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仕事・働き方

特集 | 未来をつくる働き方図鑑

自由に、しなやかに未来をつくる。リモートバックオフィス系女子の生き方。

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多様な働き方を選べるいまの時代。自分にとって大事なものを、妥協することなく見つめ続けた結果、リモートでのバックオフィス業務にたどり着いた女子たち。未来をつくる新しい働き方に注目!

目次

「絶望的移住」と語る彼女の暮らしを変えたリモートワーク。

空間のSNS化『ニカイ』をつくった元・会社員。

 名古屋駅から電車で約20分。三重県北部に位置する桑名駅から10分ほど歩いた場所に、コワーキングスペースのような、自然と人が集まる場所『ニカイ』がある。ここを運営するのは東京都府中市で生まれ育った福田ミキさん。5年前に元・夫の転勤にともない桑名市に引っ越した。「最初に桑名駅のボロボロの駅ビルを見たときは泣きました。知り合いもなく、私たちには子どももいない。頼れるのは夫ひとりだけ。絶望的移住でした」と振り返る福田さんの暮らしを変えたのがリモートワークという働き方だ。桑名でやりたい仕事が見つからず悩んでいたとき、東京で居酒屋を運営する『ゲイト』の社長の記事を読んで、この会社なら自分でもなにかできるのではと感じメールした。1週間後に社長が桑名を訪れ、その場で握手。桑名のビルにオフィスを構え、時間をかけて一緒にリモートワークの仕組みをつくっていった。

『ゲイト』の桑名オフィスには、たくさんのモニターが並ぶ。
『ゲイト』の桑名オフィスには、たくさんのモニターが並ぶ。

 東京では銀行員として働いていた福田さん。前職で身につけたフロント業務とバックオフィス業務を分ける考え方をリモートワークにも活用し、秘書やPRなどの仕事をリモートで行う。ただしそこにはコミュニケーション能力が欠かせない。「主なやりとりはチャットの文字です。『○○しましょうか?』か『○○しておきますね!』なのか、言い回しに気を使います。あと東京に帰ったときはクライアントに会いに行くことも。普段は顔を合わせないので信頼関係を大切にしています」。

 福田さんのリモートワークは徐々にメディアに取り上げられるようになり、地域内外からオフィスへの来客が増えた。彼らがふらっと立ち寄れる新しい場が欲しいと考え始めた福田さんは、余白をデザインするというコンセプトで友人と『ニカイ』の場づくりをスタートした。施工の段階から子どもも大人も楽しそうに関わってくれたという。そして2019年7月、『ニカイ』はオープンした。福田さんは言う。「オープンと言ってもまだ完成ではなく、ずっと完成することのない場です。私の責任で運営する実験の場だと考えています。人が来て人とつながっていく。友人とは『空間のSNS化』と呼んでいます。カクテルみたいに人と人が交わり合う場にしたいと思うんです」。

 『ニカイ』ではリモートミーティングを行うこともある。この日は和歌山・大阪から計3名が参加し、以前開催したイベントの話や、チャットツールの活用法などを共有した。彼女たちはすでにチャットグループでもつながっているので話が早い。

WEBでリモートミーティングをする福田さん。
WEBでリモートミーティングをする福田さん。

社会とつながっている実感がうれしかったです。

同じ空間で支え合い、刺激し合えるリモートワーカーたち。

 すっかり桑名に慣れた福田さんは、地域のお寺が主催する『おてらこども食堂』を手伝うこともある。そこで出会ったのが、企業のバックオフィス業務を請け負うリモートワーカーの生駒さん。結婚を機に県外から桑名に移住し、2児の母になった生駒さんは「知らない土地での出産と子育ては、思っていた以上に寂しかったです。病院の方やネットスーパーの配達のお兄さんとの何げない会話が貴重で、とにかく人とのコミュニケーションを渇望していました。上の子が1歳のときにリモートワークを始めて、社会とつながっている実感がうれしかったです」と語る。お寺に足を運ぶようになったのもその頃からだった。二人はすぐに意気投合。福田さんのオフィスを一部開放し、同じ空間でリモートワークをする仲となった。

いく
リモートワーカーの生駒さん

 生駒さんは昨年9月、お寺の向かいに古着屋『Fukumochi vintage』をオープンさせた。近所の方から古着を譲り受け、生駒さんがセレクトして店頭に並べる。客は年会費3000円で1着借りて返せばまた1着借りられるシステム。いわば洋服のシェアリング・エコノミーだ。古着屋のある建物は以前『福餅』というお店で、数年前まで営んでいた80代の坂本さんが生駒さんの「古着を切り口にした、地域をおもしろくするお店を開きたい」という思いを受け入れた。生駒さんが忙しいときは、坂本さんがお店に立つこともある。「坂本さんが『別にええやんか。私が子ども預かるよ』と言ってくれるので、リモートワークが立て込んでいるときは素直に甘えます。逆に坂本さんが通っている病院に私が送迎することもあるんですよ」と笑う。

『Fukumochivintage』 にて、坂本さん、生駒さんと息子さん。
生駒さんが営むお店『Fukumochivintage』 

 生駒さんの話に共感していたのは、同じく2児の母である長田さん。福田さんが受託した案件の一部をリモートで担当している。「上の子が小学校に入学したばかりの頃、毎朝泣きじゃくって学校に行きたがらなかったんです。母親にべったりの子だったから予想はしていたのですが、どうしたものかと悩んでいて。でも当時、福田さんたちにその話をすることで楽になったんです」。福田さんは長田さんの話を聞いてボロボロ泣いたとか。共感してくれる仲間は貴重だった。「子どもが風邪を引いたときは福田さんに仕事を預けることができたり、またその逆もあります。『今日は早く帰りたい』など、気を使わずに言い合えます」と話す長田さんは、過去に続けていた水泳のコーチングを学び始めたという。「福田さんを見ていて、自分のやりたいことをやってみようと思えたんです」。リモートワークだからこそ、気の合う仲間の存在がありがたく頼もしい。彼女たちは空間をともにすることで、精神的に支え合い、刺激し合っている。

自分のやりたいことをやってみようと思えたんです。

リモートワーカーがつくる地域の未来。

 福田さんは地元のローカルWEBメディア『OTONAMIE』の副代表も務めており、『ニカイ』はその編集室も兼ねている。

右/福田さんが副代表を務めるWEBマガジン『OTONAMIE』のタブロイド判。左/あえて人が集まりやすいように『オシャレじゃない』空間を創ることを意識した。
左/あえて人が集まりやすいように『オシャレじゃない』空間を創ることを意識した。右/福田さんが副代表を務めるWEBマガジン『OTONAMIE』のタブロイド判。

 地域との関わりを開拓する福田さんは現在の暮らしを次のように語る。「夫と円満解散(離婚)したときに、東京に戻る理由がないと思ったんです。こっちに来て地域での暮らし方や自分で何かをしている人の仕事がおもしろいと感じました。『そんな生き方あるんだ!』って。大人が本気で遊んでそれが仕事になっている人もいたり。いろんな人とのつながりがあるからこのまま桑名で暮らそうと。5年前に移住した当時、こんな未来があるとは想像していませんでした。生駒さんともよく話すのですが、私たちは一手先しか考えられないんです。進んで、見つけて、また進む。でも進めば次の展開があるから楽しめます」。

『ニカイ』のスペースは『OTONAMIE』の市民記者でもある『ビジネスホテルビーエル桑名』の佐野社長が貸し出し、リノベーション費用も負担。
『ニカイ』のスペースは『OTONAMIE』の市民記者でもある『ビジネスホテルビーエル桑名』の佐野社長が貸し出し、リノベーション費用も負担。

 リモートワークという仕事がベースにあるからこそ、次の展開を実践できる。彼女たちの踏み出す一歩は楽しさを軸に、共感する人々を巻き込みながら地域を明るく照らし始めている。

リモートミーティングの向こう側にインタビュー!

田中あゆみさん

  大学を卒業して一般企業に就職しましたが、週5日同じ場所に出勤することが自分に向いていないと痛感し、今後の人生を考えた結果退職しました。その後はNPO法人でのマルシェ運営やベンチャー企業で伝統工芸品のネットショップや店舗の立ち上げなどを経験。多くの出会いの中で、実業家や起業家が専業に集中して、目的を実現するためのサポートをする仕事をしたいと思い独立。今は京都の宇治茶の産地の直売店や大阪の制作編集会社など、場所を転々としながらバックオフィス業務を行っています。

岡村菜見子さん

 新卒で一般企業に就職後、結婚・転居に伴い退職しました。出産後、子育てをしながら企業に勤めるものの事業縮小に伴いグループ会社への異動を打診され、知人であった長谷川さんに相談。『オフィスミモザ』で仕事をすることになりました。子どもを優先しながら好きな仕事ができるため、「ワガママワーク」ととらえています。リモートワークで自分の得意・不得意が再認識できるので、今の仕事は好きです。今の時代、携帯電話を仕事で使っている多くの人は実はリモートワーカーなのではとも感じています。

長谷川萌子さん

 会社員としての働き方に馴染めず、紆余曲折を経て起業を選びました。『オフィスミモザ合同会社』で、さまざまな組織の事務部門をリモートで実施しています。和歌山を拠点に東京・各地を行き来しながら仕事をする中で、「楽しい」と思う一方、都市部と地域の「機会格差」を痛感しています。地域では働き方や価値観が多様化していることを実体験する機会が少ないので、仕事や場を通して地域内外の人や情報に偶然出会う仕掛けをつくろうと活動しています。自分らしい働き方を選択できる人が増えたらいいなと思います。

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