小さなお店を開いて、自分の好きなものを広めてみませんか?シェア店舗「アキナイガーデン」では、月1回から場所を借りて出店ができます。今回は、アキナイガーデンを運営するご夫妻と出店者のお一人に取材し、それぞれの視点からお話を伺いました。初めてでも出店を楽しめる工夫や空気感は、「好きなものを伝えたい、でもいきなり一人でお店をやるのは不安」という人でも小さなステップから始めやすいものでした。
シェア店舗「アキナイガーデン」とは
歴史のある弘明寺商店街沿いで、月1回から場所を借りてお店を出せるシェア店舗「アキナイガーデン」。10.5㎡の小さなスペースで、商品を販売できます。
弘明寺商店街は、春には大岡川沿いに桜が咲き、たくさんの人で賑う場所。客層は商店街を利用するご年配の方から、SNSを見た若い方、近所の主婦の方など様々で、幅広い年代の方がお店に立ち寄っています。
出店者がアキナイガーデンを利用する理由
現在出店しているのは、マフィン店や焼き芋店、セレクト雑貨店、カフェなど。出店者は本業がある方や主婦の方が多く、商品の販売が一番の目的というよりは「お店を通して好きなことや作ったものを広めたい」「みんなでゆっくり話せる場を作りたい」などの理由だそう。
もちろん販売することも目的の一つではありますが、それだけではなく、自分の好きなものを広めたり、接客の楽しさを味わったりするために利用することもできるのです。
アキナイガーデンだからできること
自分の趣味や好きなことを誰かと共有したい人にとって、アキナイガーデンはおすすめの場所。稼ぐことにこだわらず、好きなものを誰かと共有したり、接客を楽しんだりすることを応援してくれるシェア店舗は少ないかもしれません。
また、初めて出店する人でも始めやすい環境が整っています。
・人通りの多い場所にあるため、地域の人が立ち寄ってくれる
・出店時はアキナイガーデンのホームページやSNSで宣伝できる
・備え付けの机や棚に展示できる
・店内だけでなく、お店の前の屋外で顔を出しながら販売可能
・屋外で使える机や展示台、コンセントもある
出店者同士の交流会「コアキナイト」
販売だけでなく、月に1回コアキナイトという出店者同士の交流会も開催(現在はオンラインで開催中)。
コアキナイトは食事をしながら情報交換をしたり、運営の相談をしたりする場になっているのだそう。また、コアキナイトから出店者どうしのコラボが生まれることも。販売だけではなく、横のつながりができることで継続しやすい環境になっているようです。
「アキナイガーデン」を運営するご夫妻
アキナイガーデンを運営しているのは、梅村陽一郎さん、神永侑子さんご夫妻。店舗と住居がセットになった暮らしをしていて、現在はマンションの1階でアキナイガーデンを運営しながら、同じマンションの3階で生活をしています。
お二人とも本業は設計士。ご自宅とアキナイガーデンのリノベーション設計はお二人で行っています。店内のレイアウトも、自分たちで時々変えているのだそう。DIYで作られたベンチや机などは、人の手仕事の温かみを感じられます。
始めるきっかけは、シェアハウスでの経験
アキナイガーデンを始めるきっかけは何だったのでしょうか。また、本業を持ちながらシェア店舗の運営をするのは大変ではないのでしょうか。シェア店舗を始める前から今までのことについて、お二人に伺いました。
筆者 商い暮らしのきっかけが、「何か新しい暮らしがしたいね」という会話からだったそうですが、どうしてそう思ったのでしょうか?
神永 お互いシェアハウスに住んでいたこともあって、それぞれの趣味や好きなことを共有できるのが心地いいなと感じていたんです。シェアハウスで起こっていたようなことを、自分の生活の軸にしたいと思ったことがきっかけですね。
筆者 シェアハウスで感じた、好きなものを共有する楽しさが原点になっているんですね。
神永 そうですね。その時に「商い暮らし不動産」という、店舗付き住居の物件だけ扱っている不動産サイトを見て、店舗と住居がセットになった暮らしができたらいいなと思って物件を探し始めました。
そこからお二人は“趣味や好きなことを共有する庭”をイメージした、「アキナイガーデン」を実現するための準備を進めていきます。
小商いを実現する難しさも
準備を進める中で、思うようにいかないこともあったのだそう。
梅村 最初は一棟借りしようと思っていたので、不動産にも相談して受付もして、見積もりも取って、と準備を進めていたのですが、想像以上に金額が高くて……。
神永 生活を楽しくするために物件を借りたいなくらいの気持ちと、金額のギャップが大きくて、悩んでいるうちに他の人に決まってしまったんです。
予想以上の資金や、事業計画を立てて実現することの難しさを痛感しながらも、プレ商いをするなど地道な準備を続けていたお二人。次の物件を探し始めてから半年が経った頃、今の水谷マンションとの出会いがあり、弘明寺商店街での暮らしが始まっていきます。
アキナイガーデンで生まれる新たな出会い
筆者 アキナイガーデンを始めてから、お2人にとって印象的だった出会いはありましたか?
梅村 飯野さんの存在は大きかったです。
飯野さんとは、以前アキナイガーデンでお茶のお店を出していた、出店者の一人。今は地元である福岡へ戻り、誉茶紡(ほまれさぼう)という屋号で茶葉の販売を行っているのだそう。
飯野さんは一出店者としてお店を開くだけではなく、お二人と一緒にアキナイガーデンのことを考えてくれていたのだそう。
神永 人柄も素敵で、パワフルで、上手くいくことも上手くいかないこともありましたが、同じ気持ちを持って一緒にいろんなことに取り組んでくれました。
梅村 飯野さんは弘明寺商店街が好きで商店街のボランティアもしていたので、飯野さんのつながりで商店街の人と仲良くなることもできましたね。
筆者 お二人としては寂しさもあるのでしょうか。
神永 寂しいですね。もっと一緒にいたかった気持ちはありました。でも今は、SNSで想像以上の活躍を見て、とても嬉しくて。アキナイガーデンがなかったら飯野さんに出会っていないですし、他の出店者さんとも出会わなかったと思うので、人との出会いやつながりは長く、大事にしていきたいです。
アキナイガーデンを通して生まれる、新たな人とのつながり。きっとお店をやっていなかったら出会わなかった人たちとの出会いが、お二人の暮らしに予想もしなかった変化や幸せを運んできてくれているようです。
出店者が感じるアキナイガーデンの魅力
取材当日に出店していたセレクト雑貨店「tsumugi(ツムギ)」の山崎さんにも、出店者側から見たアキナイガーデンのお話を伺いました。山崎さんは、以前は東京で不定期イベントを行っていたそうですが、「定期的に、その場に根差したところで出店したい」と思うように。
アキナイガーデンは知人の紹介で知り、コンセプトや思いに共感し、出店することを決めたのだそう。約一年前から月に一回、テーマを決めて毎月違う商品の販売を行っています。
筆者 雑貨の販売をしようと思ったきっかけは何ですか?
山崎 今の会社が副業を応援してくれる会社だったので、最初は社内でイベントを開催していました。やっていくうちに、物を通して来てくれた方の生活を彩るお手伝いをすることに興味を持ち始めて。そこから日常に寄り添ったイベントをしたり、雑貨の販売をする方向にシフトしていきました。
筆者 アキナイガーデンに出店する前後で、変化はありましたか?
山崎 一人で場所を借りて販売する場合は私が頑張って発信しないといけないのですが、お二人が周りに話してくれたり、SNSや商店街とのつながりを作ってくださるので、すごくありがたかったです。お客さんをどう増やしていくかは今も課題ではあるのですが、この地域の人に認知してもらう最初のステップは、お二人の協力もあって乗り越えられたと感じています。
山崎 あとは定期的に開催することで地力がついたというか。毎月やることで、次はどうしようと一年通して考えることができたので、2年目にプラスαでやりたいことが見てきたのはすごく良かったです。
販売する時はお客さんと話しながら、どこでどのように作られているか、どんな人が作っているかなど商品の説明をしているのだそう。小さなお店だからこそ、お客さんとの距離も近づき、接客の楽しさをより味わえるのかもしれません。何気ない会話や商品のストーリーを通して、ただ売る・買うだけではない温度感が生まれてることを感じました。
小さなお店から広がる笑顔の輪
わずか10.5㎡の小さなシェア店舗。取材を通して、その小さな場所からたくさんの笑顔が生まれていると感じました。それは、出店者のみなさんの「好き」という想いが商品に乗り、一緒に伝わっているからだと思います。これからもアキナイガーデンでは、そんな優しい気持ちの循環が続いていくでしょう。
暮らしの中に小さなお店を持つことで、今よりも日々がちょっと楽しくなるかもしれません。「好きなものを伝えたい」「誰かと共有したい」など、自分の想いの実現に向けて、小さなステップから始めてみてはいかがでしょうか。