千葉県を訪れた際、通りに設置されたワラ細工を目にしたことはありませんか? 突然視界に入る巨大なワラ草履や、橋の欄干に這うようにとり付けられたワラ細工のヘビなど。作られるワラ細工は地域ごとに特色がありますが、これらはいったい何のために設置されているのでしょうか。南房総在住のライターが実際に目にした道切りの写真とともに、お伝えします。
道切りってなに?
富津市では、長さ1.5メートルもの立派なワラジを掲げて無病息災を祈る地区がありますが、他地域では敢えて未完成のワラジを掲げるところもあります。大きなワラジは疫病神に対して、「この集落にはこのワラジを履くような大男が住んでいる」と知らせたり、「新しいワラジを履いて帰ってください」という意味を込めていたりします。木炭と杉の葉を、「疫病は済み(炭)ました」「過ぎ(杉)ました」という意味でワラジに添えています。
未完成のワラジを作る地域では、作りかけのままにしておくことでまだその地域に大男が住んでいることを表しているという人もいれば、まともに物を作れない馬鹿者の集落だとして、疫病神を諦めさせるためだという人もいます。
橋の欄干に稲ワラのヘビ!?
和田町の国道128号に架かる花園橋の欄干(らんかん)に、稲わらで作った大蛇が大きな口を開けて西方を睨(にら)み、もう一つの蟹田橋の欄干にも、やはり稲わらの大蛇が東方を睨んでいます。
これは昔から伝わる「道切り」という習俗で、二匹の稲わらの大蛇が、柴の集落に病魔や邪悪な鬼が侵入しようとすれば、呑み込もうとしているのです。
この柴の習俗は江戸時代から続いているようですが、稲わらの大蛇は橋の近くに住む年輩の人たちが節分に作り、集落の境を流れる川の橋に掛けるのです。稲わらの大蛇は丁寧に作られており、大きく開く口の中には、先が割れた蛇の舌まで赤い唐辛子を使い作ってあります。
稲わらの大蛇とは言え、長く続けているので霊力があり、本当に病魔や角のある鬼を呑み込む、と土地の人たちは誰もが信じていますから、いつの頃からか、珍しい風習が生まれました。文金高島田の花嫁が大蛇の前を通るときは、大蛇に鬼のような角がないことを見せるため、角隠しを外して通り、そして大蛇から離れると、外した角隠しを掛け直すのです。
地元の人に、道切りについて聞いてみた
「そんなのねぇよぉ。海からいくらでも人が入ってくるのに、そんなんやっても意味ねぇよぉ」
と地元特有の方言まじりで言われました。たしかに、今以上に漁業で栄えていた千倉町には、海路で訪れる人も多かったと思います。道切りは山間部特有の文化なのでしょうか? 今度は山に囲まれた丸山地区の山間部にある集落で道切りについて尋ねてみましたが、その集落にはそういった文化はないとのことでした。
同じく丸山地区内にある里山を訪れたとき、道切りを発見。その地区に住むおじいさんに尋ねてみると、部落(地区より小さな単位)の境目に5カ所道切りを設置しているとのこと。
「今では区の役員が区民のための行事として地区内のお寺からお札を頂いて、立春のころにやっています」