長野県・小布施町役場総務課課長兼総合政策推進室室長の大宮透さんが、自治体として考えるべき自動車リサイクルのあり方について、『自動車リサイクル促進センター』(以下JARC)再資源化支援部の課長・鶴田雅裕さんに話を聞きました。
自動車リサイクルにおける 地域課題とは。
鶴田雅裕さん(以下、鶴田)まず大前提になりますが、廃車はゴミではなく資源の塊なのです。日本では自動車リサイクルに関わる人々の努力と工夫により車両重量ベースで99パーセント、使用済み自動車のほとんどがリサイクルされています。国際的には「ジャパンモデル」と言われ、日本の高度なリサイクル技術や仕組みを学ぼうと、海外からも視察に来るほどです。
大宮 日本の自動車リサイクルは、海外に誇っていいものなのですね。その上で課題はあるのでしょうか。また、小布施町のような1万人規模の行政として、自動車リサイクルに、どう関わるとよいでしょうか。
鶴田 課題として「不法投棄への対応」と「被災自動車の処理」があります。不法投棄でいえば、たとえば離島。島に廃車のリサイクル工場がない場合、リサイクル工場がある地域まで船で運ばなければならないのですが、輸送コストを敬遠され、不適正な保管や不法投棄が懸念されます。ただ、実際は廃車の海上輸送費には補助が出ます。このような情報の周知など、離島地域の自治体との連携に改善の余地があります。そのほか、地道な活動にはなりますが、離島において適正なリサイクル処理が行えるようになれば、島のリサイクル関連事業の経営が成り立つことにもつながります。自動車リサイクルを広い意味でとらえ、島の活性化にもつながればと期待しています。
大宮 小布施町では景観まちづくりを進めていることもあり、不法投棄ではないかもしれませんが、農地などに放置されている車を見かけると結構気になりますね。離島と同様に使われなくなった車は課題だと感じますし、自動車リサイクルを進めることで、地域の中の解体事業者などの利益につながることで、結果、町の経済活性化にも貢献できるととらえれば、行政としても積極的に関わらねばと感じました。
鶴田 次に「被災自動車の処理」について。車の所有者は使用を終えた車を、販売店などの引取事業者に引き渡す役割を担っています。ただ、大規模な自然災害により車の所有者が分からない状況、たとえば津波や土砂災害によって、ナンバープレートが外れ、車台番号もわからないような被災自動車の取り扱いについては、JARCから自治体に情報提供を行っています。
大宮 津波だけでなく、近年は異常気象などによる河川の氾濫や土砂災害が頻発しています。小布施町も2019年の台風19号災害で、町が処理する被災自動車は出なかったものの、住宅の浸水などにより甚大な被害がありました。ちょうど今、災害廃棄物処理計画を策定しているところです。
鶴田 現在、特に南海トラフ地震の津波浸水予測が出されている自治体が策定する災害廃棄物処理計画に、被災自動車への対応を定めていただいているところです。JARCでは、大規模な災害が発生した場合に備え、自治体の好事例となる取り組みを共有するなどのお手伝いをしています。
大宮 具体的にはどのような対応を自治体はとるべきなのでしょうか。
鶴田 被災自動車の手続きには時間がかかりますので、ほかの災害廃棄物と分けて、災害廃棄物の処理置き場を設ける対応が考えられます。
大宮 興味深いお話です。被災自動車とその他の災害廃棄物を分けておくことによるメリットは、どういうものでしょうか。
鶴田 被災自動車を適正にリサイクル処理し、鉄・銅・アルミなどの資源に戻すことができれば、自治体の財政的な負担を少なくすることができる可能性もあります。
大宮 使用を終えた車でもゴミではなく資源。自治体はこの認識を持たないといけませんね。
進化する自動車リサイクルと、 地域の事業者のこと。
鶴田 実は稼働している事業者数は年々減少傾向にあります。背景には少子化や事業の統廃合などさまざまな要因があります。持続可能な仕組みとしていくためには、稼働している事業者が一定程度必要になるとの意見もあります。ただ、車を適正にリサイクル処理する際、都道府県をまたいで、さまざまな事業者が関わっているのが実態です。リサイクル処理をする上で事業者の得意分野やコスト面などを勘案しながら、ビジネスにしているのです。局地で被災自動車が発生した場合、その地域で適性なリサイクル処理ができなくなる可能性があるので、広域での自治体間や事業者間の連携はますます重要になります。
大宮 おもしろいですね。廃棄物ですと、基本的には越県してはいけなかったり、地域の中で処理をしていく大前提があります。でも、車の場合は資源であるから、ある種の競争力を踏まえながら、全国規模で適性なリサイクル処理の連携ができている。同時に、素材のカーボン化やEVへの転換など、今後も車の技術革新が予想される中、自治体としては地域の事業者がその変化に対応できるのか気になるところです。
鶴田 技術競争の中で、解体しやすい車づくり、これを製造事業者であるメーカー独自の観点はもちろん、解体や破砕を担う事業者の観点、実際にリサイクル料金を負担するユーザーの視点なども織り込みながら、取り組みを進めているところです。JARCでは、使用済み自動車の適正なリサイクル処理に関する情報を提供するだけでなく、自動車リサイクル制度に関わるステークホルダーをつなぐ活動なども行っています。
大宮 小布施町も関係部署と相談しながら、地域内の事業者が持続可能な経営を行えるよう、情報共有を進めたいと感じました。今日はありがとうございました。
『自動車リサイクル促進センター』
記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。