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サスティナビリティ

特集 | SDGs入門~買い物から地球環境を考える!~

「食べる」「働く」「つくる」「買う」で、モノの循環を楽しむショップ

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創業1848年の家具販売店『米三』が新規事業として始めたのは、「循環」をテーマとした複合施設。食べたり、働いたり、つくったり、買ったりと、楽しみながらサスティナブルなライフスタイルに触れられます。

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『トトン』が入っている建物は、丹下健三氏の弟子・大谷幸夫氏が設計。
富山県富山市内の巨大な倉庫群が立ち並ぶ商業団地に突如現れる施設、『トトン』に入ると、1階のフロアには器やアクセサリー、タオル、バッグとともに、たくさんの家具が並べられている。一見、ライフスタイルショップのようだが、次第にそうではないことがわかってくる。陳列された商品の間には、それらが再利用した素材であること、端材や廃材でできていることなどが書かれたテキストが並び、これまで処分されてきたものの価値を見直すことで、もう一度世の中へと流通させているという背景が、見えてくるからだ。
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右/各フロア約800平方メートルの広々としたスペース。左/『トトン』の最寄り駅は電鉄富山駅から2駅先の新庄田中駅。
「中古ショップでもなく、ただの雑貨店でもない。初めて『トトン』に来た方は、ここはどういう施設なのかわからない方も多いはず。でも、そんな違和感を感じながらいろいろ見て回ってもらうことで、新しい発見をしてもらえるとうれしいですね」と『トトン』店長の上野理絵さんは言う。
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リノベーション会社や物販の勤務経験をもつ上野さん。
目次

「使えるのに捨ててしまうのはもったいない」からスタート。

『トトン』は、富山県では知らない人はいないほど老舗の家具販売店『米三』の新規事業として、「循環」をテーマに2022年9月にスタートした複合施設だ。もともと倉庫として使用していた建物をリノベーションして、1階に「サーキュラーストア」、「リペア・DIYスペース」、2階に「マテリアルライブラリー」、「コワーキングフロア」、カフェ利用ができる「キッチン」、「フォトスタジオ」という6つのエリアで構成されている。
この施設の始まりは「まだまだ使える家具があるのに、捨てられてしまうばかりではもったいない」という『米三』常務取締役の増山武さんの思いからスタートした。『米三』では新しい家具を販売した際、購入者の家にあって使わなくなる家具を引き取っている。「引き取り後、破棄となるものも多いのですが、昔の家具って材料やつくり方も今のものとは異なっていて、手を加えれば再び使えるいいものもたくさんあるんです」。
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一級建築士でもある増山さん。建物自体にも価値を見出してリノベーションを行った。
建築を学ぶために留学していた、アメリカのカリフォルニア州の大学時代に、中古家具を集めてリメイクをし、リブランディングをして販売するアイデアを発表するなど、昔から中古家具を活用するアイデアがぼんやりとあった増山さん。しかし、サスティナブルを意識していたわけではなく、考えていたのは「リメイクというデザイン」だったという。
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右/『米三』で回収した家具が置かれている倉庫。左/アップサイクルされた家具。
『トトン』の根幹にあるテーマ「循環」へと行き着いたのは、大学を卒業して帰国し、2009年に家業の『米三』で働き出して10年近くたってから。『米三』では販売から始まり、販促を行ったり、ECや飲食店、介護事業などの新規事業の立ち上げも経験してきた。時代が移り変わり、かつては約3兆円あった家具の市場が1兆円ほどへと縮小したため、大型店で家具を販売するだけでなく、多角化して事業を進めていかないといけない背景もあった。
そんな中で出てきたのが、「家具販売店がサスティナブルに、商品を再び流通させる仕組み自体をつくれたらおもしろいんじゃないか」というアイデア。富山県内で古民家を活用した宿泊事業や古い家具をリメイクして流通させる事業を行っている『家’S』の伊藤昌徳さんと話しているときだった。
「『家具屋がリサイクルショップをつくりたい』という発想ではないんです。商品を仕入れて販売して、いらなくなったら回収して捨てていた流れ
の中に、クリエイターやデザインスタジオを入れて家具をアップサイクル、リデザイン、リペアをすることで、捨てられていたものを循環させる流れをつくっていきたい。それをするにはどうすればいいかを考えていました」

「循環」を感じる暮らしを体感してもらうために。

最初は、ものづくりをする「ファブカフェ」のようなものを開設すればクリエイターたちが集まり、家具のアップサイクルが進むのではないかと考えたが、家にある家具を修理して使いたいというお客さんの声も聞こえていたため、そうした体制もつくりたいと考えるように。「新しい暮らし」と「文化をつくること」を意識して計画を進めていった。「中古家具を買うことの価値を、『安いこと』だけに置かれないよう、『循環』という暮らしの提案をしながら文化を育てたい。そしてそのマーケットをつくることを目指すのが会社の事業として重要なことだと思ったんです」。
その結果、「捨てるをまわす、くらしをつくる」というキャッチフレーズをつくり、回収して再生、販売をする家具の循環を中心に、ライフスタイルの提案の場として、資源循環を体感できる現在の『トトン』が出来上がった。
建物の2階へと足を運ぶと、朝ごはんやランチが食べられるカフェスペースが、その隣にはコワーキングスペースがある。これらの場所、および1階で販売されている家具は、縁だけを塗装し直した椅子や、色とりどりのサンプル生地で座面のカバーをつくったソファ、マスキングテープをして塗装したデザイン性のある机など、いろいろな趣向を凝らしてアップサイクルされているので、そのバリエーションを見てまわっていると、ワクワクと楽しくなってくる。
「マテリアルライブラリー」では、北陸でものづくりをしている企業の製造過程で出た端材を展示して、その利活用を考えている。ディクレションを担当した田中真紀子さんは言う。「食やプロダクトの開発におけるブランディングの仕事でさまざまな企業や職人たちの仕事を見ていると、需要の変化や担い手不足で、今後同じように製作できないかもしれないことが見えてくる。製作途中で出てくる端材を展示することでそれを活用できる企業と結びつけ、新しいものが誕生する出合いの場になればと考えています」。
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フードディレクター・ブランディングディレクターとして活躍する田中真希子さん。
オープン前には「主にクリエイターたちが集まる、尖った施設になるかな」と想像していたが、「家具のリペアを行うために親子連れがやってきたり、若者が朝ごはんを食べにきたり。一見サスティナブルとは関係のない人も来てくれるようになりました。だんだんとまちに溶け込む活動になってきました」という増山さん。現在は捨てられる食材を使った「サルベージパーティ」やフリーマーケットなどのイベントも多数開催し、「今後は、コワーキングスペースやイベントを通して出会ったクリエイターたちと企業を結ぶ取り組みもやっていきたい」と考えている。
捨てるのが当たり前という慣習を、流れのド真ん中にいる企業が見直して、新たな暮らしと文化をつくるこの取り組み。富山のまちからじんわりと広がっていきそうだ。

『トトン』の6つのエリアを紹介!

すべてのエリアで「循環」を体感。「食べる」「働く」「つくる」「買う」を通じて、楽しくてサスティナブルなライフスタイルに触れられます。

area1:STORE サーキュラーストア

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右上/使うのが楽しくなりそうな生活雑貨コーナー。左上/リサイクル家具と、塗装や染め直しをしたアップサイクル家具が多数販売されている。右下/わずかなゆがみなどにより破棄されていた『越中三助焼窯元』の器に『トトン』のオリジナルマークを入れて焼き直したものを販売。左下/商品の背景を伝える展示物が多々あるのも『トトン』の特徴。
資源循環や環境配慮がされたものづくりをしているアイテムを扱うショップ。器、タオル、アクセサリー、バッグなどの生活雑貨や、『米三』で回収したさまざまな年代の椅子、机、ソファ、ライトスタンドなどの家具をリサイクル、アップサイクルしたものが並んでいる。

area2:KITCHEN カフェ・朝ごはん

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右上/アップサイクルされた家具で食事やお茶が楽しめる。左/『トトン』の朝定食。魚津市の料亭『浜多屋』のシェフがプロデュース。マテリアルライブラリーに展示している企業の端材を活かし開発したトレーや、漆椀のデッドストックなどを使用。右下/玉子焼き定食も好評。
県内でいくつもの人気飲食店を手掛ける『ガネーシャ』が運営。食文化の伝承をテーマにコラボして考えたメニューでは、富山県で身近な干物や水揚げされた魚を中心に、地の野菜を提供。一日を元気に始めてもらおうと、朝食メニューにも力を入れる。ベランダ席や小上がり席も居心地よし。

area3:MATERIAL マテリアルライブラリー

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左/組子細工制作途中ででた檜の端材。消臭、調湿、リラックス効果を活かした活用の方法を考案中。右/月額1万円で各企業のマテリアルを展示している。
木材の端材、印刷工程で破棄する紙、レーザー加工後の残材、リサイクルが難しい色つきガラスなど、北陸でものづくりを行う企業の製造過程で出た端材や破片などの素材を展示。今後、クリエイターなどとマッチングさせることで、捨てられるはずだったものが生まれ変わる予定。

area4:COWORKING コワーキングフロア

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右上/フロアには天井からの自然光が入る。右下/ブランコのように机と椅子が吊るされた1人用ワーキングスペース。左上/個室ブースの入口は、半分塗装したタンスが扉になっていて秘密基地のよう。左下/座面と机部分にベッドマットの内のコイルを使用したミーティングスペース。
岐阜県飛騨市で広葉樹の森の活用・循環・価値創造に取り組む『ヒダクマ』が家具の製作ディレクションを担当。アップサイクルされた椅子や机で、仕事やミーティングができる。アップサイクルのポイントもところどころで展示。ドロップイン1日2000円。会員は月額1万円〜。プラス5000円で朝食付きに。
利用者の声/曽我美穂さん
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使い勝手がよく、富山でおもしろい活動をしている人とこの場所でつながりました。ライターですが写真を撮ることもあるので、フォトスタジオの室澤さんに撮影のコツを教えてもらっています。

area5:REPAIR . DIY リペア・DIYスペース

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上/DIYでは、家具のリペアスタッフにサポートをしてもらえる。右/机や椅子の脚や、天板など、パーツや端材も自由に使える。左/丸鋸、糸鋸盤、電気カンナ、インパクトドライバー、充電式カッター、刷毛塗り塗装などの道具も用意。
家具職人が常駐。机の補修や椅子の張り替え、クリーニングなどをお願いできるとともに、機材を使って自分でDIYも可能。材料は持ち込みでも、回収してバラしたパーツの利用もOK。リペアは5000円〜、DIY利用は作業台1台につき2時間3000円。不要家具の引き取りサービスもある。

area6:PHOTO フォトスタジオ

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左/CMやポートレートなど幅広く活躍する写真家・室澤敏晴さんが撮影を担当。右/スタジオ内には室澤さんがコレクションしているカメラが展示されている。
写真という観点でも人との出会いが生まれたらいいなという思いから、フォトスタジオも設置。ネットショッピングなどの物撮り撮影をプロのカメラマンにしてもらえる。立ち会いも可能。予約することで、カメラ機材を含めてスタジオを利用できる。1時間2000円。

『トトン』・増山 武さんの 買い物にまつわるコンテンツ。

Website:Pinterest
www.pinterest.jp
留学時代から海外の建築やデザインのウェブマガジンをチェックし、素材や形など直感的に気に入った画像を「Pinterest」にキーワードごとに保存しています。並べて見ることで、好きなものの傾向がわかるので、買い物や製作に活かしています。
Place:Villa della Pace
http://villadellapace-nanao.com
おいしいものが食べられる場所で実際に使われているインテリアや器などを見るが好きなのですが、最近特に印象的だったのが、能登半島にあるこのオーベルジュ。料理を含めて空間全体が作品のようで、思わず見入ってしまいました。
Instagram:やわい屋
@yawaiya_asakura
岐阜県の飛騨高山地域にある古民家を利用した民芸店。まだ実際に行ったことはないけれど、『ヒダクマ』経由で知り気になって見ています。土地と生活文化が結びついて器や道具が生まれたのがよくわかるセレクトが素晴らしいです。
photographs by Yusuke Abe text by Kaya Okada
記事は雑誌ソトコト2023年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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