ものがたりは生きている。『あいたくてききたくて旅にでる』

ものがたりは生きている。『あいたくてききたくて旅にでる』

 人から人へ、口から口へ。それは文学と呼ばれる高尚なものではなく、かつて市井の人々が日々の苦しみから解放されるための慰みとして語り始めたものだ。「民話」と呼ばれる名もなき人々のそうした物語を山間の集落や海辺の寒村に直接出向き、東北で50年にわたり採訪した民話採訪者の小野和子さんが綴ったこの本は、歴史に埋もれたたくさんの物語に満ちている。小野さんがなにかに導かれるように人々から民話を請い、集める目的は何だろう。それは民俗学的観点からだけではなく、そこに失われゆく言葉があり、人々の暮らしがあるからではないだろうか。


 読み進めていくうちに、ぼんやりと立ち上がる誰かの営み、そして名も知らぬ誰かの人生。かつて大地震が起こり、すべてが一晩にして洗い流されてしまったぼくらの日常も、やがて風化してしまうのだと伝えているかのようだ。本書が東日本大震災で甚大な被害を被った宮城県から、それも独自の幽玄的な世界観を持つ写真家・志賀理江子らが立ち上げた出版レーベルからリリースされた意義をずっと考えている。


『あいたくてききたくて旅にでる』


 著者:小野和子 出版社: PUMPQUAKES(パンプクエイクス)

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