『クル』では、店長の尾上由子さんご本人もほかのスタッフも、よい意味での緊張感を残しながら、のびのびと働いている。それは尾上さんが、常に「“働きやすい”とは何か」を問い続けてきた結果でもある。尾上さんの思考を養った5冊について伺いました。
その原点にある本は、『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』です。まだ一人で『クル』を運営していた頃、やりたかった仕事ではあったものの、胸の中に何ともはっきり言葉にできないモヤモヤを抱えてもいました。これはそんなときに手に取った本。本書にある「毎朝何でもいいから、思ったことや頭に浮かんだことを文でも絵でも3ページ書きなさい」というワークを毎日続けました。読んだ翌日に何かが劇的に変わったということはないのですが、いつの間にか気持ちがスッキリして、仕事のことだけではなく生活全般において前向きに考えられるようになりました。「次に何をしたらいいのか」が自然とわかり、結果的に「やりたかったことをやる状態」になれたと思います。「自分の心の中で何が起こっているのか」から目を逸らしては、働きやすい状態は生まれません。チームでお店を回すようになってからも、この思いは大事にしたいと考えています。
スタッフを雇うようになり、仕事場づくりや人間関係を考えるようになって影響を受けたのは、『WE AR
E LONELY, BUT NOT ALONE.』です。編集者の佐渡島庸平さんによるコミュニティづくり論で、「安心安全の後の熱狂」というフレーズが印象に残りました。コミュニティをつくるうえで、熱狂と拡大だけを続けようとすると疲れてしまうけれど、安心安全が土台になったうえでの熱狂は長く楽しく続くという内容です。私はスタッフに、その人の個性を生かした思いきったことをしてもらいたいと考えているのですが、いざとなったら私自身が「安心安全な存在」、つまり責任を取る存在になろうと改めて思えました。
スタッフの能力を観察し、「これは!」という力を引き出したいと思うときに念頭に置いているのが、『ワン・シング』の内容です。お店のあり方にも関わってくるのですが、あれこれと複数の指示を出すよりも、その仕事における目的をまず明確に伝え、あとはそこに向かって自由に一点集中してもらうやり方が、その人のよさを出してもらいやすくなる気がしています。
記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。