公共空間の新しい活用方法を発掘し、提案する『公共R不動産』コーディネーターの飯石さん。公平性や手続き第一の行政的なプロセスと、民間の自由な発想のあいだに立つことで見えてくる、まちづくりや場づくりのおもしろさを描き、課題を提起する本を紹介します。
飯石 藍さんが選んだ、地域を編集する本5冊
高度経済成長期、急増する人口を捌くかのように、機能優先の工業生産的なまちづくりが世界中で行われていました。便利ではあっても居心地がいいとは言えないまちを次々につくる社会に異論を唱えた都市デザイナー、ヤン・ゲールは、「まちを人間に取り戻す」という理念のもと、計画ありきではなく、人の行動から始めるまちづくりを提唱し、それ以降の都市計画に影響を与えました。
ゲールが行ったのは、先に建物をつくるのではなく、人々がその場をどう使うのか、人々の行動を観察することから始めるという手法でした。人の活動パターンを「必要活動」(移動など)、「任意活動」(余暇など)、「社会活動」(場や人に関わる)の3種類に分け、そこで何が起きているのかを把握しました。そのうえで次のステップに進み、最後に建物をつくったのです。場合によっては建物をつくらないという選択もありました。
最近、「賑わい創出」という言葉がマジックワードのように使われていますが、具体的にどういう状況を指すのでしょう? カチカチと測った歩行者の数が賑わいではないはず。測るべきは、空間の質・居心地の良さ。とくに公共空間は寝そべったり、会話したり、本を読んだり、仕事をしたりと、多様なアクティビティが許容されていることこそが価値ですから、その場で観察されたアクティビティを生かせる都市をデザインすべきだと、ゲールは伝えています。
一方、公共空間を扱う行政そのものも、増加した人口を捌くために工業的な観点で業務を行い、サービスを提供してきたように思えます。ところが、私たちの生活スタイルは多様化し、ニーズも変容。個別対応が困難な時代になっています。しかも、職員の人数は足りず、予算も潤沢ではなく、システムも整備されていません。だからこそ、行政にはデジタル・イノベーションが必要だと、『次世代ガバメント』のなかで若林恵さんは声を大にして言います。手続きや事務作業はIT化し、できた時間を個別対応に割けばいいと。住民の情報をきちんと管理すれば、一元的ではないこまやかなニーズへの対応も可能になるはずだと。デジタルによるデータ管理と、人としての対峙という2軸をしっかりと持つ、その手段としてDX(デジタル・トランスフォーメーション/ITを活用し、ビジネスモデルや組織を飯石 藍変革すること)をはじめとした行政府そのもののアップデートが急務だと指摘します。読者の考え方も更新される名著です。
▶ 『公共R不動産』コーディネーター/『nest』取締役|さんの選書 1〜2
▶ 『公共R不動産』コーディネーター/『nest』取締役|飯石 藍さんの選書 3〜5