延岡市駅前複合施設

連載 | SUSTAINABLEDESIGN | 延岡市駅前複合施設 エンクロス

2022.04.15

駅を街に縫い込んでいく。新しい駅前づくり。

駅のことを「街の玄関口」と呼ぶことがある。田園の中にポツンとある駅、見事な大アーチの駅、木造のレトロな駅舎、海を背景とした絶景の駅など、いいなあと感じる駅にもいろいろあるが、車社会化の進行によって、各地の駅はすっかり寂しくなってしまった。特に地方都市では深刻である。車による生活は便利だが、道路網の整備も含めて莫大なエネルギーを使う。持続可能な社会を本気でつくりたいのであれば、もう一度駅を中心に地域の暮らしを描かなくてはならない。

今回紹介する宮崎県延岡市の「新しい駅前づくりプロジェクト」は、全体が駅のような外観をしているが、実際のところは駅の横に、駅によく似た構造体を増築している。プロジェクトと言ったが、そもそも一つのプロジェクトではなくて、駅前複合施設、東西自由通路、JR駅舎改修、交番、宮崎交通バスセンター、駐輪場、駅前広場など10を超える小さなプロジェクトを建築家の乾久美子氏が、時に設計者、時にデザイン監修者として、統合していったものである。多くの関係者と設計していったのに、端々まで美しく端正な空間となっていることに驚く。

実際に訪れてみると、とても居心地がよい。駅なのに、全体が図書館のようでもある。施設内で子どもたちが遊び、児童館のような趣もある。昔の駅の待合室のように座って本を読んでいる市民も大勢いる。そうかと思えば地域物産店もあり、ワークショップも開くそうで、地域の交流センターあるいはまちづくり拠点とも言えそうだ。単にカッコいい、おしゃれというだけでなく、軒下空間や階段では、若者や老人たちもたむろして井戸端会議ができそうなのだ。通常は跨線橋によって駅が分断されてしまうところが、ここでは跨線橋がむしろ出会いの場に。駅と街とが見事に“縫い合わされている”のだ。SDGsの時代の駅はこうあるべきという素晴らしいプロジェクトである。

『延岡市駅前複合施設 エンクロス』
住所:宮崎県延岡市幸町3-4266-5
施工年: 2018年
©Ano Daici

藤原徹平
ふじわら・てっぺい●建築家。1975年横浜生まれ。2009年より『フジワラテッペイアーキテクツラボ一級建築士事務所』主宰。2010年より『一般社団法人ドリフターズインターナショナル』理事。建築、地域計画、まちづくり、展覧会空間デザイン、芸術祭空間デザインと領域を越境していくプロジェクトを多数手がける。2012年より横浜国立大学大学院Y-GSA准教授。受賞に横浜文化賞 文化・芸術奨励賞など。


記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。