新型コロナウィルスの影響で社会が大きく揺さぶられ、さまざまな分野で大きな変化が起ころうとしています。これからの未来はどうなっていくのでしょうか? 不安定な社会で暮らし、生きていくためのヒントをくれる、そんな“未来をつくる本”を紹介します。
エネルギー×大石英司さん
『みんな電力』の社長として電力の小売り事業を行う大石さん。エネルギーを取り扱ううえでは温暖化による被害や悲劇から目を逸らすことはできません。その土台にあるのは経営者が失ってはならない道徳心。それがよくわかる選書です。
エネルギーというテーマでの選書ではありますが、真っ先に挙げたいのは、”日本近代資本主義の父“といわれる渋沢栄一の『論語と算盤』です。生涯で約500もの会社設立に携わった渋沢は、「道徳経済合一説」として、道徳や正義のない会社経営をしてはならないと説き続けました。インフラ事業でもあるエネルギー業界に携わる者として、常に忘れてはいけない教えが詰まった本です。
そもそも私が電力会社を立ち上げたのは、電車の中でリュックにキーホルダー型の小型ソーラー充電器を着けている人を見かけたのがきっかけです。どんな人でもエネルギーはつくれる。それを売ることができれば、富の不均衡解消の一助にもなり、社会をよくしていけるというのは、渋沢栄一の精神にもつながると自負しています。
渋沢栄一が”日本資本主義の父“なら、『3つのゼロの世界』の著者で、ノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌスは”ソーシャルビジネスの父“。ソーシャルビジネスという言葉を生んだのも彼といわれています。貧困層向けの融資を行う『グラミン銀行』の設立者でもある彼は、この本の中で、貧困、失業、CO₂排出をゼロにすることが、格差のない社会をつくるのに必要だと述べています。ソーシャルビジネスの最先端を走る人物が、今、何を課題として捉えているのかがよくわかる本です。
ユヌスの母国であるバングラデシュは、気候変動がもたらす水害で、国土の広い部分が浸水することが少なくありません。そこに住むのは貧困層の人々。つまり私たちがCO₂を排出する種類の電気を無意識に大量に使っていると、結果的にバングラデシュのどこかの誰かが被害を受けることにつながるのです。気候変動で本当に悲劇に見舞われるのは発信したくてもできない立場の人々。それを知る意味でも貴重な一冊です。
『ソフト・エネルギー・パス』は、イギリスの物理学者、エイモリー・ロビンズが1976年に提唱した論文が本になったもので、大きな設備をつくり、化石燃料を用いる「ハード・エネルギー」に対して、省エネをしながら再生可能エネルギーやバイオエネルギーを地産地消で使いましょう、というのが「ソフト・エネルギー論」です。50年近く前の提唱なのに、言っている内容はまったく古びていません。戦争は資源争奪戦という面もありますから、ソフト・エネルギーは平和にもつながります。再生可能エネルギーの関係者のバイブルといっていい本で、難解な部分もありますが、読み飛ばしても理解できますよ。
大石さんおすすめの5冊
●現代語訳 論語と算盤(渋沢栄一著、守屋 淳訳、筑摩書房刊)
約500の企業創設、約600の教育機関・社会公共事業の支援を行った渋沢栄一が論語に基づき展開した経営哲学の本です。経営では利潤のみを追わず道徳を念頭に置くべしとの教えは、今も多くの経済人の指針になっていると思います。
●3つのゼロの世界─貧困0・失業0・CO₂排出0の新たな経済(ムハマド・ユヌス著、山田 文訳、早川書房刊)
ノーベル平和賞受賞者で、『グラミン銀行』の創設により貧困解消に力を注いできたユヌス博士。関連団体などの具体例を豊富に挙げながら、貧困、失業、CO₂排出ゼロを目指すことが格差の拡大や地球温暖化を食い止めると説いています。
●ドラえもん(藤子・F・不二雄著、小学館刊)
ドラえもんは、僕にとってのヒーローなんです。困っている人を助ける優しさや正義感がありながらも、決して清廉潔白なわけではなく、失敗もたくさんします。ドラえもんの動力が、自然エネルギーになる未来が来てほしいですね。
●ソフト・エネルギー・パス ─永続的平和への道(エイモリー・ロビンズ著、室田泰弘訳、槌屋治紀訳、時事通信社刊)
1976年にイギリスの物理学者、エイモリー・ロビンズが説いた「ソフト・エネルギー・パス」。原子力、化石燃料から電力を生む従来のハード・エネルギーから脱却し、身近な自然エネルギーのソフト・エネルギーを、効率的に使っていこうと提案しています。
●不都合な真実(アル・ゴア著、枝廣淳子訳、実業之日本社刊)
人類がエネルギーを消費し続けて温暖化が進んだ地球の姿を、ビジュアルを駆使して説明。映画化もされていて「気候変動のリアリティをどうやったら感じられますか」という質問には、この本か映画を見てくださいと答えています。