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愛知県春日井市が取り組む「引越しのデジタル化」とは

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政府が「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」を決定し、目指すべきデジタル社会のビジョンが示されました。そのビジョンの実現を担うのが身近な住民サービスを提供している自治体です。そこで今回、多くの人がわずらわしさを感じている引越手続きをデジタル化した愛知県春日井市上下水道業務課を取材。引越れんらく帳(※)を選択した理由や導入のメリット、自治体DXへの考え方について上下水道業務課 課長 大沢昌也さん、デジタル推進課 課長 西田勝己さんにお話をうかがいました。

※引越れんらく帳は、TEPCO i-フロンティアズ株式会社が、東京電力エナジーパートナー株式会社から委託を受け、運営している引越し手続きのワンストップサービスです。
目次

◆引越手続きをデジタル化した背景とその理由

ソトコト 引越手続きのデジタル化を進めた背景や導入に至った経緯について教えてください。

上下水道業務課 課長 大沢昌也(以下、大沢):春日井市はデジタル化を推進しており、令和3年にデジタル推進課を創設しました。また、昨年度と今年度に下水道使用料の値上げで市民の皆さまにご負担をお願いしていたため、上下水道業務課では少しでもサービスの向上につながることをしたいと考えていました。そのタイミングでTEPCO i-フロンティアズさんから「引越れんらく帳」のお話を聞き、市民の方々の負担を軽減できると考え、導入の検討を始めました。

引越れんらく帳の他にも上下水道業務課ではデジタル化を進めており、水道や下水の管路図を今年4月からインターネットでも見られるようにしました。主に不動産や開発関連の業者の方々が必要とするもので、今までは市の窓口に来て紙で見ることしかできなかったのですが、インターネットで簡単に確認できるようにしています。

◆引越れんらく帳を選択した理由

ソトコト 引越手続きのワンストップサービスとして引越れんらく帳を選んだ理由を教えてください。

大沢:同様のサービスを提供している他の業者と比較して、提携先の数が多いところが決め手でした。やはり、市民の方々の利便性を考えると、多くの事業体や自治体とつながっていることは利便性に直結します。引越れんらく帳は現在、関東圏が中心だと思いますが、今後は中部や関西にも広げていくというお話があったので、中長期的な期待も含めて選ばせていただきました。

正直に申し上げると、お話を聞いた当初はあまり馴染みのないサービスだったので、基礎的なことを調べるところから始めました。そうしましたら、国も引越手続きのワンストップサービスを推進していることが分かり、前向きに進めることにしました。導入にあたってリモートでの打合せや意思疎通がスムーズにできたことも選んだポイントの1つです。

ソトコト 導入にあたって不安なことはありませんでしたか?

大沢:愛知県では半田市が導入していますが、まだ私たちの地域での導入例が少ないので、どの程度の効果が見込めるのかについては不安もありました。ただ、春日井市の他の部署とも相談していくなかで、市民の方々にメリットがあるという認識で一致できたので、後押ししてもらいながら進めることができました。

◆市民の利便性向上と行政の業務効率化を両立

ソトコト 引越れんらく帳にどのような期待をお持ちでしょうか?

大沢:目に見える形での、分かりやすい市民サービスの向上を期待しています。交通の便や子育てのしやすさなど、魅力を高めていき、選ばれる市になりたいと考えています。そういったことの一環として、転入・転出が多い市でもあるので、今回の引越れんらく帳の導入でさらに利便性を高めたいと思います。一つひとつの小さな施策を積み重ねていき、選んでもらうための理由を増やしたいと思います。

以前から水道の開閉栓の手続きはインターネットでできるようにしていました。ただ、3割ほどしか使われていなく、電話での受付が多い状態でした。電話だと当然、平日の営業時間内だけの対応になってしまいますが、引越れんらく帳は24時間いつでも申込みができて、水道だけではなく電気やガスなどにも対応しているので市民の方々にとって非常にメリットが大きいと感じています。

また、開閉栓の手続きは委託業者にお願いしていますが、インターネットでの手続きが増えることによって業務の効率化が進み、彼らの働き方改革にもつながってほしいと期待しています。

ソトコト 引越れんらく帳の導入で、デジタル推進課の果たした役割について教えてください。

デジタル推進課 課長 西田勝己(以下、西田):デジタル推進課としては、市民の皆さまの手続きをできる限りインターネットでできるようにしていきたいと考えています。春日井市では、年間に窓口での対応が100件以上発生する手続きが360あります。このうちインターネットでできるようにしたものはまだ30ほどなので、今後も増やして利便性を高める予定です。

インターネットで完結する手続きを増やしていくことは、市民の皆さまはもちろん、行政側にもメリットがあります。即時対応する必要がなく、一日のどこかでまとまった時間を作って対応することができるので業務の効率化を図れます。

一方で、インターネットでの手続き件数が一定の割合にならないと、かえって業務が煩雑になってしまう恐れもあります。また、システムの導入をする際には、そのための業務が増えます。デジタル化の推進に伴うそのようなハードルを超えて、引越れんらく帳の導入を大沢課長に決断してもらえたのは担当部局としてはありがたかったですね。

◆自治体DXの課題と未来

ソトコト 行政におけるデジタル化推進のために必要なのはどのようなことでしょうか?

西田:職員の意識改革が大切です。デジタル化を進める上で100%うまくいく確証があればいいですが、現実はそうではありません。そのため、デジタルを推進する部署が旗を振るだけでは各部局を動かすことはできません。導入の段階では仕事が増えることもあるので、抵抗にあうこともあるかもしれません。理解して納得してもらうことは簡単ではないでしょう。

一方、それぞれの現場が課題に対して当事者意識を持っていると、デジタル化はどんどん進みます。そのためにはまず、デジタル化に対する意識改革から取り組む必要があります。

大沢:私自身はDXに関しては素人で、最初に引越れんらく帳の話が来た時は知識もありませんでした。西田の話にあったように課題解決したいという意識はあったので、知見のあるデジタル推進課と最初からうまく連携できたことは大きかったですね。

ソトコト デジタル化に悩んでいる自治体も多いと聞きます。推進するために必要なのはどのようなことでしょうか?

大沢:まずは一歩、踏み出すことだと思います。迷っているとすぐに1年過ぎてしまいます。結果的に導入しないという判断になることもあると思いますが、検討すると決めることが大切だと考えています。

西田:春日井市のDXが進んでいるとは思っていません。むしろ、先進的な自治体の取り組みを参考にさせてもらっている側です。DXの話をすると、デジタルの“D”が強調されがちですが、うまくいっている自治体の方にお話を聞くと、デジタルありきではないですね。課題を何とかしたいという思いが先で、では改革しましょうと。そして具体策を検討する段階で、方法の一つとしてデジタルがある。

デジタルはあくまでも手段なので、やはり意識改革が先です。最近はそのことばかり考えています。そのために、先進的な自治体の方に来てもらい、管理職向けに講演会を実施しました。これには副市長も参加してもらい、上からの意識改革を進めています。

大沢:現場は普段、日常業務に追われがちです。しかし、やはり漫然と仕事をするのではなく、研修等で刺激を受けながら市民サービスの向上に取り組まないといけませんし、意識改革は重要です。市全体で取り組んでいるデジタル化推進の動きの中で、結果的に引越れんらく帳の導入は一つの例になれたのかなという思いはあります。

ソトコト 最後に今後の課題や展望を教えて下さい。

西田:行政は今後、2040年問題を見据えて住民サービスを持続・向上させる方法を考えなければいけません。生産年齢人口の減少によって行政における働き手も減ってくる中で、サービスを向上させていくことは大きな課題です。そうした状況で、やはりデジタル化がカギになると考えています。人手が少なくなっても市民サービスを維持・向上できるような仕組み作りを今後も進めてまいります。

大沢:市民の皆さまにはぜひ、引越れんらく帳を気軽に利用していただきたいです。まだ始まったばかりのサービスなので、改善点を見つけるためにもご意見をいただけるとありがたいです。もし、使い勝手がいいと感じていただけたら、ご友人やお知り合いにどんどん広めていただけたらうれしいですね。

どのような入力画面だと一番分かりやすいかなど、TEPCO i-フロンティアズさんと細かい調整を繰り返しました。ご意見を取り入れながら、今後もユーザーインターフェースを向上させたいです。また、市民の皆さまの利便性向上のためにも、引越れんらく帳を導入する自治体が増えることを期待しています。

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