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多様性

連載 | テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか

ある日突然、雲が消えたら

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 米アマゾン・ドット・コムが運営するクラウドサービス「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」で、8月23日に大規模なシステム障害が発生した。制御システムの障害によりサーバーの温度が上がり過ぎたことが原因で過熱状態となり、東京近郊に4群あるデータセンターの1つで問題が起きた。アマゾンはデータセンターの設備や機能をインターネットを通じて開発者に貸し出しており、世界で約13パーセントを占め、業界2位の規模を誇る。ゆえにこの障害の影響のインパクトは大きかった。スマートフォン決済での支払いや入金ができなくなり、会計ソフトもダウン。インターネットでの宅配注文、社内外との連絡も不能に。復旧までのおよそ7時間、障害によりさまざまなサービスが停止などの影響を受けた。

 自前でサーバーを導入してシステムを運用する時代を経て、コスト削減や使い勝手のよさを理由にクラウド化が一気に進んでいる。大手企業、中小企業、スタートアップが提供するサービスの多くがクラウド経由となり、電子商取引から金融サービスまで、経済のインフラとしてのクラウドの存在感が増している。さらに、AⅠやⅠoTなどの先端テクノロジーがますますクラウドの需要を高めていく。

 手間をかけてでも複数のクラウドプロバイダーを使い分けるマルチクラウドで一極集中を避ける方法もあるし、クラウドをどのような用途に使うかの見極めが必要なことも再認識した人は多いだろう。とはいえクラウド依存、すなわちクラウドを提供するⅠT企業への依存は簡単には止められない。

 エストニアは電子国家、未来社会と称されるほど、国を挙げて電子化を進めている。ブロックチェーン技術などにより行政サービスの99パーセントが電子化され、24時間フル稼働する。世界初の国政選挙での電子投票、電子居住権制度「e-Residency」など、世界に先駆けて電子政府の仕組みを築き上げてきた。日本でも2019年5月には、行政手続きを電子申請化する「デジタルファースト法」が成立し、エストニアを電子国家のロールモデルとしている。

 一方で、インターネット空間への統制を強める政府もある。あらゆるものを電子化し、電子化された世界を統制すれば、電子化以前よりもむしろ統制しやすくなる。可視化されていなかったものがデータとなり、把握できる。個人情報、思想、経済。電子化により、統制のための新たな手法が手に入る。

 僕は、御多分に漏れずのスマートフォン依存である。あらゆる機能がこの一台にどんどん集約され、もはや財布すら邪魔になった。日常的な支払いや振り込み、決済、ちょっとした仕事や連絡、ほとんどこれで済んでしまう。本当に手のひらの端末だけで生活できてしまうし、小さなタブレット端末ですら持ち運びには躊躇する。

 ある日、お店で支払いをしようとした際に手持ちのスマートフォンの調子が悪くなり、復活するまでの間、ずいぶんヒヤヒヤした。スマートフォンがもたらした利便性はこれに集中的に託すことを促し、行動を取り仕切る寡占の場と化した。立ち上がらずに真っ暗なモニターを見つめながら、スマートフォンに依存した分だけ、それによって無力化されることを思い知った。代償については意識しながらもなお、スマートフォンへの集約は止めるつもりはないのだが。

 クラウドについてもそうだ。代償を凌駕して余りあるほど、便利なのだ。クラウドは英語で「雲」を意味する。ある日突然、雲が消え、預けたデータも一緒に闇に溶ける。電子国家や電子的な統制も、ブラックホールに吸い込まれる。そんなパニック状況を想像したところで、人々は雲を信じて身を委ね続ける。

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