全国各地でユニークな働き方をしている11名。住む場所もやっていることもバラバラですが、みなさん共通しているのは、未来を見つめていること!現在の仕事や、これからの展望について聞いてみました。
1 北海道札幌市 渡辺真帆さん 『COAS』スタッフ
職場の同僚は馬です!
馬を用いて企業研修などを行う『ピリカの丘牧場』(『COAS』による運営)で、渡辺真帆さんは毎日馬の世話をしながら暮らしている。ここで働くようになったのは、小学2年生の時にイギリスで習い始めた乗馬に端を発する。そこで学んだ、馬と信頼関係を築いてコミュニケーションを取る方法に影響を受けた。
帰国後、日本の英語教育に疑問を感じるようになり、大学卒業後は社会を変革する人材を応援する仕事に就いた。そこで新しい教育のあり方についてリサーチを行う中で、自分も学びを生み出す現場にいたいと思うように。そんな折、今の職場に出合った。「久しぶりに馬に乗った時、さまざまな課題を乗り越えるにはお互いを理解し合おうとする力が必要で、それはまさに私が馬から学んだことだと気づきました」。
現在は、馬に関わることすべてが仕事で、仕事とプライベートの境目のない暮らしを送っている。「第六感までも使って呼応し、人を映し出すともいわれる馬から、左脳優位になっている人間が学べることは多いと思います」。今後は埼玉にある系列の牧場に移り、子どもの成長に必要なことを学べるプログラムを実施していく。
やりがいを感じるのはどんなとき?
お客様にしても自分自身にしても、馬とコミュニケーションが取れた時ですね。お客様が馬の上ですごい笑顔になっているとうれしいです。
収入は?
前職と比べると5万円ほどダウン。ただし、仕事と暮らしの境目がないので、仕事の一つとして生活に必要なジャムを作ることもあります。
2 秋田県湯沢市 髙橋 泰さん 『髙茂合名会社/ヤマモ味噌醤油醸造元』常務取締役
伝統×革新が生む未来。
慶応3年(1867年)より続いている『ヤマモ味噌醤油醸造元』7代目の髙橋泰さん。大学で建築専攻後に醸造を学び、大手メーカーで1年間修業を積んで秋田県に戻った。「自社サイトのリニューアルを地元業者に依頼したら、自分の理想とは違ってしまって……。写真、テキスト、デザインを自分で手がけたのを機に、さまざまなことへの挑戦が始まりました」。
海外の展示会に参加した時、製品をそのまま出しても現地の人の目に留まらなかった経験をして自社コンセプトから見直し。伝統の味はそのままに、容量を小さくし、洗練されたパッケージの新商品を発売した。さらに、髙橋さんは、地域の課題を解決しつつ新たな魅力を加えるコンテンツづくりの一環として、蔵にカフェやギャラリーを新設した。「海外の展示会に参加するよりも、ここが魅力的な場所であることのほうが世界の人の目に留まりやすいと感じています」。
伝統を受け継ぐだけでなく、現・当主が持つ感覚をいかにミックスさせるか。髙橋さんはこれを意識しながら、これからも新たな挑戦を続ける。
やりがいを感じるのはどんなとき?
世界中のアートで地域を再生させる事例にならって、学び・再生の一歩になるような創造性をかき立てる空間を生み出すことができた時です。
収入は?
世代交代のために社長である父親と、自身の収入を逆転させようとしている過渡期。ただし一緒に住んでいるので世帯収入は変わりません。
3 東京都渋谷区 若宮和男さん ノマド起業家
社長だけど全国各地で複業?
自分好みのネイルシールが作れるサービス「YourNail」を提供する『uni’que(ユニック)』代表の若宮和男さん。メンバー10人全員が複業を持ち、それぞれが担当する領域に関して決定権を持つ“バンドスタイル”で仕事をスピーディに進めている。メンバー全員が集まるのは半年に1回ほど。普段は別々の場所にいながらオンラインツールを使ってコミュニケーションを取っている。「“仕事の境界”を溶かすことで、複業とプライベートの両方を成立させています」。
若宮さん自身、『uni’que』代表以外にも『ランサーズ』のタレント社員、執筆、企業研修とさまざまな仕事に携わる。「アート系フェスの企画など、プロボノでギャランティなしで携わっていても、そこで出会った人との間で後に仕事が生まれることもよくあります」。地方で研修を担当する際、家族も連れて旅行をすることもあるそう。
今後は女性が当たり前に活躍できる社会にするため、女性起業家を増やす新事業に力を入れる。「アイデアをかたちにするサポートをして、その人のポテンシャルが発揮される世の中をつくっていきたいです」。
やりがいを感じるのはどんなとき?
社会の仕組みのせいで、本来その人に備わっているポテンシャルに蓋をされるのが嫌。その人の能力が発揮されるととてもうれしいです。
収入は?
起業して経営が安定するまでは会社の利益を優先し、役員報酬を低めにしているので年収はダウン。でも、生活レベルは下がっていません。
4 長野県辰野町 白鳥杏奈さん 『甘酒屋an’s』代表
甘酒をもっと広めたい!
「もともと私も甘酒が苦手でした」。そう話すのは長野県・辰野町を拠点に、甘酒の移動販売をする『甘酒屋an’s』の白鳥杏奈さん。「でも高校生のころ、地元のおばちゃんが地場産の料理を出してくれたことがあって、その時のデザートが甘酒だったんです。それがおいしすぎてニヤッとしました(笑)」。
一度地元で就職した後、その時の想いが忘れられず、24歳の時に移動販売を始めようと決意。移動販売に使う車を造るところから関わりたいと、仕事を辞め、地元の自動車整備工場でアルバイトしながら一緒に造っていった。そして2016年から移動販売がスタート。さらに、商店街の空き店舗を自分たちで改装し、今年6月から店頭での販売も始めた。
甘酒という伝統的な飲み物を「未来につなげたい」という想いで活動する白鳥さん。若者向けに味を工夫したり、中学・高校生に甘酒の魅力を伝える授業も行う。「店舗では甘酒だけじゃなく、日替わりで同世代の経営者がカレー屋さんなどもやっています。若い人たちが来やすく、働きやすい環境をつくることを大事にしています」。
やりがいを感じるのはどんなとき?
「未来につながっているな」と実感するとき。3歳くらいの子どもが「ジュースお代わり!」って言ってくれたときはうれしかったですね。
収入は?
だいたい月20万〜30万円ほどです。移動販売と店舗での販売があるので、まちまちですが、特に無理のないくらいの収入にはなっています。
5 福井県大野市 北川真紀さん 『日本学術振興会』特別研究員東京大学大学院生
生活が研究であり、仕事です。
『日本学術振興会』の特別研究員という肩書をもつ北川真紀さん。以前は都内のテレビ局に勤務していたが、現在は東京大学大学院で人類学を学んでいる。その博士論文執筆のため、福井県大野市に移住し、フィールド調査を行っている。「大野の日常に入り込むにつれ、野生動物との関係性が気になり始めた」と話す北川さん。自らも罠と銃の狩猟免許を取得し、実際に地元の猟師と狩りへ。今ではクマの解体もこなすほどになった。人類学は、その地域の空気感に長い時間触れることが大事だという。そのため、日常的に地域の人たちと接する機会が多く、北川さんの働き方や生活は、すべてが研究につながっているといえる。
その一方で、「趣味でやっています」と語るのは「本」に関すること。過去に出版社でアルバイトをした経験もある北川さんだが、大野に来て、このまちに本のある空間があればいいと思ったそう。そこで、古本市や「本の交換会」などを行い、本を通して地域の活性化につながるような活動も行っている。「今後も自由な発想で、人類学を発信していけるような活動をしていきたいですね」。
やりがいを感じるのはどんなとき?
新しい発見や想像を超えた出合いがあるとやりがいを感じます。地元の方々と一緒に、大野の新しいことを発見できるのはうれしいですね。
収入は?
研究遂行のための、月の収入は20万円です。雑誌への寄稿や、講演会があるときは、そこにプラス2万円ほどでしょうか。
6 三重県松阪市 藤原将志さん 包丁研ぎ師『日本包丁研ぎ協会』代表理事
包丁が味を変える⁉
三重県松阪市で70年以上の歴史を持つ『月山義高刃物店』。その3代目が藤原将志さんだ。藤原さんは手作業での研ぎにこだわり、自ら製造した人造砥石や天然砥石を使用。さらに1本の包丁を10個ほどの異なる砥石で仕上げる。「包丁の切れ味で、食材の味は変わります。よく切れる包丁で切った食材のほうがおいしいということが、研究した結果わかったんですよ」。
販売している包丁は注文を受けた後、さらに研ぎ直し、包丁によっては8時間以上かけるというから驚きだ。その繊細な研ぎから生まれる切れ味が口コミで広がり、約2か月待ちになっているという。
現在は、一般の依頼に加えて、研ぎの指導やコンサルティングなども含めた“年間契約”も始めたそうだ。「一人の料理人の包丁に寄り添えたらと思いました。料理人がプロゴルファーなら、研ぎ師はキャディみたいな。研ぎ師として輝く姿を見せることによって、最終的に職業として確立させたいです」。そう話す藤原さんは、日本包丁研ぎ協会の代表も務め、講習会を通じて研ぎ技術を広める活動も行っている。
やりがいを感じるのはどんなとき?
包丁の「研ぎ」に対する評価はあまり聞こえてきづらいので、お客さんからの喜びの声が聞こえた時はやっぱりやりがいを感じますね。
収入は?
だいたい年間500万円ほど。ちなみに年間契約の売り上げの粗利は9割を超えてます。砥石はあまり減らないものなので、費用がかからないんです。
7 三重県大台町 小田 明さん 『Wans Laugh』代表
ワンちゃんと森の中で遊ぶ。
三重県・大台町の森の中で犬と遊べるドッグイベントを企画・運営する『WansLaugh』を立ち上げた小田明さん。30年超勤めた大企業を6月に退職し、8月3日から本格始動した。
50歳を過ぎて定年に縛られることなく働きたいと感じ、雇用されない生き方を模索し始めた。ただ、いざ起業と思っても、つい大きなビジネスを意識して体系的な視点で考えてしまう。ある起業家から「広がりの視点は大事だが、まずは好きなことを」と助言を受け、自分のやりたいことを見つめ直した。その頃に『トヨタ』が保有する「トヨタ三重宮川山林」を活用するビジネスコンテストがあり「だめでもともと」と、思いの片隅にあった大好きな犬と森の中で遊ぶプランを提案したところ、採択された。
小田さんは、『Wans Laugh』を単なるドッグランではなく、犬と飼い主がさらに絆を深められるような場にしたいと考える。起業を考え始めた頃は自分の年齢に劣等感を抱いていたが、今はまったく関係ないと言い切れる。会社員時代とはがらりと異なる生活になったが、「プレッシャーもあるが毎日楽しい」と笑う。
やりがいを感じるのはどんなとき?
ワンちゃんがはしゃいでいるときや、一歩成長した姿を見たときです。ワンちゃんが楽しんでいると、飼い主さんも笑顔になります。
収入は?
初年度は年間約500万円の売り上げを目標として動き出したところです。これからほかの事業も絡めつつ、シナジー効果を出していきたいです。
8 広島県北広島町 浄謙恭子さん 浄謙寺坊守
お寺で食べられるイタリアン!?
お寺でイタリアン精進料理を提供する広島県・北広島町奥原の浄謙寺。すべての始まりは『イタリアン精進レシピ』という本を、同寺住職の妻・浄謙恭子さんが母の日に長女からプレゼントされたことだった。家の近所で育てている野菜を使って、レシピに載っている料理を作れることがわかり、1年ほど研究を重ねたのちにお客様に提供するようになった。今年で11年目の活動だ。
お客様は11時〜14時頃まで滞在する。まず住職からの読経と説法があり、次いで食事。最後の30分は部屋を替えて抹茶と菓子を楽しんでもらう。
浄謙寺のある奥原地区は約20世帯の小さな集落だが、豊かな自然に恵まれている。標高が高く、珍しい鳥が飛んでくることもある。「この土地の魅力を多くの人に知ってほしい」と、恭子さんは勤めていた保育園を辞め、イタリアンの精進料理を究める道を選んだ。今後はこの料理を軸に、自家農園で野菜を育てたり、空き家をゲストハウスにしたりするなど、「活動を地域全体に広げ、訪れる人だけでなく地域で生活する人を増やせたら」と語る。
やりがいを感じるのはどんなとき?
「おいしかった」はもちろんのこと、お客さんから「(ここで過ごす時間が)いい時間でした」と言ってもらえるのがなによりもうれしいです。
収入は?
昔、保育園の先生をしていた頃に比べると自由に使えるお金は減りましたが、好きなことに関われる充実感があるので満足です。
9 広島県東広島市 山田芳雅さん 『合同会社ひとむすび』代表・東広島市地域おこし協力隊
地元の方とつくる羊毛。
広島県東広島市豊栄町に地域おこし協力隊として2年半前に赴任した山田芳雅さん。学生時代に農業を学んでいたこと、また豊栄にお世話になった方がいたことから、豊栄町で第一次産業に関わりたいと考えた。
地域の空き家活用、特産品の加工販売など模索したが思うように進まず悩んでいた頃、近所のご夫婦から草刈り用として飼っていた羊の毛の活用について相談を受けた。地元の年輩者を巻き込みながら毛刈り・洗濯・草木染め・糸紡ぎを行い、試しにセーターを作ってみたものの、コストや品質の壁が立ちはだかった。そこで糸紡ぎをベースに体験イベントを実施したところ、参加者の反応に手応えを感じた。
今後は体験メニューを拡充させるとともに、商品づくりの仕事を細分化して、より多くの地元の方に関わってもらえるよう仕組みを整えている。
地元の年輩者のコミュニケーションツールにもなりつつある豊栄羊毛。山田さんは「これを地域の特産品にし、おばあちゃんたちの作る商品で世の中に温かみを提供できれば」と語る。
やりがいを感じるのはどんなとき?
羊毛は奥が深いです。地元のおばあちゃんたちと試行錯誤しながら、いい作品を作ろうと前に進んでいるときにやりがいを感じます。
収入は?
地域おこし協力隊の報酬として月額18万1000円です。今後に向けて自分で稼ぎをつくるチャレンジを進めています。
10 香川県高松市 馬場加奈子さん 『さくらや』創業者
古着の学生服を再利用。
学生服のリユースショップ『さくらや』は、現在、全国に52店舗を展開している。「私自身も3人の子どもを持つシングルマザーで、子どもたちの制服を揃えることが家計に負担となり、苦労しました」と、創業者の馬場加奈子さんはいう。そんな馬場さんは、同じような悩みを持つ母親たちのために、2011年、香川県・高松市で『さくらや』の1店舗目を始めた。そこから全国の母親たちからも共感を得て、その想いが拡大していくことになる。自分の困りごとは、社会の困りごとでもあったのだ。
「大事なのは、親と子どもが一緒に過ごす時間を大切にすること。なので、職場に子どもを連れてきて働くのもOKにしています」。長期間働いていない、子どもがまだ小さい、親の介護をしながらの子育てなど、多様な生活環境に置かれている母親たち。『さくらや』では、そんな母親たちに合わせた仕事のスタイルをつくっている。
最後に馬場さんはこう話す。「スタッフや地域の人たちと、一緒になって子育てを楽しんでいます。そんな母親の働く姿を子どもが見て育つことで、自然に社会教育の現場になって行くと思います」。
やりがいを感じるのはどんなとき?
カウンター越しで母親たちと話す時間は楽しいです。お母さん同士がお互いに「ありがとう」って言い合える環境づくりが重要だと感じます。
収入は?
高松店での売り上げは年間1300万円ほどです。やはり入学式前などは忙しいので、月間の売り上げもその分多いですね。
11 福岡県筑前町 山田大五朗さん Bike is Life代表
自転車を楽しんでほしい!
福岡県筑前町で自転車ライフスタイルブランド『Bike is Life』を運営する山田大五朗さん。かつてマウンテンバイクのプロ選手として世界選手権にも出場したことがある。フランス留学時代に、子どもからお年寄りまでサイクルスポーツを楽しむ姿に感銘を受けた。日本ではまだ自転車は移動手段と認識されており、文化として根付いていない。そこを変えるべく、昨年4月に本格的に活動を開始した。
自転車をより気軽に楽しんでもらうために、サイクルツーリズムやスクールを主宰する。現在は移住した筑前町や隣接する朝倉市の自治体と連携して、自転車でまちを盛り上げるイベントを開催することも。またオリジナル自転車やウェアを製作し、趣味として興味を持ち始めた人への“入り口”も用意している。
いずれ、世界のサイクリストの憧れである「ツール・ド・フランス」に、仲間とチームを結成して出場したいとの夢をもつ。誰もが自転車を楽しめる文化があってこそ、サイクリストの層は厚くなっていく。そこに至るまでの道筋をつくるのが自分の役目と語り、今日もまちを自転車で駆け抜ける。
やりがいを感じるのはどんなとき?
趣味として自転車に乗っていなかった方が、サイクルツーリズムなどの体験を通して自転車に乗り始めた瞬間にやりがいを感じます。
収入は?
収入は大卒の初任給程度ですが、自分の時間をすべてやりたいことに使えているので、今の働き方に満足しています。