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場づくり・コミュニティ

食をつくる人の美しい働き。

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京都の禅寺で過ごした小僧時代に、精進料理を体得した水上勉。映画『土を喰らう十二ヵ月』は、半世紀近く前、作家が女性誌に連載した料理エッセイに触発された中江裕司監督が、その世界観を映像化した作品だ。

信州の里山で土と向き合い、旬の食材と向き合い、好きな人とともに食べる歓びを思いながら料理し、書く日々を送る作家のツトム(沢田研二)。

稲わらでつくった雪除けから取り出し、道具を使ってリズミカルに洗った泥つきのサトイモを囲炉裏で焼く。雪解け水の冷たさを長靴越しにも感じながら、水辺でセリを摘む。春になれば山菜を採りに、秋にはキノコを狩りにと、日々は自然とともに過ぎてゆく。

山の恵みは季節とともにやってくる。人間の都合でどうなるものではない。だからこそ自然に添い、その恵みを享受する作家の暮らしは豊かで滋味深い。

掘り立てを茹でて、出汁で煮て、食べる直前に木の芽を散らしたタケノコ。灰で灰汁抜きしたゼンマイの和え物、焚火で包み焼きにし、熱々の状態で味噌をつけて食すタラの芽……。適切に手をかけられた食材は佇まいもよく、数々の旬菜は、視覚だけでなく聴覚をも刺激する。野菜好きにはあれもこれも食べたい!のオンパレードだ。

手の仕事が冴えるのは、料理だけではない。ヤチムン(沖縄の焼物)を主に扱う沖縄のクラフトショップを運営し、陶芸家の福森雅武さんのドキュメンタリーも撮っている中江監督にとって、器や道具類は、料理に劣らぬ重要なもの。役者への手さばきの指導、料理づくりと映画に全面的に協力している料理研究家・土井善晴さんの私物を含め、台所の道具類や食卓に上る陶器は、役者、料理、信州の自然と並ぶ映画の”登場人物に“なっている。

春夏秋冬、旬の食材のエネルギーを余すところなくいただくツトムにとって、保存食づくりも年中行事になっている。干し柿、白菜の漬物、梅干し、ぬか漬け……。熟成期間を経た保存食は、食べ頃を迎えた後、味わいを変えてゆく。60年前に漬けた梅干しが、つくった人亡き後、ツトムの手に届いたように、何であれ本物は残る。

もう一つ。作家の担当編集者で恋人の真知子(松たか子)を見れば、料理は食べる人の笑顔によっておいしさを増すことに異論の余地はないだろう。

『土を喰らう十二ヵ月』

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11月11日(金)より、新宿ピカデリーほかにてロードショー、全国順次公開。
© 2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会
信州の四季からフランスのブドウ畑の四季へ。マリー・アンジュ・ゴルバネフスキー監督の『ソウル・オブ・ワイン』は、世界有数のワインの産地ブルゴーニュ地方のワインづくりの過程を詩的に映したドキュメンタリー。

なだらかな斜面に広がるぶどう畑を耕す、太い脚の農耕馬。枝を剪定し、伸びた葉を刈り落としてゆく農民。レンガの壁のテクスチャーが歳月を感じさせる貯蔵庫で、天使の取り分(樽の中で目減りした分量)を補充する生産者。ワインを寝かせる樽をつくる人。巨大な樽に入り、ブドウの足踏みをする人……。ワインづくりを担う人それぞれの無駄のない動きは美しく、映像を見れば、監督が生産者にどれほど畏敬の念を抱いているかは一目瞭然だ。

大勢が一斉に作業する収穫の季節、畑はもっとも賑やかになり、祝祭的な雰囲気に包まれる。土壌の深部の複雑さが品質を決めると、ワインとテロワール(土地固有の土壌や生育環境)について自身の哲学を語る生産者の言葉は、「すべての農作物は土づくりから始まる」ことを伝えている。

『ソウル・オブ・ワイン』

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ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほかにてロードショー、全国順次公開中。
©2019 – SCHUCH Productions – Joparige Films – 127 Wall
text by Kyoko Tsukada

記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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