東北への移住がテーマのオンラインイベント、「東北暮らし発見塾」。「Fw:東北 Fan Meeting」(フォワード東北ファンミーティング)という、東北のことを知るきっかけをつくり、東北ファンを増やす取り組みの一環で行われています。2022年度の第9回の舞台は宮城県・利府町(りふちょう)。「移住者と共に地域のチャレンジを加速させる」というタイトルで開催され、20名が参加しました。
文化とスポーツを推進し、“遊び”をまちの活力に。
最初に、熊谷大(くまがいゆたか)・利府町長より、インプット・トークとして利府町の魅力や取り組みについてのプレゼンテーションがありました。「利府町には、日本三景の一角をなす『表松島』の海があります。そして特産物は『利府梨』です。利府町は、表松島と利府梨をかけて、“おもてなし”のまちなんです」と、冒頭から笑いを誘う熊谷町長。「利府は自然豊かなところで、交通の便もよく、スローライフと都会暮らしの両方の要素が楽しめるのが魅力です」と話します。
「東日本大震災で被災しましたが、おかげさまでハード面の復旧はほぼ終わりました。これからの復興創生は人間性の回復が中心だと考えています。そのためには文化力が必要です」と熱く語る熊谷町長。利府町では、神事である流鏑馬(やぶさめ)をスポーツとして楽しむ「スポーツ流鏑馬」を推進したり、2021年11月には、宮城県内で35年ぶりとなるJAF(日本自動車連盟)公認のラリー大会 を開催したりと、文化とスポーツに力を入れています。
さらに、利府町では将来的に市制への移行を目指しています。「利府町の人口は現在約3万6000人なのですが、単独での市制移行には5万人が必要です。人口減少社会においては大きなチャレンジですが、実現に向けて、『みんなの夢がかなうまち』を目指しています」と熊谷町長は力を込めます。利府町では、「暮らす人と町が共にチャレンジしていけるまちづくり」を進めているのです。
次に、移住者の3人が登場。アクセサリー作家の大宮紗妃(さき)さんは、山形県出身で、夫の実家がある利府町に14年前にやって来ました。「自然が多く、子育てしやすそうな環境だなと思って移住を決めました。人と人との距離が近く、顔が見える関係を築けるのが、この町のよいところです」と大宮さん。子育てが一段落したころから、手仕事としてアクセサリーづくりを行っています。また現在は、カフェ機能のあるコワーキングスペースであり、市民活動の拠点となっている『tsumiki(ツミキ)』のスタッフも務めています。「もともとは、アクセサリーを販売したり、『こ・あきない市』に出品したりと、『tsumiki』を利用する側でした。スタッフになったことで、いろいろな人と関わるようになりましたね。『tsumiki』のオープンから丸6年が経ったので、原点に戻り、一人ひとりを大切にして、それぞれのチャレンジを支援していきたいと思っています」と大宮さんは話します。
続いて登場したのは佐藤大輔さん。福島県出身の佐藤さんは、東京でIT系の会社を起業したのち、“地域の中”で子育てができる環境を求めて利府町に移住しました。隣の仙台市で働きながら、利府町内では「利府をおもしろく」をテーマにした『まちおこし支援協力会りふくる』の代表として活動しています。「eスポーツのイベントや異業種交流会を開催したり、フィンランド発祥の『モルック』というスポーツを町の競技にするためのプロジェクトを進めたりと、利府をおもしろくするためにさまざまな取り組みを行っています」と佐藤さん。町内の企業と連携してモルックの用具を開発するなど、ユニークな活動を展開しています。
3人目は梨農家の近江貴之さん。地方創生イベントで利府町と縁が生まれ、2019年7月に移住しました。「仙台出身なので、利府町には親しみがありましたね。新卒からずっと通信業界にいたのですが、自分の手で目に見えるもの・価値あるものをつくりたいと、地域おこし協力隊の制度を活用して梨農家に転身しました」と近江さん。廃棄ゼロを目指して、規格外の梨を使った「金の利府梨カレー」を開発・販売したり、“梨王子”としてSNSなどで利府梨の魅力を発信したりと、利府梨の価値向上に力を入れています。「農業は、体力的なきつさはありますが、やった作業の結果が出るのはうれしいですね。利府梨の生産は減少傾向ですが、市場ではすぐに売り切れますので、需要に応えられるようにがんばっていきます!」と意気込みを語りました。
ここまでのトークを受けて、『LIFULL HOME’S 総研』所長の島原万丈さんは「熊谷町長のプレゼンテーションにあった、文化とスポーツを大事にしていこうという点に感銘を受けました。文化やスポーツといった“遊び”は、コロナ禍では“不要不急”とされたこともありましたが、人間の心の健康にとっては極めて重要なもの。“遊び”は余白を生むので、“遊び”がない人生は窮屈です。あらゆるレイヤーでの“遊び”が大事ですね」とコメント。島原さんはさらに、「利府町には、個人の生き方が選択できる寛容さがありますね。不寛容なまちは人が流出してしまうので、利府町がオープンであることは非常にすばらしいと思います」と述べ、前半を締めくくりました。
移住者と参加者の交流やコラボが、利府の可能性を開く。
後半は参加者が主役のワーク。まずウォームアップとして、移住者3名が示した以下のお題について、自分が関わってみたいこと・関われそうなことを、参加者がZoomのチャット欄に書き込みました。
ワーク①では、参加者から以下のようなコメントが挙がりました。
・幼稚園や小学校でモルックの体験会をしてほしい。
・モルックとサウナのフィンランド・コラボイベントを開催したいです!
・梨畑のオーナー貸しで、生産量に左右されにくい収益を確保。そこから、利府梨を活用した、クラフトシードルやクラフトジンの生産。
・利府町に「こども商店街」をつくってほしい!
・幼稚園や小学校でモルックの体験会をしてほしい。
・モルックとサウナのフィンランド・コラボイベントを開催したいです!
・梨畑のオーナー貸しで、生産量に左右されにくい収益を確保。そこから、利府梨を活用した、クラフトシードルやクラフトジンの生産。
・利府町に「こども商店街」をつくってほしい!
続いてのワーク②では、参加者と移住者がブレイクアウトルームに分かれ、ワーク①のアイデアについて意見交換を行いました。そしてワーク③で、移住者と具体的にどんなことをやってみたいか、参加者が自身のコミットをチャット欄に書き込みました。
参加者からは、以下のようなコミットの書き込みがあり、さまざまなアイデアが生まれました。
・大宮さんと、中高大学生が夢を語るピッチ大会を開催してみたい!
・佐藤さんと、モルックのデザインコンテストを開催してみたい!
・近江さんと、ラリー観戦×利府梨紹介ができる機会をつくりたい!
・近江さんの梨園でライブをやってみたい!
・利府でモルックをしながら、モルックのデザインを一緒に考えたいです!
・地元の高校生と『tsumiki』で梨料理を開発!
・ラリーのレース期間中に愛好家のオフ会をしたい!
・梨園で、お花見、ライブ、野点(のだて)、懐石、梨栽培に触れるなど、遊びから文化に触れるイベントをやりたい。
・大宮さんと、中高大学生が夢を語るピッチ大会を開催してみたい!
・佐藤さんと、モルックのデザインコンテストを開催してみたい!
・近江さんと、ラリー観戦×利府梨紹介ができる機会をつくりたい!
・近江さんの梨園でライブをやってみたい!
・利府でモルックをしながら、モルックのデザインを一緒に考えたいです!
・地元の高校生と『tsumiki』で梨料理を開発!
・ラリーのレース期間中に愛好家のオフ会をしたい!
・梨園で、お花見、ライブ、野点(のだて)、懐石、梨栽培に触れるなど、遊びから文化に触れるイベントをやりたい。
参加者からの声を受け、大宮さんは「中高生と何かできたらと思いました。若い人たちと、遊び心をもって活動したいです」とコメント。また佐藤さんは「いいアイデアをたくさんいただいて、財産になりました」と、近江さんは「ぜひ梨畑に来てもらって、いろいろな体験をしていただきたいです。遊びの要素も取り入れていきます!」と、それぞれ述べました。最後に熊谷町長が「利府町には、ないものがたくさんありますが、希望があります! 明日が期待できるまち、それを誇りに思っています」と締めくくりました。利府町の可能性や、“ワクワク”“ドキドキ”が感じられる、楽しい2時間でした。
今回の「結びの一言」は、熊谷町長のコメントより!
“遊び”というのは心のエネルギーになり、人間性を回復させるものです。“遊び”がないと人間は進化しません。利府町では、その“遊び”の要素をたくさん提供したいと思っています。町長に就任して5年目ですが、遊び心を加えた政策を行ってきたことにより、「利府は明るい町」というイメージが出てきています。
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text by Makiko Kojima