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特集 | 災害と生きる with a natural disaster

被災と復興の経験を地域の資産に!『中越防災安全推進機構』が歩んだ15年と、未来。

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新潟県で発生した中越地震から15年。「復興とは何か?」と考えながら、インターンの学生たちと一緒に人生を立て直してきた被災地域の人たちは、復興の先にある未来の生きがいや幸福を今、見つけ始めています。

目次

右肩下がりの時代に、中山間地域を襲った地震。

2004年10月に新潟県を襲った中越地震。とくに長岡市や小千谷市などの中山間地域では土砂崩れや家屋の損壊などが集中し、死者68人、重軽傷者4795人という大きな被害をもたらした。「中越地震は、人口減少社会の扉を開けた地震でした」と、震災の教訓を未来に伝える『中越防災安全推進機構』統括本部長の稲垣文彦さんは振り返る。「中山間地域の集落で住宅を再建するとき、約3割の世帯がまちでの再建を選びました。それによって、震災前から課題となっていた人口減少や過疎化が一気に加速したのです」。

集落の人々は復興に向けた努力を惜しまなかった。稲垣さんも行事や農作業を手伝ったが、次第に「復興とは何だろう?」と考えるようになった。「人口が増え、経済も伸びる右肩上がりの時代は、壊れた家を再建し、景気の波に乗れば復興は実現できました。でも、中越地震は右肩下がりの時代の地震。家を再建しても人口は減り、経済も伸びないため、復興感が得られなかったのです」。

そんなとき、力になったのが、『中越防災安全推進機構』の活動の柱でもある「にいがたイナカレッジ」のインターンシップで集落を訪れた若い人たちだった。自身も長岡市の川口木沢地区でインターンシップを経験し、今はコーディネーターとして学生を中越地方に迎え入れている井上有紀さんは、「私もそうでしたが、今は中越地震を詳しく知らないでインターンシップに応募する学生がほとんど。インターンシップも復興目的ではなく、『地域と自分の価値探求コミュニティ』というスローガンで実施しています。集落や企業の人たちと触れ合うなかで、新しい自分なりの価値を見つけてほしいです」と、インターンシップへの参加を呼びかけた。

「にいがたイナカレッジ」という仕組みから、地域と若者が出合い、関係を深めていきます! 長岡市・川口地域の店で活躍する、インターン生!

「にいがたイナカレッジ」は、1か月間のプロジェクト型の集落インターンシップと6か月間の企業インターンシップを実施している。今、3人の大学生が企業インターンシップを体験中で、仲島光希さんは新潟大学の4年生を休学し、長岡市・川口地域のスーパー『安田屋』でインターンを実践している。「スーパーではSNSでの情報発信や商品のPOP制作を担当しています。POPはできれば仕入れ担当の従業員に書いてもらえるよう、パソコンで簡単なフォーマットをつくっています」と話す。一方で、川口地域にある数社の企業を訪ね、従業員の人数や年齢層、『安田屋』のことをどれだけ知っているかなどのアンケート調査も実施。「地域外から勤めている方に、帰宅途中に『安田屋』で買い物をしてほしいので、チラシやパンフレットをつくって企業に配布しようと考えています」と、SNSでは届かない層にアナログな方法でアピールするつもりだ。最近は惣菜担当の従業員から惣菜づくりやケーキづくりを教えてもらい、「はまっています」とインターン生活を楽しんでいる。
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右/店の片隅にインターン生の仲島さんを紹介する手づくりのボードが。「見かけたら気軽にお声がけください」と。左/焼き肉用の肉もPOPでていねいに説明しながら販売。
専務の山森瑞江さんは、「私はストレートにものを言う性格なので従業員との距離を感じるときもありますが、仲島くんが、私の思いを従業員に、従業員の考えを私に伝えてくれるという潤滑油的存在となって橋渡しをしてくれています。おかげで誤解が解けたり、勘違いだったことに気づいたり、職場がいい雰囲気になってきています」と喜ぶ。震災後の人口減少や高齢化によってスーパーの売り上げは伸び悩んでいるものの、「仲島くんが来てくれたことで気持ちが前向きになりました。地域に一軒のスーパーとして存続できるよう頑張ります」と力強く話した。
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左/山形県出身で新潟大学を休学中のインターン生の仲島さんと、右/『安田屋』専務の山森さん。
また、川口地域を流れる魚野川では古くから料理店『川口やな男山漁場』によるやな漁が行われてきたが、2011年の新潟豪雨によって川岸にあったやな場と食堂が流されてしまったため、現在、川から少し離れた別館で営業を行っている。「川岸のやな場と食堂を復活させようとしましたが、河川法によって個人の店は建てられないと。150年以上続く伝統のやな場を継続させたいのですが」と話す『川口やな男山漁場』の関達夫さん。そこで、個人店舗としてではなく、やな場で獲った鮎などを焼いて食べられる地域の賑わいの場を団体として川岸につくりたいと交渉を始めている。
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雨が降って水かさを増した魚野川。川岸にやな場がある。
その打ち合わせが商工会青年部を中心に開かれているが、家族経営の関さんは多忙で出席できないことも。そこで、会議に出席し、市役所支所とのやり取りを代行してくれる若者を「にいがたイナカレッジ」のインターンシップ震災後は復興ボランティアやインターンシップの学生を受け入れるようになり、「若い人たちのおかげで村の雰囲気が明るくなりました」と代で募ったところ、法政大学の4年生を休学した園部莉緒さんが応募。店で働きながら、関さんの代役として東奔西走している。「来てまだ2か月です。地域の人との距離を縮めるのも仕事のうちと思い、電話で済む用事であってもあえて足を運んで顔を合わせて話すようにしています」と園部さん。住んでいる川口田麦山地区は中越地震で7割ほどの家が損壊した被害の大きかった地域。ただ、行事を頻繁に開く集落でもあり、「不測の事態が起こっても助け合える関係性が普段からつくられていてうらやましいです。来週は運動会。私は水汲み競走と綱引きと玉入れに出ます」と集落に馴染んでいっている様子を笑顔で話してくれた。

インターン生を受け入れ、復興する川口木沢地区。

井上さんも学生時代にインターン生として活動していた山の中の川口木沢地区には、『フレンドシップ木沢』という任意団体があり、震災前から地域おこし活動を行っていた。震災後は復興ボランティアやインターンシップの学生を受け入れるようになり、「若い人たちのおかげで村の雰囲気が明るくなりました」と代表の星野靖さんは話す。
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『フレンドシップ木沢』のメンバーと川口木沢地区を訪れたインターン生とそのOB・OG。左端は稲垣さん。冬の豪雪を避けるために道路沿いに設けられた共同の車庫の前で。
「世代が異なる人たちとつきあうことで、いろいろなことを知ることができるし、人として成長していける気がします。インターンシップの若者たちが集落に来ていなかったら、今の自分もないと思います」。

ただ、震災から15年が経った今、川口木沢地区の人口は31世帯・63人に減り、高齢化率は70パーセントを超えた。「僕らも15年、年を取ったということ。でも、こうして若い人たちと話していると、15歳ぐらいあっという間に若返りますよ」と星野さんは笑う。そんな笑顔の向こうに、被災地の人々の復興後の生きがいが見いだされていくのかもしれない。

中越地震から15年。今、思うことや、これからしたいことは?

●『川口やな男山漁場』インターン生の園部さん

『川口やな男山漁場』インターン生の園部さん。「集落で行事があるときに『お前さん、手伝えるか?』と、関わるきっかけを与えてくださるのがうれしいです。同世代の方とも知り合いたいです」。

●『安田屋』インターン生の仲島さん。

『安田屋』インターン生の仲島さん。「住んでいる西倉地区の農業法人で米づくりを手伝ったり、惣菜売り場のおばさんの畑を借りて夏野菜を育てたりしています。農作業、おもしろいです!」。

●『フレンドシップ木沢』の星野正良さん。

『フレンドシップ木沢』の星野正良さん。「インターン生が大阪に引っ越すとき、『電車で帰る』と言うから車で送ってあげたよ。運動会や収穫祭に来てくれる学生もいて、うれしいですね」。

●『フレンドシップ木沢』の星野隆一さん。

『フレンドシップ木沢』の星野隆一さん。「インターン生が盆踊りの輪に加わってくれると盛り上がります。太鼓の叩き方を教えると、僕らより上手に叩いたり(笑)。教えるのが楽しくなります」。

『フレンドシップ木沢』代表の星野靖さん。

『フレンドシップ木沢』代表の星野靖さん。「インターン生を受け入れたことで集落に大きな変化がもたらされました。今後も関わりを深めてもらいながら、いつか移住してくれるとうれしいです」。

『中越防災安全推進機構』統括本部長の稲垣さん。

『中越防災安全推進機構』統括本部長の稲垣さん。「『震災のせいでこんな集落になった』という嘆きが、『震災のおかげで若い人たちと出会えた』という声に。未来へ向かう転換点だと思います」。

『中越防災安全推進機構』コーディネーター・インターン生OGの井上さん。

『中越防災安全推進機構』コーディネーター・インターン生OGの井上さん。「川口木沢地区で学んだのは、おばあちゃんの手仕事のように、体や心で覚えることの大切さ。集落で五感を育みましょう」。

長岡市の『大林印刷』で企業インターンを実践中の清水美波さん。

長岡市の『大林印刷』で企業インターンを実践中の清水美波さん。「千葉大学を休学し、印刷会社で活版印刷の手紙セットなど商品開発やワークショップを企画しています。新潟の自然も大好きです」。

新潟県柏崎市高柳町荻ノ島に移住したインターン生OBの橋本和明さん。

新潟県柏崎市高柳町荻ノ島に移住したインターン生OBの橋本和明さん。「集落でいくつかの仕事を掛け持ちして暮らしています。時代の価値に合わせながら、集落を未来につないでいきたいです」。

長岡市の『柏露酒造』営業部、インターン生OBの染谷知良さん。

長岡市の『柏露酒造』営業部、インターン生OBの染谷知良さん。「企業インターンを体験した酒造会社に就職しました。若い社員と一緒に、ブランディングなど新しいことにチャレンジしたいです」。

長岡市で働くインターン生OGの林由里絵さん。

長岡市で働くインターン生OGの林由里絵さん。「大学進学を機に東京から移住しました。川口木沢地区でインターンを経験し、人に関わる仕事に就きたいと思いました。仲間と地域を楽しみたいです」。

災害に対して、普段から備えていること、心がけていることは?

井上有紀さん 『中越防災安全推進機構』「にいがたイナカレッジ」コーディネーター

自分の生活をちゃんとつくること。エアコンがなくても涼しく過ごせる方法を考えたり、リノベーションに挑戦したり。それでも自分でできないことは、地域の人を頼りにしたいので、電話一本で頼み、頼まれる関係の人を普段から大勢つくっておくことも大切。
photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2019年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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