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紙の本をこさえる装幀という手仕事の力。

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 書名としき文字を打ち出した紙を手で丸め、伸ばし、こすり、コピーする。クシャクシャ、カサコソカサコソ。試せばわかるように、紙は触れると思いのほか大きな音を立てる。音によって紙の物質感を表す──この導入部は常日頃「本はモノである」と語る、菊地信義さんの人となりを端的に伝えるシーンだと思う。

 純文学、詩歌、思想書など、人文系を中心に多くの本を手がけてきた装幀家の菊地信義さん。彼を被写体とした本作は、職人的な仕事と、その延長にある印刷、製本を通じて、ものづくりの過程と変遷を描くドキュメンタリーだ。

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 一冊一冊、どのような装いや佇まいにするか。書体や色を選び、仕掛けを施した文字を、ピンセットや定規を使ってミリ単位で動かしながら、指先が収まるべきところを探し出す。工作を楽しんでいるような手の動きや、輪転機から紙がすべり出てくる印刷所の様子など、本がかたちになってゆく過程は、見ていてただただ楽しい。

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 こうした作業と同じくらい興味を引くのが、自身の“装幀観”を語る菊地さんのことばだ。

 「人文系の本はタイポグラフィー(文字)でデザインするから、紙の白と文字の黒で完璧に世界をつくれないと弱い気がする」「編集者がつくる帯文に、装幀の骨格は表れる」「(本の)デザインは、設計ではなくこさえること」……。映画に登場する某編集者は、帯の文章にダメ出しされた経験を話しているが、駒井哲郎が装幀を手がけたモーリス・ブランショの『文学空間』の造本に心を打たれてこの道に進んで以来、1万冊を超える文芸書に携わってきた装幀家の言葉には、言葉を生業にしている作家や編集者をはっとさせる力がある。

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 タイポグラフィーの圧倒的な力で読者の目を引く完成した本は揺るぎなく、完璧だが、カメラに映る菊地さんには老成した感じはない。書名に触発されて、初めて利用した書体について語るときのうれしそうな表情。カバーを外した表紙に「の質感のようなもの」といって触れるときの優しげな手。本をこさえることが心底好きな菊地さんをカメラ越しに見つめる広瀬監督の映像からは、今や稀有となった職人的な手仕事に対する憧れと敬意が滲んでいる。

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 本を包むと同時に、その装いの魅力によって、読者に本を開かせる。図らずも装幀の本質を表すタイトルも絶妙だ。

目次

『つつんで、ひらいて』

 12月14日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

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