日蘭の食事情の背景に見えるコト

連載 | 毎日がサスティナブル!? —アムステルダムとニッポンのSDGs— | 6 日蘭の食事情の背景に見えるコト

今回は食品や料理に関するサスティナブルなトピックを。話していくと、意外にも食への興味の薄いようにも感じられたオランダの事情。ですが、その奥には、オランダ人が人生や社会において、なにを大切にするか、といった根源的な問いがありました。日蘭の食事情の背景に見えるコト、興味深いです。

オランダの人はおいしいものを知らない!?


乾 今回は、果林さんから強い要望があった食関連のサスティナブルな話についてですね。


桑原果林(以下、果林) まず紹介したいのが、最近使っているアプリ「TO GOOD  TO GO」。レストランやカフェ、ホテル、スーパーなどの店が期限切れが迫っている食品を一般消費者に売ることができるアプリです。購入はアプリ上のネットバンキングで。金額はだいたい定価の3分の1くらいかなあ。決済したら決められた時間枠の中で、自分でお店に取りに行くんです。こういうのは、最近はいくつかあるみたいですね。


桑原真理子(以下、真理子) 「RESQ」(レスキュー)ってアプリもあります。


乾 日本でもこういうアプリはいくつか出ています。


真理子 でも、“くわまりメソッド(*1)”的にはあまり好きじゃないんです。結局消費自体を促しているんじゃないかって懸念もありそうな……。


乾 フードロスは削減しているけど、消費サイクルの速度は変わっていないっていう……。でも、悪い取り組みではないですよね。


真理子 まあ、ご飯の場合は別なのかもしれないけど、“くわまりメソッド”で言ったら、「本当に食べたいものを正当な対価を払ってゲットする」っていう(笑)。安いという理由だけで買うと、結局満足できないことが多い。


乾 そのメソッドだと、真理子さんはオランダでなにを食べているの?


真理子 いやそれが……。オランダのスーパーって合理的で安いんですよ。でも、その代わりに商品の数も少ない。フードロスにも取り組んでいてすばらしいけど、どのスーパーに行っても、私が食べたいものがないんです! でも、そんな私の横ではオランダ人のカップルが、仲睦まじく“いっぱいあってなにを食べていいかわかんないね!”って楽しそうに話していると、「いや、なんにもねーから!」って突っ込みたくなる(笑)。


カフェやレストランのメニューも、同様のものが多いそう。写真はオランダの定番メニュークロケット。
カフェやレストランのメニューも、同様のものが多いそう。写真はオランダの定番メニュークロケット。

乾 オランダのスーパーは“商品の種類を限定して効率よくまわしてる”みたいな感じなんですね。そして真理子さんは、それでは満足できない?


真理子 だから日本のスーパー行くと、超テンションが上がります。「見たことない商品がいっぱい! うれしい! どうしよう!」って。逆にオランダ人だと、いっぱいありすぎるのは必ずしもよいことではないみたいです。オランダの人は、人にもよりますけど、ほどよいバリエーション、いつも知っているものがあればいいって感じがします。食に関して言うと、オランダは物足りない国だと私は感じています。それは日本の食文化がいかに優れているか、ってことだと思うんですけど。


果林 オランダの人はおいしいものを徹底的には追求していないのかも。お腹がいっぱいになれば満足、みたいなところはあります。


乾 そうなんですか? オランダの食事、ぼくは結構好きだけどなあ(笑)。フードロスの話から、なんだかおかしな展開になってきました(笑)。


オランダ人が大事にしているコト


真理子 こっちで暮らしてみて感じたのは、オランダの人は重きを置いているのが食ではないんじゃないか、ということ。それよりも歴史だったり、政治だったり、オープンな社会や公平なシステムとか、そういうところに誇りを感じているので、食がどうこうということではないんじゃないかって。


果林 日本みたいに、ご飯のことを何時間も話し合ったりはしないですしね。あと海外の食事とか、自分の知らない味にすぐに食いつかないかも。


真理子 安くて栄養満点なもの、いつも同じもの、作るのに時間のかかんないもの。それでいいという考えはあると思います。それは家族団欒の時間をオランダの人は何よりも大事にしているから、というのも大きな理由です。


日本の食卓は手の込んだおかずがたくさん出てきて毎回感動しますが、それはある意味、作る人の犠牲の上に成り立ってますよね。日本ではやっぱり女性が手の込んだ料理を作って当たり前、という風潮があるので、プレッシャーが大きいのでは。


オランダはじめヨーロッパでは歴史ある建造物は大切に保存・活用されている。
オランダはじめヨーロッパでは歴史ある建造物は大切に保存・活用されている。

乾 でも、ある部分で、オランダの考え方は共感できるなあ。というか。日本は、日々の食卓の中でも、毎日お酒を飲んで、お魚やお肉もたくさん食べて、見る人が見ればそれは“毎日がパーティ”みたいな感じだけど、それってやっぱり行き過ぎだなって思いますし。


真理子 オランダでもお肉や魚を毎日食べる人はいるけど、都市部の人を中心に肉の消費量を減らそうという動きが広まっています。食べ放題とかもこっちでは一般的ではないかもしれないですね。オランダにもあるんですけど、そういうシステムは、私は好きじゃないかなあ。安くお腹いっぱい、という食べ方はあまり好きじゃない。


果林 食べ放題ではないけど、レストランやカフェで出てくる量が多すぎると感じることはよくあります。その点では、量が少なめだけど質と味にこだわった日本のスタイルが私は好きです。そうそう、ごはんをおかわりして残すのも好きじゃないです! でも、意外とオランダでごはんを残す人、結構見かけるかもしれない……。


乾 そんな人いるんだ……。日本だと「食べものを粗末にしてはいけない」って考え方が割と一般的かもしれません。


果林 「米粒一つに7人の神様がいるから残すな」って日本人の父に言われて育ったので、今でもお米を一粒も残さず食べてます(笑)。私は日本の「いただきます」や「ごちそうさま」が大好きです。こっちでは人に対して、「おいしく食べてください」って挨拶はしますけど、ありがたみを込めて自然や生きもの、料理を作ってくれた人に対して、「いただきます」と感謝する習慣がないですし、それこそ日本のよい文化だと思っています。こういう意識が広まったらいいなあと思います。


乾 たしかに。「いただきます」や「ごちそうさま」は、自然や料理人への感謝に満ちた言葉ですもんね。


食品廃棄物への取り組み


乾 食品廃棄物(フードロスと加工段階の残渣)はどうなんだろうと調べてみたんですけど、人口一人当たりで見ると、オランダのほうが多いんですね。意外かも。
出展:農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2010/spe1_01.html


真理子 オランダではすごく問題視されていて、それを改善しようって動きがあります。前述したフードロスを減らすアプリもそうですし、『ソトコト』でも紹介していたアルバートハインのレストラン『Instock(インストック)』もそうですね。
▼ソトコトで取材したフードロスを減らすレストラン『Instock』
https://sotokoto-online.jp/639


フードロスを減らすレストラン『Instock』の店内。社会課題が、オランダではなによりも優先される!?
フードロスを減らすレストラン『Instock』の店内。社会課題が、オランダではなによりも優先される!?

乾 日本の地域では、こんな取り組みもあります。過去の『ソトコト』の取材で出会った今川宗一郎さんの取り組み。詳しくは記事を読んでほしいんですけど、スーパーを軸に、移動販売、飲食店など、事業の多角化の中で食材を無駄なく使う仕組みになっています。
▼『ソトコト』で取材した今川宗一郎さんの取り組み
https://sotokoto-online.jp/841


果林 地域との関わりがあっていい取り組みですね。


真理子 日本だと普通だと思うんですけど、オランダのスーパーが最近、破棄直前のものを安く売る取り組みを始めたというのが、ニュースになっていました。以前だったらクオリティが悪いものは売らないって姿勢だったけど、今は流れが完全に変わりましたね。


乾 食への関心の薄さからか、意外と食関係への取り組みが進んでいないオランダ、という感じなのかもですね。興味深いです。


果林 いろいろ変わってきているように思います。私の知り合いのオーガニックレストランでは、食材がロスになるのがもったいないから近所の農園に持っていくんですって。動物たちの食料として活用してもらうと言っていました。


消費者も、賞味期限が切れる直前のものを買うことが浸透してきていているように思います。私も以前は期限が長いものを棚の後ろのほうから取っていたけど、そうじゃなくてわざと前の方から取るようになりました。


乾 どうして意識が変わったんですか?


果林 食品廃棄物のことを知って、純粋に捨てられるのがもったいないって思ったからですね。


乾 伝える、知る、って大事ですね。


なにを大切にするか


果林 ヨーロッパでは食肉の摂取を減らすことは、自然環境や気候、生物多様性の観点から、トレンドになりつつあると感じています。


乾 そういう危機感を持つ人は増えているかもしれないですけど、日本はまだまだかもしれない……。


真理子 乾さんは『ベジタリアンブッチャー』には行きましたか? 


乾 日本にも2020年にできたお店ですね! まだ行っていないんです。


真理子 お肉そっくりなんだけどお肉じゃない、プラントベースの代替肉のビジネスを世界でもいち早く進めた会社で、もともとはオランダの会社なんですよ。


乾 そうだったんですね。


真理子 で、『ベジタリアンブッチャー』の創業者は会社を売って、今別のビジネスをしてるんです。乳製品を、動物を介さないで作る仕組み、例えば芝生からミルクを作り出す研究・開発を行っているようです。


乾 芝生からミルク!? すごい発想ですね。牛のプロセスを飛ばして、牛乳を作るって考え方がおもしろいです。代替肉はオランダでは一般的なんですか?


果林 はい、普通に食べます。オランダの飲食店には、ほぼ必ずと言っていいほど、ベジタリアンメニューがあります。日本だとまだあまり浸透していないと感じます。ベジタリアンの友人からは、出汁もダメだし、日本では苦労すると聞いています。


真理子 伝統的な食文化のしがらみがない国だからこそ、ビーガンや代替肉などのような新しい食文化を受け入れやすいように思いますね。


「この部位のお肉は最高なんだよ!」って国じゃなく、「環境に良いし、肉っぽいからこっちの方がいいか!」みたいな。


果林 味よりはコンセプトかなと思いますね。


乾 食に対しても効率的で、サスティナブルな考え方や新しい技術を積極的に取り入れていると感じますし、尊敬できます。


果林 まあ、味などはもちろん、もっとよくなってほしいとは思っているけど……。


真理子 でも、それ以上のものがありますから。


乾 それ以上のもの?


真理子 アートプロジェクトで日本のある地方都市に行ったときに、興味深かったのが、彼らは「毎晩、暖かい部屋で眠れて、おいしいご飯を食べられる。それ以上ほしいものなんてない」って言っていました。それも一つの真実ではあると感じますが、私は、それ以上のものもあるかなと思っています。


人権とか動物愛護も含めた自然や環境に関する意識とか。そっちの方が洗練された食文化より大事、って思うオランダの人は多いんじゃないかなって。


果林 結局、パーフェクトな国はないからどこを取るかですよね。よく、「日本とオランダどっちがいい国?」とか聞かれますけど、それは主観的なことだし、どっちもいいところがあるから答えにくい。でも、結局、オランダのほうが住みやすいからオランダに住んでいるって感じですね。


乾 ぼくはどっちだろう。社会課題への取り組みなどを考えると、確かにオランダは進んだ国ですもんね。でも、日本でも社会や未来を少しでもよくしよう結構がんばっている20・30代もいます。だから、日本も捨て難い。けど、ぼくはやはり日本かもしれないです。


食べることが好きだし、「身土不二」のような、地域の旬の食べもの、伝統食が身体にいいって考え方に根底には、自然への共存やリスペクトが感じられますから。


果林 季節のものを食べるってフードロスを防ぐ一番のことのような気がします。


真理子 日本の、自然と一体となっているという、そういう考え方は私も好きですね。


乾 ですね。だけど、どんどん失われているかも……。日本はそういう思想的な部分を大切にしつつ、もっと伝えた方がいいのかもしれませんね。


ごはんと汁を基本にした、旬をいただく日本の伝統的な食生活にこそ、フードロスを防ぐ知恵が詰まっているのもかもしれない。
ごはんと汁を基本にした、旬をいただく日本の伝統的な食生活にこそ、フードロスを防ぐ知恵が詰まっているのもかもしれない。

 

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桑原果林 くわはら・かりん
コーディネーター、翻訳者、通訳者。日本で日蘭バイリンガルとして育ち、2010年渡蘭。レインワードアカデミー美術大学文化遺産学科でミュゼオロジーを学び、在学中に姉・真理子と共に通訳・翻訳事務所So Communicationsをアムステルダムにて設立。メディア・教育・介護・農業・デザイン&アートなど多岐にわたる翻訳・通訳・コーディネート業務を行い、日本とオランダの交流のサポートにつとめる。
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桑原真理子 くわはら・まりこ
アーティスト。東京都生まれ。 父が日本人、母がオランダ人。19歳の時にオランダへ渡る。2011年、ヘリット・リートフェルト・アカデミー(アムステルダム)、グラフィックデザイン科卒業。過疎地域で出会った人々との対話を元に、ドキュメンタリー形式の出版物、映像作品を制作している。
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乾祐綺 いぬい・ゆき
編集者、フォトジャーナリスト。写真家でもあった祖父の影響から、幼少期より写真を始める。海、環境、暮らしなどを主なテーマに、日本各地はもちろん、海外への取材を続ける。ソーシャル&エコマガジン『ソトコト』、ANA機内誌『翼の王国』誌上などで、写真と記事を掲載。日本と海外、それぞれのソーシャルグッドな文化や活動を双方向で伝えることをテーマに活動する株式会社ニッポン工房代表。

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