呼ばれるようにして

連載 | 写真で見る日本 | 5 呼ばれるようにして かくたみほ×島根県大田市大森町

呼ばれるようにして


 出雲大社を目当てにという、友人と女子旅の軽いノリで向かった島根県。羽田空港でイラストレーターの知人にばったり遭遇すると、彼は出雲市にワークショップをしに行くとのことだった。出雲空港に到着すると現地のスタッフさんが迎えに来ていて、私たちも市内まで便乗させてもらうことに。数か月後、今度は私が出雲の子どもたちに写真の楽しさを伝えるというワークショップをしに行くことになった。さすが、出雲は縁を結ぶ土地。旅や、見たことのないものを見るのが好きな私は、また島根に行けるのか!とワクワクした。


 そうして開催したワークショップには、見学希望の大人も数名交じっていて、その中にいた大田市大森町の石見銀山にある『群言堂』で働いている小林孝寿さんに、「一度遊びに来てください」と誘っていただいた。失礼ながら初めて聞く会社名だったが、周りのスタッフたちに「かくたさん、好きそう」「とてもいいから、せっかくの機会だから行ったほうがいい」と勧められ、翌日に早速伺うことに。


 出雲から高速に乗っても1時間半は軽くかかり、見慣れた田舎の風景から山道になり、次第に民家もポツポツとしかなくなって……。こんな所に? という場所に、東西を山に囲まれていてた谷間にあるような集落があり、そこにお店と本社と宿があった。小林さんに案内され、本社を見学。外から見ると茅葺き屋根の古い建物だが、中に入ると普通の会社同様、白い壁でパソコンが置かれたデスクが並び、皆さん忙しく仕事をしている。脇には小川が流れていて、ずっと水が流れる音が聞こえている。とっても自然が近い職場だなと思った。


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  『群言堂』はアパレルの会社ということで、作っているのは洋服。今度、新しく立ち上げるブランドの撮影をできないかと仕事を打診された。私は水のせせらぎの聞こえる大森町にまた来られるのかと思い、即OKした。2013年に始まったブランドは「Gungendo Laboratory」と言い、里山パレットというボタニカルダイのシリーズだ。


 ブランド担当の鈴木良拓さんは、眼力があって目がキラキラしていて、浮世離れしたおもしろい人。彼は周辺の里山でいろんなものを採取しては、染めのリストを作っていた。新たな実験もしていて、海藻なんかも試していた。東北の実家では裏山で遊んで育ったから動植物にめちゃくちゃ詳しい。本社近くの神社の社務所に住んでいてヤギを飼い、一緒に普通に布団で寝ているという。ヤギが犬猫のような感じで、朝は散歩をしながら一緒に出社してきていた。そんな楽しい写真を撮らせてもらいながら、新作のシーズンごとに撮影を行うことになり、どんどん大森町の暮らしや価値観に魅了されていった。


 私はせっかく行くのだからと、いつもオフを1日くっつけて、ロケハンも兼ねて前日入り。鈴木くんの植物採取に便乗して、フィルムでこの里山の写真を撮りたいと思い、作品撮りのテーマが決まった。写真集にまとめることができたら、染めた布のクロス張り装丁にしたらとっても素敵だなと妄想して……。


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 滞在中は大森町にある女子寮に泊まっていた。ヤモリが窓に張り付いていたりして、自然を感じては妙にホッとしていた。ある時、200年前の武家屋敷を宿にしている阿部家に泊まることになった。またこれが、「古いものとうまく暮らす」という場所で、体中に稲妻が走った。『群言堂』の社長である松場登美さんが宿に暮らしながら営業しているスタイルで、日本家屋の古い建物ってどこかジメッとした印象があったけれど、ここは違って隅々まで手入れが行き届いた究極の空間だった。季節を感じるインテリアにはいろんなものがミックスされていてよい違和感が心地よかった。すぐ両親を連れて来たいなと思い、もちろん仕事抜きで再泊しに行ったほどだ。『群言堂』ではおもしろい若者がたくさん働いていて、それをまとめる松場大吉さんと登美さんはとてもユニークで達観している。そういえば、最初に群言堂へ車を出してくれた渡部宏美さんも、今では社員として勤務している。


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 川でウナギが捕れると、囲炉裏で焼いて食べさせてくれたり、その肝汁を焼きおにぎりに塗って、余すところなくいただく。近所のおじいさんが山に入る時の先生だそうで、私も一緒に自然薯を掘りに行かせてもらったりした。マタタビの木がある写真のような風景の山道に掻き分けて入り、よじ登って掘る。両手はり、泥んこで写真を撮るどころではなくなっていたが、自分で採ったものを食べるという原始的な行為は、刺激的だ。大森町の人々の里山とのつき合い方や暮らしは、7年撮っている今でも魅力的なことばかりだ。

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