北九州未来創造芸術祭

北九州未来創造芸術祭 ART for SDGs。アーティストの視点から、SDGsをとらえてみると

「SDGs」を冠した芸術祭が福岡県北九州市を舞台に開催。アートから考えるSDGsやこれからの社会について、参加アーティストへのインタビューから読み解きます。


“大気の芸術”からSDGsを考える、奥中章人さん。


北九州未来想像芸術祭
作品の内部に立つ奥中章人さん。《INTER-WORLD/SPHERE: The three bodies》2021。

 メイン会場の一つ、北九州市の東田大通り公園に展示されている巨大な楕円球型の3つのバルーン。天候や、見る角度などによってさまざまな色合いに見えるこの物体こそ、美術家・奥中章人さんの作品。


 触れば“ポヨポヨ”っとした触感。風が吹けば当然揺れるし、中に人が入れば、動きを察知したかのように、作品全体が揺れ動く。見えない空気というものが可視化され、私たちの身近に当たり前のように存在する環境に、自然と意識が向かい出す。


「アートって文化であると同時に、社会との関わりが深いもの。個々が持っているフィルターで発信する、表現する、社会に問いかけることで、なにかSDGsのゴールに対して進めることがあるのかなあと、今回参加する中で思うようになりました」と奥中さん。特徴的なフィルムにも奥中さんの想いがあった。「見る人の視点や、日照条件によって、印象を劇的に変えたいなって思っていて。同じものを見ていたとしても、僕らはそれぞれが違うものを見ているはず。なにか、ものの見方が違うって、すてきだなって思いませんか? そういうところにたどり着けたらなって」。光を通じ、“多様であることが普通”をも暗示しているのだろう。


 今回、地元にある八幡中央高校の芸術コースの生徒をはじめ、北九州市のボランティアの人たち、総勢100人以上が作品づくりに関わった。奥中さんのこれまでの作品でも行われてきたものなのだが、そこにも多様性に対する独自の考えが宿る。「僕はみんなの交差点になりたいなって思っています。僕って人間がいて、そこに知らなかった人が交差して、友達になる。今回も高校生と大学生の交流があったり、20年選手のボランティアさんが僕に代わって作業をみんなに教えてくれたり。本当にすばらしい環境だった。年齢が異なるコミュニティ。交ざり合うって、ものすごくいいんですよ」。ローカリティを大切にした多世代から成るコミュニティの必要性は、さまざまな場面で求められているが、奥中さんは制作過程で軽々と構築してしまう。


 アートから考えるSDGs。その答えが奥中さんの作品には詰まっている。


縞柄とスケートボード。和田永さんが織りなす、新しい関係性。


北九州未来想像芸術祭
アーティスト・和田永さん。《BARDODE-BOARDING》2021。

 使われなくなった旧式の電化製品とテクノロジーを融合し、新たな楽器や奏法を編み出すパフォーマンスを各地で行ってきた和田永さん。この地で見出したのは、「ストリートカルチャー×エンジニアリング」。北九州で盛んなストリートカルチャーの一つであるスケートボードと、自身らで開発した「『バーコードリーダー』の電気信号をスピーカーにつなげて縞模様を音として鳴らす楽器」とのコラボを模索した。「自主性を持ったディープなローカルコミュニティである、地元スケートボーダーたちとの出会いからすべては始まりました。彼らの協力がなければ、『バーコードリーダー』を装着したスケードボードも完成しなかったですね」。縞模様が描かれた路面を滑ると、音が鳴る。シンプルだが、ゆえに広がる可能性。奇跡的な出合いはほかにもあった。伝統ある北九州市の小倉織との邂逅。「独特な縞々の模様をスキャンしてみたところ、宇宙的な音色が鳴り響いた。江戸時代に始まり、一時は途絶えつつも現代に再生された小倉織が、音としてまた再生される。隠された音と出合う展示ができるのではと思いました」。


 一見、SDGsとの関連がないように思えるが、そこには和田さん流の想いとメソッドがあった。「北九州のリサイクルセンターの入口に『資源は有限、活用は無限』と書いてあって、まさにそのとおりだなあって。使わなくなった道具とか、『これはこう使うもの』と思い込んでいるものに、別の使い方や、セカンドライフを見出してあげることで生き返る。活用が無限に渦巻く。“ネオユース”みたいなものがあり得る社会って、なんか熱くないっすか」。


 商品管理のためだけに生まれた「バーコードリーダー」が楽器として生まれ変わる。スケートボードや小倉織が、そこに彩りを添える。


「特権的なテクノロジーではなくて、身近にある、道具や廃材など、既にあるものを組み合わせて、自分たちのスタイルを編み出していく。この考え方、概念を多くの人と共有できたら、なにか持続可能なものが生まれるような気がしています」


誰一人取り残さない社会を目指す、鶴丸礼子さんの「服は着る薬®」。


北九州未来想像芸術祭
鶴丸さんのパターンによる衣服を、ポートレイト写真とともに展示。《服は着る薬》(鶴丸礼子アトリエ)。

 鶴丸礼子さんは、障害のある方の身体の特徴を、独自の製図法“鶴丸メソッド”でパターンに落とし込み、その人だけの世界に一着しかない衣服を生み出す。


 北九州市立美術館での展覧会「多様性への道」に展示されている鶴丸礼子さん制作の衣服をよく見ると、左右が非対称だったり、前後の着丈が異なったり。もともと、世界的ファッションブランド『ジバンシィ』のオートクチュールのアトリエに勤めていたという経験を持つ鶴丸さんだからこその技術。展示されていた衣服はすばらしく、それ自体がアートであると思えるが、鶴丸さんが目指すのはそこではない。


「すべての人が着る喜びを感じること。それは“うれしく生きる”こと。でも、うれしく生きられない人が大勢いる。洋服がないから、結婚式も、入学式も、お葬式にも行けない。着る行為そのこと自体に20分もかかってしまう。そういう人たちのために服をつくりたかった」


 会場には鶴丸さんの衣服を身に着けた人たちの写真も飾られているが、そのどれもがはつらつとして、自信に満ちていると感じる。家から出かけるようになったことで笑顔が増えたり、中には身体の歪みが徐々に治っていく人もいるのだとか。


 そしてメイクやファッションを楽しむことで、新しい自分、なりたかった人生に挑戦するようになった人さえも。道音さつきさんもその一人。生まれつき視覚に障害があった道音さんは、もともとマッサージを生業としていたが、鶴丸さんの衣服と出合い、幼いころから憧れていたファションデザイナーになろうと鶴丸さんに師事。人の数倍の努力を重ね、今では見事な作品を生み出すように。「鶴丸さんと出会ってバーンって人生が変わりました。洋服をつくるのが楽しくて仕方ない。日々、新しい発見があって、毎日はその連続です」と道音さん。会場には道音さんの作品も展示されているが、お世辞なしにカッコいい。


 本展のタイトルでもある「服は着る薬®」。すべての人が“うれしく生きる”ため、誰一人取り残さない社会を目指し、鶴丸さんの“処方”は続く。


SDGsがもっとフランクに語られるように。


「ART for SDGs」を掲げる本芸術祭に期待することとは。
北九州市市長・北橋健治さんと本芸術祭ディレクター・南條史生さんによる対談です。


北九州未来創造芸術祭
北九州市市長・北橋健治さん(左)、ディレクター・南條史生さん(右)。

北橋 世界の歴史を見ても現実を見ても、戦争や紛争が絶えないわけですが、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致でSDGsの目標が決定されました。これは人類共通の価値、目標が決まったということで、この地球にあって画期的ですばらしいことだとまず感じました。そして北九州市は2018年、OECD(経済協力開発機構)から「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」にアジア地域で初めて選定されました。


南條 その意味でもSDGsを冠した芸術祭を北九州市で開催することの大きな意義を感じます。世界でも、おそらくこれまでに例がない画期的な取り組みです。


北橋 もともと私自身、SDGs17のゴールの中にアートの項目がないことが疑問でした。2018年、ニューヨークの国連本部にゲストとして呼んでいただきまして、北九州のSDGsの取り組みを発表するとともに、18番目のゴールに「アート・文化」を加えてはどうかと提案したくらいです。


南條 これからの豊かさは、富やモノではないと思っています。ではなにが答えなのか。僕は価値のある時間を使うことこそが豊かであり、それが文化につながると考えています。アートというものは、感覚的に人にアプローチできる点が優れています。SDGsの目標に共有するメッセージを発信することとアートは非常に相性がいいです。


北橋 本芸術際は「東アジア文化都市事業」の一環です。日本・中国・韓国の3か国でさまざまな文化芸術イベントを実施、発信するもので、2021年の開催都市として北九州市が選定されました。そして今回、SDGsというすばらしい目標をアートで表現したいと考えた時に、南條さんしかいないと思いました。抜群のネットワークをお持ちですし、世界の最先端のモダンアートのビエンナーレには、いつも南條さんのお姿があるんですね。ですから、今回はお引き受けいただき感謝しています。


南條 こちらこそ大変光栄です。今回、テーマを割と絞り込んで、環境問題と多様性、社会的包摂にフォーカスしましたが、まだまだいろんな作家が出てくると思います。コンセプトも明快ですし、ある意味で誰にもでもわかる一つの方向性を示唆している。ですので、例えば10年続けていく仕掛けを一緒につくっていきたいなあと。日本から発進する強いメッセージにもなると思います。


北橋 このような格別の励ましのお言葉をいただきまして、救われる思いであります。SDGsという言葉も、最近は認知度が上がってきたように思います。アート表現によって、SDGsをもっとフランクに、多くの人に語られる日が来ることを、切に期待しています。その第一歩になれば大変うれしいです。


 


「北九州未来創造芸術祭ART for SDGs」


東田大通り公園、北九州イノベーションギャラリー、東田第一高炉跡、北九州市環境ミュージアム、スペースワールド駅前改札広場においての作品公開は、2021年5月9日をもって閉幕。このほかで現在ご覧いただける作品については、公式ウェブサイトにてご確認ください。
https://art-sdgs.jp/

編集部ピックアップEDITER’S PICK UP