パブリックアートのプロデュース、文化施設の企画、運営、管理などをディレクター的立場で手がけてきた守屋慎一郎さん。まちづくりにおいてアートを必要とするのであれば、アーティストの立場や自律性を尊重するとともに、地域に暮らす人や場所のことを確実に理解しておかなければなりません。
守屋慎一郎さんが選んだ、地域を編集する本5冊
これまでに現代アートを専門とするアートセンター『スパイラル』のチーフプランナーとして、横浜市のアートスペースを兼ね備えたレストハウス『象の鼻テラス』や、群馬県の『太田市美術館・図書館』で施設の企画、管理、運営の総合ディレクションなどに携わってきました。
地域にアートを展開するとき、行政、地域、アーティストなどさまざまな立場の人が介在します。違う立場の人がお互いの立場を知る上で、欠いてはいけないものを教えてくれた本があります。
スーザン・ソンタグの『良心の領界』です。本の冒頭の序文「若い読者へのアドバイス」でソンタグは、新しい刺激を受け止める、本を読む、旅をするなど、彼女が自分にも言い聞かせていることを、短くも凝縮した文章で書いています。その中でも私は、「検閲を警戒すること。しかし忘れないこと──社会においても個々人の生活においてももっとも強力で深層にひそむ検閲は、“自己”検閲です」と述べている部分に共感を覚えました。検閲を警戒しなければなりませんが、ここに書いている“自己”検閲は、自分自身が表現したいこと、やりたいことを諦めない、なしとげるために問い続けていく、自分自身を見つめ直すことだと、私は理解しています。
地域の方や行政の方にとって、アーティストの立場は理解しにくいかもしれません。私は、アーティストとは、名乗る覚悟を決めて、徹底的に個人で社会に向けて、自分の表現で勝負していく人だと思っています。彼らはときに思いがけない表現に出たり、行動をとります。そこで無意識に、企画し実行している側の私が“自己”検閲をかけ、非難を浴びることを恐れ、アーティストが表現したいことができない状態にしてはいけません。アーティストの表現の自律性を守りつつ、地域住民の思いや行政の考えも大切にする。その両方が大切です。実行へと導くためには相手の立場に立ち、相手を想像することが必要です。
実際にアーティストはどういう人で、どう考え、表現しているのか。それを知ることができるのが『メモランダム 古橋悌二』です。
今、私たちを取り巻く環境は大きく変わりつつあります。こんなときだからこそ、自分がいまいる場所を再認識し、自分の足で立つことが重要です。いろんな専門性を持つ人がアートに関わり、全員がそれぞれのことを慮ると、まちづくりがおもしろくなるのではないでしょうか。