山林資源を活用した木質バイオマス発電で知られる岡山県真庭市が、今、SDGs目標達成を組み込んだ地域づくりに取り組んでいる。新しい地域づくりのかたちを、真庭の未来をつくるアクションから学ぶ。
真庭市民とともに、SDGsの目標達成を!
地方創生にもつながるようなSDGsの達成に取り組む自治体を内閣府が選定する「SDGs未来都市」。これまでに60の自治体が選ばれているが、岡山県真庭市もその一つ。「SDGs未来杜市真庭」と、キャッチフレーズでは「都」を「杜」と表記しているように、真庭市は山に囲まれた地域。
林地残材や製材端材を活用した木質バイオマス発電事業は全国的に知られ、最近ではCLT(直交集成板)という木の構造材の生産も盛んだ。木質バイオマス発電を含む再生可能エネルギーによる市のエネルギー自給率は約34パーセント。3月17日には、CO2排出を実質ゼロにする「ゼロカーボンシティまにわ」も宣言した。
さらに、2018年9月の北海道胆振東部地震での大規模停電を教訓に、「地域マイクログリッド構築事業」の実証を開始。災害時、電気自動車が木質バイオマス発電所で充電した電気を避難所へ運び、市民に供給するというものだ。最終目標としては、電気は再生可能エネルギーで100パーセント自給し、常時供給できるよう目指す。ほかにも、バイオ液肥を活用した農業促進や、地域資源を観光に生かす観光地域づくりなど、市民とともにSDGs達成を目指す活動を展開している。
木材を無駄にせず使い切る。
発電出力は約1万キロワット。一般家庭約2万2000世帯分に相当する電力をつくる『真庭バイオマス発電所』。真庭市郊外の産業団地内に建てられ、24時間体制で稼働している。真庭市は1万7708世帯だが、店舗や工場もあるのですべての電力は賄えない。現状は、ここで発電した電力の15パーセントを地元の新電力事業者『真庭バイオエネルギー』に売電し、その電気を市役所本庁舎をはじめ公共施設が購入し、使っている。
稼働している発電所を見上げるとものものしい雰囲気も感じられるが、実際はそうではない。原木市場へ出荷されない細い木や枝葉は山に捨てられ、製材所から出る端材や樹皮は産業廃棄物として有償処分されていたが、その解決策として誕生したのが『真庭バイオマス発電所』だ。未利用材を林業家から買い上げ、燃料として発電。電気の一部は市内の公共施設で利用するという、エネルギーとお金の循環を実現した“SDGs的”な施設なのだ。市民が軽トラで庭の剪定後の不用な枝木を運び込み、換金することもあるという。
もちろん、山の木を燃料にだけ使っているわけではない。木は本来、建物や家具となるために何十年も大切に育てられた資源であり、販売価格もそのほうが高い。
最近、注目されているのはCLTだ。木の板を層ごとに直交するように重ねて接着した構造材で、建物の壁、床、屋根などに使われている。真庭市に本社と生産工場がある『銘建工業』は、いち早くCLTの開発・普及に努めている。国産材をベースに、真庭の山で採れる木材も原料として利用し、木材需要の拡大に貢献。製材で出る木屑は、道路を跨いで隣接する『真庭バイオマス発電所』にパイプを通して送り、燃料として活用している。
生ゴミさえも地域資源に。
真庭市では、家庭から出る生ゴミも資源と捉え、活用している。バイオマスプラントで、液肥をつくっているのだ。
生ゴミを入れるゴミ袋は、45リットルが1枚50円。市民はその袋にゴミを入れて捨てている。ゴミ袋を販売する市の収入は年間約7000万円だが、ゴミ処理費用は10倍の約7億円かかっているので、ゴミ袋1枚につき実際は500円のゴミ処理費用がかかっていることになる。しかも、ゴミの85パーセントが燃えるゴミで、その約半分が生ゴミだ。市のゴミ処理費用を減らすには、生ゴミをいかに減らすかが課題だとわかった。
そこで、生ゴミの減量化と資源循環を目的にして、環境衛生業者でつくる『真庭広域廃棄物リサイクル事業協同組合』が、家庭から出る生ゴミに加えて、屎尿と浄化槽汚泥も処理できるメタン発酵プラントを建設。現在は実証実験事業として市から委託されるかたちで、メタン発酵によるバイオ液肥をつくっている。メタン菌が有機物(生ゴミや汚泥)を食べ、発酵したものがバイオ液肥になる。できたバイオ液肥は市内の公共施設に設置されたタンクで無料配布されており、農家の田畑や学校、家庭菜園で使われ、「生ゴミ→バイオマスプラント→バイオ液肥→農家→レストラン・販売店・家庭→生ゴミ」という循環型の地域社会を実現している。最初はバイオ液肥の使用に慎重だった地域の農家も、作物の収量や味が従来の肥料を使ったときと変わらないことや、肥料代が節約できることに魅力を感じて使うようになってきた。おかげで、バイオ液肥は足りなくなりはじめているとか。
バイオ液肥を使って育てられた野菜や米は、『真庭あぐりガーデン』にある飲食店やマーケットでも味わえ、買うこともできる。
まちづくり、観光にもSDGsを組み込む。
地域課題を観光の視点で解決していく取り組みが、観光庁が推し進める「観光地域づくり」だ。真庭市もその考えのもと、観光地域づくりに取り組んでいる。推進するのは、2018年に開設された『真庭観光局』だ。地域の総合的なブランディング、プロモーションやマーケティングなどを行い、観光地域づくりを推進する法人で、観光庁の「日本版DMO」としても登録している。
『真庭観光局』の設立には多くの市民が参画した。「真庭市観光戦略会議ワーキンググループ」に参加した市民たちは改めて真庭市を見つめ直し、魅力と課題を捉え、観光地域づくりのコンセプトや、滞在プログラムのモニター企画をつくり、実践。“住んでよし、訪れてよし”の真庭をつくるために、『真庭観光局』が果たせる役割を考えた。
『真庭観光局』の前身は『真庭観光連盟』で、06年から「バイオマスツアー真庭」を実施してきた。真庭バイオマス発電所や液肥製造のバイオプラントなどを見学する有料ツアーで、19年3月までの参加者は2122団体・2万3611人と多く、全国的にも注目された。ただ、最近は参加者が減少傾向にあることと、「SDGs未来杜市真庭」としての取り組みも見てもらうために、20年度からは地域マイクログリッド構築事業も盛り込み、市民の暮らしぶりを知ることができる「SDGsツアー」としてコースを組み替え、モニターツアーを検討。新たな目玉商品に育てていく予定だ。
また、真庭の自然や季節の食べ物、飲み物、アートをサイクリングしながら体験できる「真庭で散走サイクリング」も人気だ。春、夏、秋にテーマ別のコースが設定されるので、背負ったリュックにお土産を詰め込みながら真庭の魅力を満喫してほしい。
未来を担う人材を育てる。
官民挙げてSDGsに取り組むための組織『真庭SDGs円卓会議』が、2019年10月に設立された。市や市関係者と連携する「真庭SDGsパートナー」に登録した企業や団体、個人が円卓を囲み、SDGs目標達成のために自分たちに何ができるかを話し合った。円卓会議には高校生も参加していた。岡山県立真庭高校の高校生は、地元のケーブルテレビでSDGsの取り組みを紹介する番組のレポーターを務めるなど、SDGsの大切さを発信している。また、真庭市は環境省「ローカルSDGs〜地域循環共生圏づくりプラットフォーム〜」にも参加し、海と里山の資源をつなぐ資源循環の取り組みを実践しているが、その取り組みを学ぶために、真庭市立湯原中学校で海ゴミの問題を考える環境学習「茅のストローづくり」を行った。
そうした学校での学びも、SDGsを達成するための未来の人づくりにつながっていく。
『真庭市立中央図書館』では、真庭の主要産業の一つである林業や、森林に関する本を「木のくに資料センター」として児童スペースにも配架。地域産業への興味を育む環境づくりを整えている。SDGsコーナーも設置し、子どもから大人まで多くの市民が「SDGsって、何?」と興味を持つきっかけづくりを行っている。
また、『真庭あぐりガーデン』を拠点に活動するNPO『真庭あぐりガーデンプロジェクト』は、食育
ワークショップや廃材を利用したものづくり体験や農業体験など、子どもたちと高齢者など多世代が交流しながら、SDGsや循環型の地域づくり、伝統文化を楽しく学び、体感するイベントを開催。SDGs達成に向けて、自分にできることは何かを考えられる未来の人づくりに貢献している。