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いで湯の里から発信する湯治場ラジオ。

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 肘折温泉は東北の聖なる山・月山の麓、山形県・大蔵村にある温泉地です。肘折の語源は「」と呼ばれた山岳修行者の集う「ヒジリオリ」からという説もあり、岩壁の下に立つ地蔵倉などの聖地が点在し、旅館もかつては宿坊や修験の宿で、今も観光地であるだけでなく病気を癒すことに重点をおいた「湯治場」であり続けています。湯船にはお地蔵様が鎮座し、それを拝みながらお湯に浸かっている、そんな光景も目にすることも。

肘折開湯伝説で地蔵の化身が住んでいた岩壁の下に立つ霊場・地蔵倉。今も『亀屋旅館』が行を引き継いで守っています。

 温泉地には中世の古い地域の仕組みが残っているという話は前回も紹介しましたが、肘折では温泉の権利を持つ「三十六人衆」と呼ばれる人たちの「講」の合議で温泉地が運営されています。

 そしてその息子さんたちを中心とするのが『肘折青年団』ですが、こちらは「講」にがっちりと組み込まれた組織ではなく、在住の若者の緩やかなつながりで運営がなされています。酒屋のレジの横に「角打ち」スペースを造ったり、屋台で移動式バーを造ったり、学生とアートのイベントを運営したり。お年寄りの多い湯治場に若い人たちも楽しめる場を造って大活躍の彼ら。そんな青年団が始めたのが「ラジオ」でした。

 正確にはFMラジオではなくPodcastなのですが、始まりのきっかけは2020年春の緊急事態宣言で、外出できない時の生活情報の発信として考えていたのが、湯治のお客さんもぱったりと途絶えて皆がもやもやしていたところに行事の話から肘折の豆知識まで湯治場の話題そのままを肘折に来られないお客さんに向けて伝える「湯治場ラジオ」が始まったのだとか。青年団長でもあるお蕎麦屋さんの早坂さん、団子店の羽賀さん、酒屋の須藤さん、旅館の村井さん、土産店の斎藤さんらが中心となり、肘折の店先で出会うような笑いの絶えない雰囲気が「ラジオ」から流れてきます。毎回レギュラーのように出ている人は誰だろうと思っていたら、その方は馴染みの湯治客の方なのだとか。そんな湯治場独特の人との距離感が、ラジオというメディアを通すととても意義のあることに思えてきます。肘折のいつもの「雰囲気」を伝えるのにInstagramやYouTubeのような視覚に訴えるメディアではなく音声を選んだというのが興味深いところです。

「放送局は聖地に造られる」と中沢新一さんの著書『アースダイバー』にあるとおり、放送局は興味深いことに東京でもかつての寺院や古代の修行者の祠跡に建てられることが多く、これは「異界と交信する」ということの根源的な思考と関係がある、と指摘されています。

 その視点で肘折温泉を見てみると、かつて「聖」たちや湯治客たちの祈りの地である温泉から、山の温泉の空気感を発信しようと彼らが思い立ったことはとても興味深く思えてくるのでした。

今も湯治場であり続ける肘折温泉を象徴する共同湯『上の湯』。この地域は信仰と一体の温泉文化が今も息づいています。

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