子どもの頃から川で釣りをして育ちました。ルアーは小学生から使い始め、いろいろな渓流の魚たちを釣り上げて大喜びしていました」と、釣り少年だった頃を笑顔で振り返る。自然豊かな環境で育ち、『DUO』に就職してからも趣味で釣りを続けるなか、徐々に川の魚が減ってきていることに気づき始めたそうだ。
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右/「メモリーズ」で釣り上げられたヤマメ。左/同じく「メモリーズ」で釣れたアマゴ。佐々木さんは常にキャッチ&リリースする。
「生態系の変化や護岸の影響など、さまざまな原因があると思います。川底に土砂が堆積し、川の水が地下水化したために水量が減っているとも考えられます。もちろん、自然を長いスパンでとらえたら、川はやがては地下水化するもの。それを人の都合で『川の水量が減り、魚も減っている。だから環境を整え、魚を増やそう』と行動するのが本当に正しいことなのか、実は僕のなかでまだ答えは出せていません」と言う。「ただ、人が川や山に何らかの影響を与えてしまっているのなら、その責任を取る必要はあると思っています。『SHIMEY』は、そのための道具なのです」。
近年、線状降水帯の発生によって山の斜面が削られる土砂災害が頻発するようになった。その原因の一つとして、スギやヒノキの密植も挙げられるだろう。「密植されたスギやヒノキの放置林の地面には、日光が当たらないため、下草が茂りません。下草の根などによる抑えが利かなくなった山肌の土壌は、大雨が降ると削り取られ、土砂崩れが起こりやすくなります。削り取られた大量の土砂が川に流れ込むと、川底に土砂が堆積し、地下水化が自然のスパンよりは早まります」と、佐々木さんは指摘する。線状降水帯の頻繁な発生は地球温暖化によるとも言われている。
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左上/スギを材料にしたアユ釣り用のルアーのプロトタイプ。防水のために樹脂を染み込ませた後、塗装をし、針をつけて完成。針の糸が長いのは、アユを食い付かせるのではなく、攻撃してきた体に針をひっかけて釣るため。右上/スギを使ったルアー「SEED」。スギは軽くファジーなため、精度を高めるために金型を用いて、樹脂を流し込んで成形する。左下/『YOSHINAGA BASE』の近くを流れる泉川。アユ釣り用のスギのルアーを試すこともある。右下/替えの針。返しのある「源」。返しのない「仁」。
そこで、佐々木さんは「SHIMEY」2.0となる、「SEED」という名前のルアーの開発に着手した。素材は、スギだ。「まずはプロトタイプとして、アユ釣り用のルアーからつくり始めています。軌道に乗れば、ふるさと納税の返礼品としても活用したいですね。地域のスギを『YOSHINAGA BASE』に送ってもらい、僕がルアーをつくり、その地域のふるさと納税の返礼品としてエントリーする。ルアーづくりに使うスギの量は微々たるものですが、スギのルアーを手にすることで、釣り人の関心が日本の山の状況に向き、自然環境が変わるきっかけになることを期待しています」と、試作段階のスギのルアーを見せてくれた。
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左/ベルトサンダーでスギを成形。硬い木目部分とそれ以外の軟らかい部分を同様に削るのが難しい。右/アユ釣り用のルアーをくりぬいた後のスギの板。
「SHIMEY」のようなルアーでマス属の魚を釣る「トラウトアングラー」には「ロマンチストが多いんですよ」と佐々木さんは微笑む。「釣りの前日、『雨が降ったから水量はこれくらい増え、流れはこうなる。ならば、この色のルアーが釣れるはず』と想像をたくましくしながら釣り場へ向かいます。その想像力を、未来の川や山の姿にまで広げてもらえたら、釣り場の環境はもっとよくなるはずです」と、ルアーの開発を通じた豊かな川や山をつくる取り組みを続ける。

佐々木さんによる、「SHIMEY」の基本カラー解説!

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シルバーピンク/背中がピンクのピンクバックは、どのジャンルの釣りにも欠かせない万能カラー。なぜ万能かは魚に聞かないとわかりませんが(笑)。川の水が濁り気味で、日差しが強めなときは蛍光イエローより視認性がよいでしょう。
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玄金/「黒金」と呼ばれるツートンカラーに「玄」の字を充てているのは、その日の魚の状態に合わせ、黒マジックでルアーを塗って黒の量を調節していた玄人の釣り人がおられ、その人のリクエストで黒の量を配分したことから。
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アカキン/「黒金」とともに定番カラー。僕の解釈ですが、赤は可視光のなかで波長が長く、遠くまで届きます。魚が赤を波長としてもとらえていたら、このルアーは遠くで泳ぐ魚に気づかれやすく、攻撃しに近づいてくるのではないかと。
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コパー/ご協力いただいている『早川河川漁協』は海に近く、川にはウキゴリというハゼのような茶色い魚がいます。このルアーはウキゴリに似ているので、それを食べる魚が反応するようです。存在感があり、認知しやすい色です。
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チャートバックヤマメ/釣りをしている最中、自分のルアーがどの場所、どの深さにあるのかを把握しておくことはとても大事です。背中に蛍光イエローを配色したことで、釣り人から見えやすく、今どこにあるのかを判別しやすくしています。
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ヤマメ/ヤマメは幼魚のときに、体の脇に楕円状のパーマークが並びます。「SHIMEY」はヤマメをターゲットにしたルアーなので、その美しいパーマークを描きました。薄い青、白、オレンジなどいろいろな色でデザインしています。
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つりチケタイガー/全国の河川の遊漁券が買えるアプリ「つりチケ」の応援企画として開発し、販売金額は「つりチケ」の開発のために寄付しました。「つりチケ」のロゴマークが白と緑でデザインされているので、その2色を使って虎柄に。
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オリーブ/背中がオリーブ色のルアー。当初は玄人好みなパールベースのみで塗ろうとしたのですが、「SHIMEY」全体のラインナップのアピール量を考えたとき、ホログラム部分があったほうがバランスがいいと思い、採用しました。
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メモリーズ/背中が透けて中の構造が見えることで水中で乱反射し、魚にアピール。すべて透明だとアピールが強すぎて食いつかなかったので、半分を保護色であるシルバーで隠したら大成功。そんな開発過程が思い出深いルアーです。
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クリスマスに「メリークリス鱒」という釣り大会を開催した際の限定カラー。右がツリーグリーン、左がサンタヤマメ。

『YOSHINAGA BASE』・佐々木一樹さんの、 買い物にまつわるコンテンツ。

Instagram:ESORA COFFEE
https://www.instagram.com/esoracoffee
焼津市にある大人の隠れ家的なコーヒースタンド。セルフローストしているので、定番の豆も日によってロースト具合を変えたり、おもしろい豆を仕入れて試したりと、足を運ぶ楽しさがあるお店です。釣りに行くときに持っていくことも。
Website:シーフォース
https://www.seaforce.co.jp
宝飾関係の店が多い彫金のまち・東京都台東区の御徒町駅界隈にある老舗道具店。昔からよく利用していて、手工具から3Dプリンター、CNC切削機まで、ものづくりのためのあらゆるツールと情報がいっぱいのお店です。
TV:ヒルナンデス!
https://www.ntv.co.jp/hirunan
昼ごはんを食べながら、なんとなく見ている情報バラエティ番組です。調理器具や収納道具、アウトドアグッズなど使い勝手がよさそうなアイテムが紹介されることもあり、「あれ、いいな」と買いに走ったりすることもあります。
photographs by Hiroshi Takaoka  text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2023年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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