与え、分かち合う靴磨き。『革靴をはいた猫』。

特集 | 自分らしい働き方 | 与え、分かち合う靴磨き。『革靴をはいた猫』。

かっこよく、そして、懸命に働く『革靴をはいた猫』の靴磨き職人。障害があっても、なくても、スタッフみんなで強い関係性を築きながら、遠い道のりを歩いてきた。どんなふうにして歩んできたのか。三人のスタッフと二人の職人に尋ねました。


人の可能性を見限らない。大切なのは話し合うこと。


 京都府京都市にある『革靴をはいた猫』は、知的障害がある藤井琢裕さんと発達障害がある丸山恭平さんが働く靴磨きと靴修理の店だ。「障害者が働いている」とは謳っていないが、弊誌を含めたメディアがそこに焦点を当てて取材をするのは、障害者の社会参加を促し、ノーマライゼーションを実現したいと考えているからだ。


「障害」とは何か? 『革靴をはいた猫』を経営する魚見航大さん、宮﨑雅大さん、後藤大輔さんは、この事業を始めた学生時代からその答えを見出していた。三人が通っていた龍谷大学のキャンパスに『樹林』というカフェがあり、学生と障害がある若者が共に成長するというコンセプトを掲げた就労継続支援B型の事業所として障害者が調理や接客を担当し、藤井さんと丸山さんも働いていた。しかし、多くの学生はカフェに関心を示さず、コンセプトは機能していなかった。そこで店長が、「『樹林』の活動を一緒に盛り上げよう」と学生たちに呼びかけ、手を挙げたなかに三人がいた。


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代表取締役の魚見さん。「藤井さん、丸山さんと同じ経験をしながら、一緒に転がってきた数年間でした」。

『樹林』での飲食業だけでなく、多様な仕事に挑戦すべきだと考えた三人は靴磨き事業部を立ち上げ、大阪の靴磨き店でアルバイトをしながら技術を習得。『樹林』に持ち帰って障害者スタッフに伝えた。ただ、藤井さんと丸山さんは仕事の種類が増えることを嫌がった。それ以上に、障害者として扱われることも気に入らなかったのかもしれない。そんな様子を感じ取った三人は、障害者スタッフと頻繁に話し合いの場を持つようになる。「障害者だからできないよね」と言われたり、吃音のせいで「何を言っているのかわからないから喋らないで」と言われて人前で話せなくなった藤井さんの気持ちを受け止めながら、「障害って、何?」と真剣に考えるようになった。


 宮﨑さんは言う。「吃音がある、ないにかかわらず、誰にだって言葉を発しづらいタイミングがあります。障害がある、ないにかかわらず、誰にだってできないことはあります。突き詰めていくと、経験・練習不足を『できない』の言い訳にするのはもったいないと思うようになりました」。さらに、「本人が『できるようになりたい』と思っているかが大切で、他人が『今、できないから』と、その人の可能性を見限る姿勢こそが障害ではないか?」と考えを深め、障害とは「人の可能性を見限ること」という答えを導き出した。「それは障害者に対してだけでなく、健常者にも自分にもあてはまること」と宮﨑さん。魚見さんと後藤さんも、「できないから」と日常的に可能性を見限っていた自分に気づいたと言う。


 人の可能性を見限らないためには、話し合うことが大切。『革靴をはいた猫』では、ほぼ毎日、営業後に終礼を行い、その日あったことや改善点などを話し合い、情報や思いをシェアしている。さらに2週間に1度、技術講習を行った後、みんなでご飯を食べに行く。そこで、日頃から抱えている「もやもや」を打ち明けたり、夢を語り合ったり。互いに「言う」、そして「聞く」ことで強い関係を築いているのだ。それは、『樹林』時代からの習慣でもある。「言う」「聞く」の姿勢が身につけば、「お客さまが伝えたいと思っていることを捉える力にもなると思います」と宮﨑さんは、靴磨き職人としての二人の可能性に期待を寄せる。


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外壁には店のコンセプトが書かれている。

“革猫”の思いは、地域へ、企業へ広がる。


 2018年2月にオープンした『革靴をはいた猫』。コロナ渦にあっても会社の売り上げは順調に伸びている。店の成長とともに、藤井さんと丸山さんの腕前も成長している。その要因に、「スタッフの接し方があると思います」と魚見さんは言う。「出張靴磨きサービスでは、大学の教授会の間に靴を磨く仕事もします。教授にスリッパに履き替えてもらい、会議中に十数足の靴を磨き上げるのです。ていねいに、素早く。『障害者だからできないよね』とは言っていられません。『磨くで!』です。『樹林』の当初は二人を障害者として見てしまっていましたが、今はもう……」。


『樹林』時代は時計が読めず、お金の計算も苦手だった藤井さんが、「仕上がりの予定は14時30分です。2足で5500円になります」と接客し、人との会話を極力避けていた丸山さんが、「いらっしゃいませ」と外国人旅行者を笑顔で店内に導いている。「障害」を感じさせない接客だ。


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職人で、ストア・マネージャーの丸山恭平さん。鏡面磨きで爪先をピカピカに。

 自身も10代の頃に引きこもっていた後藤さんは言う。「不登校の僕を友達や先生が引っ張り出してくれたから今の僕があります。『革靴をはいた猫』にまらず、障害があったり、引きこもりがちな若者が働くことができる仕組みを、京都、関西、日本中に広げていきたいです」と意気込む。そんな活動を『京都信用金庫』も応援。地域コミュニティを育む場としてオープンさせたビル『QUESTION』を盛り上げるパートナーとして『革靴をはいた猫』も参画する。さらに、大阪府の『阪和興業』と業務提携を結び、社内に靴磨きブースを出店し始めた。そこでは『樹林』出身の知的障害者二人が靴磨き職人として働いている。


 障害者の活躍の場は少しずつ広がっている。皆さんの職場で障害がある人が働いていたら一緒に考えてみてほしい。「障害」とは何か? 職場ごとに答えはあるはず。


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カフェ『樹林』で活動していた龍谷大生の同期のメンバーも何年後には京都に戻り、靴磨きだけでなく、カフェの飲食事業や農業など別の業種も事業化していこうという夢を持っている。

 

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