手のひらで季節を掴む

連載 | とおくの、ちかく。 北海道・東京・福岡 | 10 手のひらで季節を掴む

「ただ住むだけじゃもったいない」「自分たちの住むまちをおもしろがる」そんな掛け声で集まったローカルを思う存分楽しみたい3人(北海道より畠田大詩・東京より竹中あゆみ・福岡より中村紀世志)の連載。第10回目となる今回は、過ぎ行く季節を目一杯楽しむ、北海道・東川町のこの夏の体験について。

自然に向けて、目一杯手を伸ばして。

ー今回の書き手:畠田大詩

気づけば9月。東川町では去年よりも数週間早く稲刈りが進んでいて、夕暮れ時にはキンピカに輝く田んぼの景色も、もうすぐ終わってしまう。風に揺られながら夕焼けを背にする稲穂はどこからどう見ても美しくて、収穫がもったいないと思ってしまうほど。陽が沈む時間はどんどん早くなってきているし、夜と朝は寒いくらいだし、稲が刈り込まれたらいよいよ、ながい、ながーい冬と隣り合わせになる。

年度の半分がいつの間にか終わりそうで少し焦りつつ、よく遊んだ夏に対しての充足感もあるのも確か。「よく遊んだ」と言うと、今のこの時期、誰かに嫌な顔をされるかもしれないけれど、まあたくさん遊んでいたのだと思う。ここに住んでまだ1年半、知らない土地の空気を、無意識ながらも必死に身体に馴染ませようとしているのかもしれない。何はともあれ、遠出をせずともじゅうぶん遊べる環境が周りにあって、たくさんの自然に触れた感覚を握りしめている。この感覚に言葉を当てはめるのなら、「季節を掴む」という言葉がしっくるような気がしている。

この夏、僕の眼に映る景色はとても豊かだった。「季節を掴む」ために、手足を、身体を、そして心をバタバタと動かしていた。

たとえば、山に登る。北海道の夏山登山の期間は短い。そのなかで、いくつかの山に足を運んだ。ハァハァと息を上げ、汗だくになりながら何時間もかけて山頂を目指す。登山中は何度も「なんで僕は山に登ってるんだっけ」と頭をよぎるけれど、山の上に待ち構えている圧倒的な風景をみると、「ああ、このためだった」と登っていたときの苦しさはすべて吹き飛んでしまう。

たとえば、野菜を育てる。自分の家の前の小さな畑をスタートさせて2年目。去年失敗した知識を踏まえて、いろいろな野菜にトライをしてみる。花が咲く、虫がつく、病気になる、日々の変化のチェックが日々の日課になった。もちろん失敗もたくさんあるけれど、根を張ってしまえば放っておいてもぐんぐん育つ野菜の生命力に驚きながら、採れたての自宅野菜を食べる夕食はたまらなく贅沢だ。

たとえば、カヤック。忠別湖(ちゅうべつこ)というダム湖で体験してみた。陸では日差しを浴びて暑くても、水の上に出ると風が心地よく、湖に少し手をひたすと驚くほど冷たい。漕ぐ手を止めた時にボートに当たる波の音がチャポチャポと心地よく、青空を眺めてボーっとしていると、なんてのどかなんだと幸せな気分になる。家に帰って鏡の前に立つと、肌が真っ黒になってることに驚くけれど。

たとえば、星空を見に行く。ジリジリと暑い日中を乗り越えたあとに訪れる深い暗闇と、そこに浮かぶ無数の星。ひんやりと心地よいアスファルトに寝そべって空を見上げると、ボヤりと白く滲むのは雲ではなく天の川。北斗七星とカシオペア座ぐらいしか分からなくて、「どの星を繋いでも大三角やん」と笑いながら、何時間もボーっと夜空を眺める時間は格別。

東川町に来てから、「季節」に対する感度がとても強くなったような気がしている。そのなかでも、季節を”掴む”感覚を得ることができたのが、この夏だったように思う。

「掴む」という感覚が、何なのかと頭を巡らせてみると、「自分で選んでいる」ということなのかもしれないと感じる。わざわざ出かけないと行けない山に、湖に行く。手のかかる野菜づくりに取り組んでみる。生きていくためには必要ではないことばかりだけど、自然に触れられる体験を、能動的に選択する。都市部に住んでいた時は、それらの体験が自分のなかの選択肢に入ってこなかった。

便利さ・快適さを求めると、人は「自然」や「季節感」とどうしても距離ができてしまう。その距離を超えて自然や季節を感じるためには、自ら手を伸ばさないといけない。今は、「距離」自体がとても近いこと、自分の中での自然への興味関心が高まっていることが、僕が「季節を掴もう」としている大きな理由なんじゃないか、とそんなふうに思う。自然は「便利」ではないけれど、心に余白をつくり豊かにしてくれる。いかに「日常」と、「自然」やそれがもたらす「季節」を接続できる選択肢を持てるかが、今の僕にとっての大きな興味になりつつある。

暖かな季節は終わるけれど、次の季節がやってくる。季節を掴みに、また次の季節へ。そんなことを考えながら、次に握りしめられる季節を心待ちにしている。

photographs & text by Daishi Hatada

畠田大詩/1988年京都市まれ。「写真」を軸にした出版・イベント・教室・展示等を運営する会社にて、企画や営業、雑誌・Webメディアの編集・執筆、イベント運営まで多岐に渡り経験。写真を活用した地域活性化プロジェクトの企画運営やディレクションなども担当した後、2020年4月から、地域活性化企業人として北海道東川町役場に勤務。東川スタイル課にて、ブランド推進の企画や情報発信に携わる。https://www.instagram.com/daishi1007/

竹中あゆみ/1986年大阪府生まれ。雑誌『PHaT PHOTO』『Have a nice PHOTO!』の編集・企画を経て、2016年より『ソトコト』編集部に在籍。香川県小豆島の『小豆島カメラ』など、写真で地域を発信するグループの立ち上げに携わる。東京を拠点に取材をとおしてさまざまな地域の今を発信しながら、ライフワークとして香川県小豆島や愛媛県忽那諸島に通い続けている。https://www.instagram.com/aymiz/

中村紀世志/1975年石川県生まれ。機械メーカーの営業として勤務しつつ、フォトグラファーとしての活動を続けたのちに、2014年、結婚を機に福岡へ移り住みカメラマンとして独立。雑誌やWebメディアの取材、企業や地域のブランディングに関わる撮影を行う一方で、大牟田市動物園を勝手に応援するフリーペーパー「KEMONOTE」の制作や、家族写真の撮影イベント「ズンドコ写真館」を手掛けるなど、写真を通して地域に何を残せるかを模索しながら活動中。https://www.kiyoshimachine.com

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