言葉がまったく重さを持たず、言葉そのものの存在を否定するかのような言葉遣いをする為政者がこの国の中心にいる。だからこそわたしたちが考え、話し、伝える言葉を、よりていねいに拾い集める必要があるのだし、わたしたちが正しいと思うことをより慎重に言葉を選びながら、語る必要があるのだと思う。
梨木香歩さんが2015年に東京の『ジュンク堂書店』で若者たちに語った講演のメモ書きを元に構成されたこの本は、まるでわたしたち一人ひとりに語りかけるような親密さと、簡潔で潔い語り口でわたしたちの心に静かな余韻を与えてくれる。
誰かに同調することの簡単さが生み出す恐ろしさと、現代の情報の大海原のなかから情報を比較対照し、真実を見つめることの大切さ。わたしたちのことを誰も、国ですらも救ってはくれないのだという諦念。そして、だからこそ自分を頼りに、自分の感性を磨くことで自分だけを信じてこの時代を生き抜くのだ、というかすかな希望。その両方を実にはっきりと、明確にわたしたちに伝えてくれる梨木さんのまっすぐな誠実さこそが、このコロナ禍に生きるわたしたちにとって何よりも必要な言葉なのだ。
『ほんとうのリーダーのみつけかた』
著者:梨木香歩
出版社:岩波書店