東京から愛媛県の今治市へ移住し、築70年を超す古民家を自宅として購入したわが家。リノベーションによって生まれ変わった自宅で家族4人、田舎暮らしを満喫中だ。住むほどに味わい深く、子育て世代にもおすすめしたい古民家の魅力については、これまでもお伝えしてきた。この記事では自身の経験を元に、古民家リノベを多く手がけ、古民家の特長を知り尽くしたプロの工務店に大小さまざまな疑問をぶつけてみようと思う。多くの古民家ラバーのヒントになる情報をお届けしたい。
協力:株式会社KURASU(愛媛県松山市)代表取締役社長・矢野陽子さん
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冬の寒さ、もうこわくない!断熱リフォームのススメ
ー「夏は涼しくて、冬は寒い」というイメージのある古民家。実際に住んでみると、確かに実感します。
矢野さん:古民家は長い軒が太陽の日差しを遮ったり、土壁が湿気を吸収することで体感温度が下がったりして、夏は比較的涼しく過ごせるんです。しかし、冬は断熱材がないため、現代の住宅に比べると寒く感じることが多いですね。
矢野さん:それに加えて、古民家には「すき間風」もつきもの。木材は湿度や温度によって、どうしても収縮や膨張をしてしまうので、すき間がぴったりと塞がっている状態をキープするのは難しい。アルミサッシじゃなくて木製建具という場合には、余計に隙間が大きくなりがちです。ある程度は、建物の自然な経年変化として捉えることも必要でしょう。気になる部分は、すき間を埋めるテープなどで対処するのも一つです。
とはいえ、冬の寒さをいかにカバーできるかで、古民家の暮らしやすさはグンと変わります。間取りが広いことが多く、部屋の位置や日当たりによって温度差が生まれやすい古民家では、無駄な光熱費をかけないためにも、その場や環境に応じた効率的な暖房方法を選ぶことが大切です。
「窓」+アルファで暖かい古民家を叶える
ー「手っ取り早く冬の寒さを凌ぎたい!」という人だと、まず何に着手すればよいでしょうか?
矢野さん:最もオススメなのは、窓のリフォームです。「断熱リフォーム」と聞くと、壁や床に断熱材を入れる工事を想像しがちですが、実は窓の断熱が最も効果的なんです。窓は家の熱の出入り口。窓を対策することで、大幅に熱の出入りを抑えることができます。
窓の改修方法は内窓の設置や断熱性能の高いガラスへの交換など、いくつかあります。
窓そのものの交換にも大きく二通りの方法があり、既存の窓枠を生かすカバー工法は、内装を傷つけずに済むのがメリットです。一方、窓枠ごと交換する方法では、より高い断熱性能が期待できます。
費用は、窓の大きさや種類、工事方法によって異なりますが、国の補助金を活用できる場合もあるので、一度調べてみることをおすすめします。
ー古民家は窓が多いので、それだけでも快適性がかなり変わりそうですね!
矢野さん:窓のほかには、壁や床、天井に断熱材を入れることで、部屋の暖気を逃がさない工夫も大切です。
しかし、土壁の場合は、断熱材を直接施工するのは難しい場合が多いです。土壁に断熱材を貼り付けて、すっぽりと覆ってしまう外張り断熱や内張り断熱といった方法もありますが、柱や梁が見えなくなってしまうなど、古民家の風合いを損なう可能性がある点には注意が必要です。
床下や天井の断熱も効果的ですが、床下には通気口を設けるなど、湿気対策も同時に考える必要があります。
矢野さん:いずれにしても、機能を優先するあまり、古民家の良さや古民家らしさが損なわれてしまっては本末転倒だと思うので、見た目とのバランスを考えながら、古民家の特徴を生かした断熱リフォームを行うことが大切ですね。
古民家の冬を快適に過ごすための暖房器具
ーそれでは、暖房設備はどんなものが効果的でしょうか?
矢野さん:薪ストーブは効率的な暖房方法の一つです。古民家の雰囲気にも合いますし、燃料の薪さえあれば、電気やガスに費用をかけずに暖房できるのも大きなメリットですね。
一方で、密集地では煙の問題で近隣に迷惑をかける可能性があったりと、どんな古民家でも気軽に設置できるわけではないことに注意が必要です。また、薪の調達や保管、定期的なメンテナンスといった手間も伴います。
これらの点をクリアできれば、初期投資はかかりますが、広い古民家を暖めるうえで、とても優秀な暖房方法だと思います。
矢野さん:床暖房はエアコンと違って風が吹かず、足元から暖まるため快適で、特にご高齢の方のお住まいには人気が高いです。ただ、家全体を暖めるにはやや不向きなので、日常生活でよく過ごす場所に絞って設置するのがおすすめです。
矢野さん:そしてやはり、一番手軽なのはエアコンです。最近のエアコンは性能が高く、広い空間でも人のいる場所を効率的に暖めたり冷やしたりしてくれます。サーキュレーターと併用することで、より効率的な空調が可能になりますよ。
あと、エアコンの容量選びも大切です。容量は通常、6畳用、8畳用など、対応畳数で表示されていることが多いですが、古民家の場合は表示の畳数よりも少し広めのものを選ぶのがポイント。どうしてもすき間があったりと、気密性が低い傾向にある古民家。「エアコンが効かない」ということのないように、少し大きめを選ぶと安心です。
ーわが家はエアコンと、特に寒い冬場は石油ストーブが活躍しています。古民家だと室内に壁があまりないので、エアコンを設置する場所にも悩んだ記憶が・・・。
矢野さん:古民家は構造上、壁が少なく欄間があったりするため、エアコンの設置場所が限られることが多く、悩ましいところです。エアコンの効率は、センサーの位置や風の吹き出し方向に大きく左右されるので、設置する向きや場所がとても大事なんです。
しかも設置するには土壁に下地工事を施したり、それが難しい場合には金具を使用するなど、工夫が必要です。さらには、窓や配管の位置なども考慮して設置場所を選ぶ必要があります。設置の際は、古民家の造りについて詳しい施工会社に依頼するのが確実ですね。
古民家の冬を快適に過ごすためのヒント、いかがでしたでしょうか?古民家リノベーションは、単に古い家を改修するだけでなく、その家の歴史や特徴を活かしながら、現代の暮らしに合った空間を作り出す作業です。今回の記事が、古民家に興味のある方の一助となれば幸いです。
取材・文:小林友紀(合同会社企画百貨)