ワイン文化が根づいたヨーロッパでは、ビジネスマンのランチミーティングで当たり前のようにワインが出てきます。よく覚えているのが、南スペインに滞在中のこと。カフェでお茶していたら、お昼の休憩時間に目の前の銀行からおじちゃんがダッシュでカフェに入ってきて、赤ワインを一杯美味しそうに飲んで、またダッシュで職場に戻っていきました。こういう文化を目の当たりにすると、ワインは酒にあらず! とつくづく感じます。でね。ヨーロッパにおけるワインの起源を辿っていくと、確かにワインは単なる嗜好品としての酒ではないことがわかってくるのだな。それでは海外編一発目のトピックスはワインでGO!
トルコの砂漠に残るキリスト教遺跡
ワインはブドウの果汁を醸したアルコール飲料。ブドウの中に含まれるブドウ糖を酵母に食べさせ、アルコールと独特の香りを含むかぐわしい酒に発酵させます。でね。ワインの発酵のポイントは日本酒やビールと違って「水を使わない」ということなんですね。水が湧いていない土地でも醸すことができる酒なんです。
トルコの内陸部、延々と岩場と砂漠が広がるアナトリア地方に、4世紀頃につくられた初期キリスト教の隠れ里の遺跡が残っています。岩場に洞窟を掘って、ローマ帝国の迫害を逃れていたのですね。幸運なことに、僕も現地のおじさんの案内で洞窟内のキリスト教会に案内してもらったことがありました。真っ暗ななか、必死に地下に下りていくと、なんとそこにはワイン醸造をしていたと思わしき場所が! こんな砂漠のような場所でどうやって酒をつくっていたんだろう? と当時は疑問に思っていたんですけど、考えてみるに「砂漠だから」、ワインをつくっていたんですね。
砂漠を生き延びる安全な飲料
ブドウが栽培可能な作物として定着したのは、起源前3000年頃の黒海やカスピ海に面した中東からコーカサス地帯、そこから中国西部や北アフリカに伝わり、トルコからギリシャを介してヨーロッパに伝わっていきます。ブドウの歴史の黎明期は、乾いて水のない地域がメインだったんですね。
さて、このブドウという植物。根っこを地中深く伸ばし、土中の水を汲み上げるポンプのような働きをします。つまり乾いた土地に生きる人々にとっての井戸のような役割を果たしていたようです。ブドウの樹の根っこと幹をポンプとし、果汁を飲み水とするわけです。そしてだな。果汁に豊富に含まれるブドウ糖は、微生物の大好物。とりわけブドウの皮にくっついている野生の酵母たちの好むエサです。ブドウの果実を搾るときに果汁に混入した酵母たちがアルコール発酵を始めると、シュワシュワと果汁が泡立ち、かぐわしい酒へと変わっていきます。さらに! 果汁のなかのアルコール濃度が高まると、腐敗をもたらす雑菌を防ぐバリアの役割を果たすようになるのですね。
つまりだ。「砂漠でもゲットできる腐らなくて安全な飲料」、これがワインの起源なんですね。教会のミサに行くと、赤ワインとパンをもらいますね。「キリストの血=ワイン」ということなんですが、これはただの比喩ではなく、イスラエルを西へ追われたキリスト教徒たちが砂漠を生き延びることができたのが、ワインのおかげだったからなのです。
ということで、次回は「キリストの肉=パン」のお話に続きます。押忍!