連載 | 都市計画家 山崎満広の「明るいまちづくり相談室」 | 3
日米の公務員の仕事の違いについて教えて!
「世界一住みたい街」と呼ばれるアメリカ・オレゴン州のポートランド。2012年から、このポートランド市開発局にてビジネス・産業開発マネージャー、国際事業開発オフィサーを歴任した“サステナブル都市計画家”・山崎満広さんのコラム。近年、日本でも関心が高まっている「まちづくり」について、山崎さんがこれまでに受けたさまざまな質問に答えるかたちでお話しします。
目次
アメリカは転職が当たり前
今回は私がアメリカで公務員になるまでのお話と、日米の公務員の仕事や、そこに入るためのアプローチの違いについてお話しようと思います。アメリカの公務員は日本の様に公務員になるための試験というのは存在しません。ですので、中途採用で入ってくる人がほとんどです。アメリカでは、大学卒業前後にまずはインターンとしてどこかの会社など仕事場に入ることが一般的です。また、働きながら大学に通う社会人学生も多くいます。私の場合は大学院を卒業する前に、大きな電力会社でインターンとして働きました。役職的には、コーディネーター→プロジェクトマネージャー(係長)→マネージャー(課長)→ディレクター(部長)→それ以上、という形態になっています。
そもそもアメリカは転職社会で、転職を繰り返して地位と収入を上げていくという形がノーマルになっている国です。転職しなければ昇給できないというのが日本と大きく違っているところです。前職でそこで何年か経験を積み、いかに実績を残してきたかを次の仕事場でアピールしていかなければなりません。日本の様に、年功序列でその会社や公務員なら役所にずっと務めているということは珍しいケースになります。
なりたいものに「成る」
私がアメリカに住んでいた時の場合は、インターンから6回転職、2回起業をしました。アメリカ人の多くは、5年に一度くらいの割合で引っ越しをしているそうです。そして、転職のたびに地位と給料が上がり、ある程度のところまで行くとそれ以上組織の中で働くことをやめて独立するケースが多く、そのタイミングは大体マネージャーからディレクターになるあたりが一番一般的のようです。それまでに転職の流れのなかで、職能を深めながら経営の能力を向上させていくのです。日本の公務員の場合は、ほとんどの場合が新卒の時に公務員試験を受け、研修→配属となります。しかし配属は自分の意志ではなく組織に決める決定権があります。そしてその仕事場に留まり、最終的に自分のなりたいものになれる人は本当に僅かです。ましてや転職で入った人たちは、その決められた公務員の常識の中で浮いてしまったり、今までの経験を活かせないでいる、という話を耳にします。それはとても残念なことです。
アメリカは自分のなりたいものに成るために、自分の足で稼ぎ、必要な経験を積み、人的ネットワークを最大限に使い、次のステップアップの機会を自ら作っていくのです。転職のたびに、ここで雇ってもらうための裏付けになる実績が必要となり、それを認めてもらうための交渉力がカギとなります。自分の給料(年俸)もネゴシエーションで決めるため、その時にもその人物個人の、リーダーシップが問われるわけです。アメリカではそのような交渉力、発信力がとても大事で、そこから自分を認めさせ、信用を得てコネクションの基本となるのです。
「ガットフィーリング(Gut Feeling)」とは
アメリカは、学歴とかどこの大企業にいたとかいう社会的な信用もさることながら、個人的な資質や信用を重視する社会です。ですから就職の際の面接でも最終的にはその場での感触や直感で決まることが多いです。それを英語で「ガットフィーリング(Gut Feeling)」というのですが、そこで信用されて気に入られればその人のステイタスを上げる機会になり、また雇ってくれた上司は大いなる協力とコネクションを発揮して、その人物の成長に尽力してくれる可能性もあります。大事なのは自分で仕事が作り出せるか、自分が社会的影響や改善のために変化を起こすことができるかです。これは企業も公務員も同じで、日本の社会と大きく違っているところでしょう。私がいたポートランドの開発局には、専門家がずらりと肩を並べていました。私が入っていたところには、125人中100人くらいは何かの専門的な経験を持つ、多様で腕の利く人たちを集めていました。そして、マネージャーはそんな人たちを適材適所に配置し、全員がどうやったら上手く行くのかに集中している仕事場でした。とても風通しも良く、融通が利いているので、他の部署との連携で仕事を進めることも日常でした。
しかし、日本の役所の場合はきっちりとした縦割りになっていて、部署ごとに完全に分かれてしまっているため、全体のための戦略的な調整ができておらず、各部署でバラバラな取り組みが行われていることが大きいと感じます。役所としての本来の目的やビジョンをもう一度深く考えてみることにより、ビジョンと関わりが薄く重複している業務をとりやめたり統合したりすると、より多くの課題がスムーズに解決してゆくのではないかと期待しています。
(文:山崎 満広、Ocean child Loves Piano)
【覚えておこう】まちづくりキーワードワンポイント解説#3
ミクスト・ユース(mixed-use)
ミクストユースとは、建物の1階を商業、2~5階までをオフィス等就業の場、その上を住居やホテルなどにし、住居・店舗・オフィスをバランス良く配置することで昼夜人口の差を無くすための取り込み のこと。ミクストユースにすることで常に人々が行き交い、早朝から夜遅くまで賑わいが耐えない街となる。また、職・住・遊近接のコンパクトな生活も可能になります。