いきなり田舎に飛び込むのは、勇気がいる。私が地域に行って役に立つのかな?そう思っている人にオススメの求人があります!この入口から、自分らしい道を歩み始めましょう。
四万十川の豊かな流域に暮らし、ローカルの事業開発と、人材育成に取り組みます。
田舎と都会をつなぐパイプ役の仕事をしよう。
春は田植えをして、夏はカヌーの体験施設でガイド、秋は栗や米の収穫を行い、そして冬は栗の剪定や原木しいたけの栽培をする──。しかも、インターンシップや派遣社員として。そんなユニークな求人を”働き方開発“として提示しているのが、高知県・四万十町にある『いなかパイプ』だ。
「一般的な求人は、一人が一地域で一つの職業に就くものじゃないですか。それだとちょっと重い部分もあるのかなと(笑)。人生や仕事について悩んでいて、一地域でずっとやっていく覚悟をすぐに決められない人もいる。だからチームを組んで、複数の地域で複数の仕事をみんなで担うことができれば、地域の仕事も回り、働く側も負担なく働けるんじゃないかなって」。そう話すのは、代表理事の佐々倉玲於さん。白い歯を見せて笑顔で話す姿が印象的な、朗らかな男性。高知県幡多郡出身だ。
地域には「年間を通じて雇うのは難しいけれど、繁忙期には人手が欲しい」という企業や農家などが多数ある。佐々倉さんはそこに着目した。苦労してファンドを集め、2018年7月、一般社団法人である『いなかパイプ』が100パーセント出資した同名の株式会社を設立。10月に人材派遣業の許可を取り、派遣社員を同社で雇用している。地域人材会社と「季節に応じて働くところをチョイスできる求人」を用意したのだ。なんと「夏は休みます」などの働き方もアリ。
こんなに柔軟で自由な発想が培われた背景には、佐々倉さんの長い地域活動歴があった。「僕は琉球大学へ進学して、そのまま沖縄県に計12年間住んでいたんです。沖縄県の農村を巡ってまちづくりに目覚め、2001年からさまざまな事業をしていました」。仲間と組織をつくってワークショップを開催したり、市民活動支援業務も行うなど、本格的に活動をしていたそうだ。
しかし、30歳のときに転機が訪れる。四万十町の地域商社『四万十ドラマ』の代表取締役・畦地履正さんが沖縄を来訪し、偶然出会ったのだ。畦地さんは、地域の資源を活用した商品開発ですでに注目されていた。
佐々倉さんは2、3年後に高知へ帰ろうと思っていたが、その出会いと、まちづくりのプロジェクトが一段落していたことなどをきっかけに、直後の2009年5月にUターンした。「戻ってきて、田舎が生き残っていくために何をしたらいいか、考えたんです。人口減少などの課題はありますけど、生産物とか自然環境はすごく豊かです。だから、どんだけでも仕事をつくっていけるなって。仕事をつくり、人を呼んでくることができれば、生き残っていける。『この風景を残したい』と思っている田舎の人と、人生について悩んでいる都会の人をつなぐパイプ役の仕事をしようじゃないかと。『四万十ドラマ』に協力していただいて内閣府の事業として、宿舎に住みながら地域の事業者のもとで29泊30日研修するインターンシッププログラムを始めたんです」。
1年半で122名もの人がそれに参加し、佐々倉さんは「情報が届けば人が来るんだ」と確信した。参加者は、仕事をしながら地域の関係性を体感し、同時に自分自身と向き合って自分の適性などをつかんでいった。佐々倉さんは、「私はこう生きてみよう」と進む道を明らかにし、自立していく人の姿に感動したという。そこで内閣府の事業期間が終わっても継続するため、2010年に『いなかパイプ』を立ち上げ、ウェブを通じた情報発信も始めた。
現在までに300人を超える人が参加し、そのうち約30人がインターンシップを通じて定住。遊びに来たり一時的に手伝いをしたりする関係人口も生まれている。さらに現在は、お試し滞在として3泊4日の「いなかドア」も実施中だ。
地域は、誰が来ても受け入れられる。
本格的な求人事業「いなかマッチ」も始めた。それが冒頭で紹介した人材派遣事業だ。「この地域は、『四万十ドラマ』を中心に商品開発に取り組んで、二十数年かけて売れるようになってきています。一方で、その商品に使う栗などをつくる人が足りていない。商品開発と連動した、『田舎という会社で人を育てる人事部門』がいると思って始めたんです」。
ただ紹介して終えるのでは「若者の使い捨てのように感じる」と、佐々倉さんは言う。雇用者と事業者の間にジェネレーションギャップがあると、トラブルが起きかねない。両者にとっていい環境をつくり、かつ人を育てていくため、事業者側に関わる方法として派遣業の仕組みを使っているのだ。「雇っているのは僕らだから口を出させてもらうし、働いているのはそちらだからそちらも口を出してください。一緒に育てていきましょう、というスタンス。難しい部分もあるんですけど、そこまでおせっかいにも関わっています(笑)」。
行き届いた仕組みだと感心する人が少なくないだろうが、佐々倉さんは「地域おこし協力隊など地域の働き先が全国で増え、待てど暮らせど人が来なかった時期があって、ここ数年で考えが変わったんですよ」と笑う。「求人の条件を書くとき、何か違うなと思って。これまでは経験やスキルなどが『ある人』じゃないと働けない社会で、『ある人』ばかり求められてきた。だけど、田舎はそうじゃない。地域の人から『いてくれるだけでいい』『お祭りのみこしを担いでくれるだけで存在価値がある』などと言われるんです。一人の価値が高いんですよ。だから真逆の求人をつくろうと思って(笑)」。
そうして2019年春から始めたのが、「ない人」の募集。若くない人、キャリアやスキルがない人など、「ない」づくしでいいのだ。「コンプレックスを持っている人たちが自信を取り戻せたら。例えばカヌーのガイドは、笑顔があればOKです!」。
佐々倉さんは、地域には一人ひとりに独特な個性があって多様だと感じている。「すごく歌がうまい人がいたり、料理がうまい人がいたり。だから、誰が来ても受け入れられる。豊かな個性を受け入れる度量があるんです」。佐々倉さんの言葉と活動は、やさしい。安心して、新しい選択肢を見つけに行こう。
『いなかパイプ』のメンバーからひと言!
門田 晃さん
東京で芝居をしていましたがUターンし、今はカヌーのガイドや鬼北町の道の駅の派遣仕事をしています。インターンシップは、宿舎があるのでハードルが低くオススメです!
古川智恵美さん
広島県在住でふだんはリモートで、広報や情報発信を担当しています。私もかつて「ない人」でした。「それでいいんだ」と思う人がいたら、ぜひ新しい働き方を探しましょう。
吉尾洋一さん
Uターンし、応募者の窓口業務などを担当しています。高知県で個性的な人や、生活費が低くても幸せに過ごしている人などに触れると、「自分もなんとかなる!」と思えますよ。
佐々倉玲於さん
3泊4日または29泊30日、ある田舎に住んだ人が全国に散らばっている状態って、とても価値があることだと思っています。気負わずに、一歩を踏み出してみましょう!
橋本仁美さん
大阪から来て、『ぱいぷカフェ』や道の駅などの派遣仕事をしています。都会とは違う暮らしを経験し、価値観が変わりました。人のやさしさや温かみを強く感じています。