クスッとするほどおもしろかったり、ジーンとくるほど感動的だったり、さらには新しい仕事をつくったり──。5年以内に動き始めた、全国各地で行われているフレッシュなローカルプロジェクトを紹介します。
プラントミルク専門店『為体−teitaraku−』/富山県滑川市
プラントミルクのおいしさを伝える、野菜嫌いが営む専門店。
牛乳を飲むたびにお腹の調子を崩していたというミズノアユミさんは、植物を原料とするプラントミルクのおいしさに感動し、自ら調理と提供を行う専門店の開業を志した。「わたしと同じく、プラントミルクなら体調を崩す人も少ないはず。それなのに『意識が高い人の飲み物』というイメージがあって、まだ口にしたことがない人にもこのよさを伝えたい」と話す。
2022年、イベント出店などを続けながら物件探しを開始。重要文化財候補だった元・歯科医院の建物に惹かれ、富山県滑川市に店舗を構えた。幼少期からの野菜嫌い、介護職の経験から、幅広い人がおいしく食べられることを意識し、食材と人に“寄り添う”メニューを提供中だ。
ピンチの「攻略法」
「ピンチはない」と言い切れるほど、笑っていればどうにかなります。流れに身を任せるのも楽しいですよ。
図図倉庫(ずっとそうこ)/福島県・飯舘村
被災地の村で、ゼロから、自由な場づくり。
環境課題と地域環境づくりに取り組む『図図倉庫』の大部分は用途を定めないフリースペースで、村民、科学者、アーティスト、学生などと場づくりをしている。施設があるのは、東日本大震災による原子力発電所事故の影響で2011年4月から計画的避難区域となり、17年に一部を除き避難指示が解除された福島県・飯舘村。10年間放置されていた県道沿いのホームセンター『コメリ』の建屋を活用し、22年に開設した。
『コメリ』から「使い手さえいれば建屋を壊さず残したい」と相談を受けた村長は、都内企業を退職し、飯舘村の地域おこし協力隊隊員に着任した福島市出身の松本奈々さんと、復興支援に携わる父親の影響で、高校生時代から都内と村を行き来する矢野淳さんに声をかけた。二人は以前、松本さんが取り組むアートプロジェクトで協働していた。2021年、村、『コメリ』、松本さんと矢野さんが立ち上げた合同会社『MARBLiNG』で地域貢献を目的に掲げた三者協定を締結し、プロジェクトがスタート。矢野さんは、「ゼロになったからこそ、一緒に村をつくっていける感覚」と話す。
ピンチの「攻略法」
元・住民や移住者、ボランティア、研究者のつながりづくりが難しい。共通目標を決めると対等に向き合うことができます。
BeBA TERRACE(ビバ テラス)/岩手県盛岡市
「遊びと学び」を核に新しい公園の運営をスタート。
1978年に開設された盛岡市中央公園の敷地内に、待機児童増加を受けて保育園を併設したいと考えた岩手県盛岡市は、市と民間事業者が協定を結ぶPark-PFI(公募設置管理制度)を利用し、2020年より複合施設『BeBA TER
RACE』を順次オープンしている。
2019年にはこの複合施設に参画する事業者の公募があり、保育園、南部鉄器の体験工房、飲食店からなる地元事業者グループが採択を受けた。園内の既存施設として『子ども科学館』や『岩手県立美術館』があることも踏まえ、テーマを「遊びと学び」に設定。各事業者が整備費と維持管理費を負担し、市の財政負担を軽減する運営を実現した。
ピンチの「攻略法」
コロナ禍で建築コストが増加。コンテンツの見直しや事業者の体制づくりを行った結果、行政負担を軽減した公園経営になっています。
ソーシャルマルシェ&キッチン『GINGHAM(ギンガム)』/群馬県前橋市
県庁舎の上層階に、人が集う“まち”をつくる。
2023年6月にオープンした『GINGHAM』は、33階建ての群馬県庁舎の31階部分にある。大規模改修の一環で、財産有効活用課が管理していた観光物産展示スペースをリニューアル。弊誌編集長・指出一正が群馬県出身ということもあり、改修、管理・運営事業者の公募に思い入れを持って応募、事業者として採択を受けた。
「空の上のまちのような空間」をイメージし、建築設計事務所の『オープン・エー』とともに整備。イベント企画などを担う会社『はじまり商店街』と共同で運営を行っている。来場者のニーズを汲み取って運営に反映したり、来場者同士のつながりをつくったりするため、県内在住の若者たちがコミュニティマネージャーとして常駐している。
ピンチの「攻略法」
オープニングの盛り上がり後、県民をどう集めるかが課題に。コミュニティマネージャーの情報発信で模索中です。
チルタナ/宮城県・利府町
町役場で町外の情報にふれる、インフォメーションセンター。
宮城県・利府町の役場1階にある約3畳のスペース『チルタナ』には、町外を案内するフリーペーパーや、町立図書館には並ばないような書籍が並んでいる。コンセプトは「もうひとつのインフォメーションセンター」で、「チル」と「オルタナティブ」を足した造語が施設名の由来だ。
約1年ほど使われていなかった元・農協派出所の空間を活用するため、シティセールス係の担当者から、町内の公共施設運営を受託する『グラニーリデト』の代表・桃生和成さんに相談があった。「小商いを支援する物販店の案もありましたが、人通りは少なく、予算ゼロで人件費は出ない。そこで考えたのが、『無人で情報を並べる場所』です」と桃生さんは2023年の開設時を振り返る。
桃生さんは、「まちにおもしろい人を増やしたい」と願うベーグル店『spica』店主で、町民の鈴木朝美さんに声をかけ、什器や物品を二人でセレクト。訪れるたび変化があるよう、陳列はコンスタントに入れ替える。桃生さんは、「『おしゃれだね』で思考停止せず、外のことを知って行動を起こす町民や役場職員が現れてほしい」と話す。
ピンチの「攻略法」
魅力的な空間というわけではなく、予算がないため無人。制限があるからこそ思いつく工夫がたくさんあります。