どんな思いや背景があってその場所に人が集まるようになったんだろう?楽しいと感じる場所は、どうやったら実現できるんだろう?全国各地の場づくりの先輩たちに、そのコツや工夫、思いなどを聞きました!
都会の真ん中に新しく生まれた、人が集まる場所。
昨年12月に東京都千代田区有楽町にオープンした『micro FOOD & IDEA MARKET』。広々としたワンフロアには、3つの機能が備わっている。物流の新しい仕組みを利用して日本各地から運ばれた食材で作られた惣菜を食せるカフェ、クラウドファンディング商品やアートブックなどの物販・展示コーナー、あらゆるイベントに対応可能なステージゾーンの3つだ。
『umari』代表の古田秘馬さんは、この場所をプロデュースする16人の1人。古田さんはここを、「玉石混淆で分からないなかから自分ごとを自ら探せる、蚤の市みたいな場所」と表現する。「世の中はどんどん小さな単位、個に向かっているのに、大都市はいまだに評価されたものだけが集まる場所。これからは、価値がまだ定まらないものでも自分の直感で選んでカスタマイズする時代。街もそういう場になっていくのだと思います」。
Question1
どんな場所に人は集まるんだろう?
A 想像を超えた何かが起きる場所、未知の世界と出合える可能性がある場所に、人は集まると思います。そして、昔からある地域のお祭りのように、自分の居場所と出番があるコミュニティの存在がそこでは大切です。信じているストーリーが同じ、つまり同じ世界観を持った人たちが集まれば自分を理解してもらえますから。でも、場にはある程度の限界があったほうがいい。顔の見える、落ち着く規模があると思います。
Question2
新しく場所をつくりたい。どんなことに気をつけたらいい?
A 人が集まる場には、6つのポイントがあります。シンプル、ミスマッチ(意外性がある)、アクション(参加したくなる)、フォトジェニック、シェア、ビジョン(大義名分がある)の6つです。例えば、私が10年以上取り組んできた『丸の内朝大学』があります。通勤ラッシュを避けて早めに通勤し、勤務前の学びの場にするビジョンや、ビジネスの場である「丸の内」とアカデミックな「大学」を掛け合わせた意外性に惹かれて、延べ2万人が参加するまでになりました。
Question3
コンセプトってどうやって決めているの?
A 小さなスペースでも大がかりなまちづくりでも、どんな世界観をつくるのかが大事です。それには、「なぜ」にあたるコンセプトと、「どうやるのか」にあたるアイディアの2つが必要。でも、アイディアだけがあり、なぜやるのかが抜け落ちている状況をこれまでに多く目にしました。
例えば、「これから自分に必要な価値を見つけよう」というコンセプトがあり、小さなものが集まる場として「市場」というアイディア(手段)があったとします。さらに「市場」を“因数分解”すると、食・モノ・人が集まれる場所だよねとアイディアが出てくる。さらには、この市場においては、どんな食・モノ・人が集まるといいのかとコンセプトを考えて……というように、因数分解を繰り返すとどんどん具体的なことに落とし込まれていきます。もし、ここに机があったとして、なぜこの机が選ばれたのかという疑問に対してもいい場所なら説明ができるはずです。
Question4
変化が激しい時代。いま必要なことは?
A ものづくりにおいては、既存のマーケットの評価ではなく、一つでいろんな機能がある「多付加価値」が必要です。例えば、スマートフォンが世に出た当初は電話ではないと批判もあったけれど、今ではなくてはならないものになりましたよね。私がそういった視点でプロデュースしたものに、「讃岐うどんの英才教育キット」があります。麺やダシの材料や麺棒、食育に役立つワークブックを入りのセットです。自由研究にも役立つし、孫との時間を過ごせると現地の高齢者に売れています。また、2項対立ではない世の中になってきているとも感じています。仕事かプライベートか、新しいものが生み出されている場か変わらぬ風景か、どちらかを取る必要はない。それは自分のライフステージによってもバランスが変わってくる。自分でその境界をコントロールできる時代なのではないかと思っています。
お悩み別!
実際、先輩方はどうやっているの? 人が集まっている場所のつくり方。
Question 立ち上げ時、仲間はどうやって見つけましたか?
開店前の準備期間に仲間づくりをしました。
名古屋市中村区に『グローカル名古屋』をオープンするまで、準備に5年かかりました。「ゲストハウスとカフェが一緒になった場所をやりたい!」という思いがありましたが、まず「仲間づくりの場づくり」から始めたのです。少人数制で友達になれるような英会話スクールをはじめ、先生と生徒という関係ではなく「みんながこの場を楽しむ同じ仲間」と、フラットな関係性を築くようにしました。
そうして尊敬し信頼できる仲間に出会えたのです。ゲストハウスの空間にいてほしいような、外国人と地元の人をつなぐ人たちが集まってくれました。数名に「同じ方向を見て支え合える仲間だな」と思って声をかけ、共に立ち上げをし、現在も一緒に働いています。
答えてくれた人⇒市野将行さん
いちの・まさゆき●バックパッカーズホステル&カフェバー『グローカル名古屋』代表。30歳までに世界一周を2回行い、80か国を訪問。英会話スクール『グローカル英会話』も経営。
Question 持続可能な場所にしていくためには?
スタッフと自分の状態をよくして人・ものを伝えます。
開店から1年半経って思うのは、スタッフや自分の状態がまずは大事だということです。共に働く人がどういう状況で、何を感じているか、コミュニケーションをとるようにしています。スタッフが笑顔で元気でいられる空間づくりをすれば、お客さんにも感じてもらえると思うのです。また、人のつながりが求められていることや、その大切さも実感しました。人と人をつなげる場にすることと、新富町のいいものを広めることも意識しています。
答えてくれた人⇒永住美香さん
えいじゅう・みか●宮崎県児湯郡新富町の地産地消を目指す『KOYU CAFE(こゆ野菜カフェ)』店長。2016年に新富町にUターンし「地域をもっと元気にしたい」とカフェをオープン。
Question 地域らしさを出すために軸にしていることは?
選定したつくり手としっかりやりとりをして提供しています。
『うなぎの寝床』は「九州ちくごのものづくりを伝える」という命題を基に、地域から生まれた何かを体現したものを紹介するショップを、八女市で運営しています。元々ものづくりが盛んな地域なので、僕たちが地域らしさを出すというよりも、つくり手との距離が近いところでやりとりをして提供すれば、地域らしさは自然に出ると考えています。つくり手の選定ポイントは3つあります。1つ目が、土地の特性が表現されているか。2つ目が、どういう人がつくっているのか。土地の特性と人の間には、その土地の歴史や文化があります。3つ目が、地域経済を回していけるか。きちんと回せれば、文化の継承ができると考えています。商品にしても店の建物にしても、地域の人たちが頑張って活動していることを、僕たちが仕入れたり使わせてもらったりしています。
使い手となる消費者に商品を推すのではなく、消費者が選択できるようにするのが僕たちの仕事です。店頭では、消費者のニーズやジャンルごとに商品を陳列するより、つくり手の目線で並べるよう心がけています。つくり手の仕事や特性が伝わるよう、基本的につくり手の商品のフルラインナップを仕入れています。
答えてくれた人⇒白水高広さん
しらみず・たかひろ●佐賀県小城市生まれ。福岡県八女市を拠点にした地域文化商社『うなぎの寝床』代表取締役。アンテナショップ『うなぎの寝床 八女本店』、共に学ぶための場所『旧寺崎邸』を運営。
Question 人が集まる空間にするために、何を提供すればいい?
サービスというより、コミュニティを提供しています!
人が集まる拠点の運営で大切なことは、何が目的なのかということ。それによって人の受け入れ方が変わります。例えばゲストハウスの場合、ただ宿泊ビジネスをしたいのか、生きがいのためにやるのか、などです。
私の場合、ゲストハウス運営の目的はコミュニティ形成。地域の人や行政との連携を含めて地域に根づいた活動を行い、日常をクリエイティブにワクワクと過ごす環境をつくるよう心がけています。実は、それがインバウンドの客層が求めているニーズなのです。そのコミュニティに入り、地域の人たちと友達感覚で交流し、地域の暮らしを体験できることが求められています。
私は客室やサービスの提供をメインにしているのではなく、「コミュニティという環境を提供している」という感覚で運営しています。おかげさまで、口コミで来る人やリピーターも多く、長期滞在をする人もいて、コリビング(co–living)の拠点にもなっています。
答えてくれた人⇒柴田義帆さん
しばた・よしほ●ゲストハウス『のどけや』代表。約20年間の音楽活動生活を経て、徳島県美馬市脇町に移住し、2014年に『のどけや』を、翌年『のどけや別館』をオープン。
Question 拠点の場所や空間の決め手は何ですか?
コンパクトなまちで“一人目”になれること。
Uターンではあるのですが、地元・釧路市の市街地から車で約40分かかるまちに移住しました。市街地に条件のいい物件がなく「市街地から離れ、北海道らしい景色が残る郊外にしよう」と思ったからです。すると、阿寒町が気になりました。阿寒インターや釧路空港から車で近く、以前訪れたことがあり自然が多いまちでした。
約15年ぶりに訪れ、市役所の方に案内していただくと、意外にもまちに同世代の人がいました。半径10キロほどのコンパクトシティで、なんとここ10年新規店舗ができていないことも知り、「大きいまちより人々の反応が見えやすくておもしろそう。それに新規参入の一人目になれるのもいいな」と、気に入ったのです。
物件を探し始めると、知人が教えてくれた築65年の元・旅館が、任せられる人を探していると分かりました。内見すると、レトロな内装で、私が好きで集めていたアンティーク家具の雰囲気にぴったり。「ここでならできる!」と即決しました。
答えてくれた人⇒名塚ちひろさん
なづか・ちひろ●『ゲストハウスコケコッコー』オーナー。北海道釧路市生まれ。2014年に友人と市民団体『クスろ』を設立。東京と釧路の往復を続けていたが、2016年にUターンし、釧路市阿寒町でゲストハウスをオープン。
Question 集客方法や、人が来やすいように工夫していることは?
SNSの活用と会話しやすい環境づくり。
集客のきっかけはSNS、特にインスタグラムが多いです。松江市での開店当初は30代のお客さんが多かったのですが、インスタグラムを積極的に使うようになってから、10代の中学生・高校生や、学生の来店が増えました。ほかは、口コミで来ていただけることが多いと感じています。
接客で心がけているのは、「いらっしゃいませ」と言わないことです。私には距離感のある言葉で、店員とお客さんの関係に固定されてしまうように感じるので、「こんにちは」と話しかけます。
店内は、あえてカウンターをメインにしていて、4人で向かい合って座るような席はありません。お客さんは、一人になりたいときもあれば、誰かとしゃべりたいときもあると思います。気軽に対面で話しやすいよう、カウンターにしたのです。話をしにいらっしゃる常連さんが多いです。
答えてくれた人⇒曽田千裕さん
そた・ちひろ●お菓子屋『COCHICA』店主。島根県松江市にUターンし、2016年に『COCHICA』を、翌年店舗2階にレンタルスペースをオープン。パティシエの妹と姉妹で運営。