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特集 | まちをワクワクさせるローカルプロジェクト

『長浜カイコー』が目指す、デザイン思考のまちづくり。

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まちの人々×行政が「クリエイティブの玄関口になる」という志のもと、タッグを組んだ!2022年2月、滋賀県長浜市にまもなく誕生する『長浜カイコー』は、どんな場所になるのだろう。

僕らのまち・長浜に、クリエイティブの風を吹かせることはできないか──。始まりは2019年秋。滋賀県長浜市在住でお互いにデザインのバックグラウンドをもつ中山郁英さんと石井挙之さんは、釣った魚で酒を飲みながら、デザイン談議を熱く交わしていた。デザインでできることはもっとあるし、人と人を結んで新たなものを生み出すことができるはず、と。
 
こうした盛り上がりはその場で終わることが多いが、ふたりが違ったのはその後に企画書をつくったこと。ボリュームにして30ページ。このまちに「長浜デザイン戦略室」をつくらないか、というものだった。この企画書の熱はじわじわ広がり、数か月後、長浜市役所のエリアマネジメントを担当する小谷勝也さんの元へ届く。小谷さんは、ふたりがやりたいことと行政の課題を合わせたら、おもしろいものができるのではないかと考えた。
 
2020年9月、三人の初顔合わせ以降、企画は少しずつ具体化されることとなり、長浜市内で活躍するさまざまなレイヤーのプレイヤーたちを巻き込み、意見を取り入れながらブラッシュアップ。そうして2022年2月18日より、「クリエイティブの玄関口になる」というミッションを掲げて『NAGAHAMA CREATION CENTER』、愛称『長浜カイコー』がオープンする。
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『長浜カイコ―』の企画書の一部。
目次

デザイン思考を浸透させ、新しい風を吹かせたい。

つくりたかったのは、場所ではなく「仕組み」と石井さんは振り返る。目指すところは企画当初から変わっていない。「5年前にこのまちに移住した僕が、外からの目線で思うのは、長浜にはおもしろいことをしている人はたくさんいるのに、それぞれで活動していること。こうした人たちをつなげる仕組みをデザインできたら、もっとおもしろいことになるに違いない」と未来を思い描いていた。
 
石井さんにこうした思いが生まれた背景は「働きながら、より楽しく暮らすため」という”自分視点“だったのに対し、Uターンで地元・長浜に戻ってきた中山さんは、”まち視点“での思いも強かった。「石井くんのようなおもしろい人は、どうやったら住み続けてくれるんだろう。そんなことを考えていました」と笑う。『長浜カイコー』は、企画が生まれた当初から「違う視点を活かして、一緒に楽しもうよ」というスタンスが根幹にあるのだ。
 
その後、長浜市役所勤務の小谷さん、さらには元・市役所勤務で『長浜カイコー』がテナントとして入る長浜駅前の複合施設『えきまちテラス』の運営を行う米澤辰雄さんが加わることで、新たな視点、異なる課題が付与された。
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複合施設『えきまちテラス』の芝生に面した1階、約200平方メートルの場所に『長浜カイコー』はつくられる。
長浜市では国の認定を受けて11年間実施してきた「中心市街地活性化計画」が満期を迎え、2019年に終了していた。その後、これからの持続的なまちづくりの指針となる「湖の辺のまち長浜未来ビジョン」を策定するにあたり、まちのプレイヤーたちが集まるエリアプラットフォームを必要としているときだった。

「このまちに新たな風を吹かせて、人材ネットワークをつくる必要があるということは感じていたけれど、やり方がわからなかった」という小谷さん。民主的(親しみやすい開かれた空気)であり、革新的(独創的なクリエイティブ)な場づくりを目指したいという、ふたりの企画書からは、みんなの頭の中にデザイン思考が根付き、まちの中に浸透していくやり方が可視化されたようだと感じた。

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今後のまちづくりの指針となるよう、長浜では「湖の辺のまち長浜未来ビジョン」を策定中。
一方、スーパーの移転後の跡地につくられた『えきまちテラス』は、市も出資をした第三セクター方式で運営。市民が集える複合施設として2017年に誕生したものの、使われ方やテナントが定着しないという課題があった。

市議会から『えきまちテラス』の公益的な使い方を求められているとき、デザイン思考の場づくりを提案され、「いいんじゃないか」と直感的に感じた米澤さん。以前の職場だった市役所での仕事のほか、実際のプレイヤーとしてまちづくりを実践してきた。

「これまでのまちづくりって、強い思いをもった人同士のつながりのなかで進められてきた。でも、メンバーが固定化され、それ以外の人が参加しづらくなるケースも出てきた。ネットワークを広げるためには、ゆるく長く続くつながりをつくる必要があるんじゃないか。ここをそういう場にできたらいいなと思いました」

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2021年7月に開催されたモニターワークの様子。最初は『長浜カイコー』に関わるコアメンバー5人が直接声をかけて使用してもらっていたが、次第にさまざまな人が使いにきてくれるように。どんな場があったらいいかなど意見を回収しながら、この場所の形を決めていった。

ワークショップではなく、モニターワークを実施。

『長浜カイコー』をつくるうえで大切にしたのは、「なにを実現したくて、どのように進めていくか」をしっかり考えて共有し、公開していくこと。そのため、どのような使い方ができるかを、完成する前から使う人と考え、一緒につくり上げてきた。このやり方は、デンマークなどヨーロッパで実践されている「コ・デザイン」というスタンス。一緒につくることでよりよいデザインのものが出来上がり、関わる人も深い愛着を持って利用ができる。
 
ところが、建築設計担当の牛島隆敬さんがコアメンバーとして参加した2021年4月、すでに設計の図面ができかけていた。「場所の使われ方をこれから決めるのに、設計が先にできるのはおかしい。使われ方によって設計だって変わるはず」という牛島さんの強い思いが市役所の人たちを動かし、当初のオープン予定を大幅に延期。スペース自体の設計も一緒に考えてつくる「コ・デザイン」でいこうと改めた。
 
通常、こうした場所の使われ方を決める場合、ひとまずワークショップ形式で人を集めて意見交換とすることが多いが、『長浜カイコー』では、改装前の状態でできるだけ多種多様な人に使ってもらうモニターワーク方式を実施。7月の1か月間を利用期間とした。

「市と民間が取り組むこうした事業は、特に遠巻きに眺められがち。『みなさんこちらへどうぞ』という雰囲気を出し、グループの隔たりなく使ってもらう。そこがキーポイントでした」と石井さんと中山さん。そのかいあって、個人ワークに仲間内のミーティング、市役所の会議、音楽ライブ、環境イベントなど、およそ100名が使用。多様な利用方法と意見を聞くことができた。
 
牛島さんはモニターワークと同時進行で模型をつくった。大切にしたのはバリエーションを提示すること。そうすることで利用者は比較しながら使い方を想像できる。こうして出た意見を、メリットとデメリットでわけて検討し、最終案へと落とし込んでいった。
 
仕組みづくりを目指す彼らにとって、一番大切なのは、場ができた「後」のこと。この場所が愛され、長浜にデザイン思考の人々が増えいく未来を想像し、さまざまな仕掛けも同時に走らせる。例えば、このプロジェクトの立ち上がりからできるまでの経過を伝える、メディアプラットフォーム「note」内の「長浜カイコーページ」の立ち上げ。難しい言葉を使わず個人目線で書き、できるだけ情報を公開することを意識した。

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100分の1の模型を10案つくり比較・検討。たとえば机の位置を一定間隔で配置するのではなく、机をひとつにつなげることで、人とのつながりができていいのではないかなどの意見を集約。
また、『NAGAHAMA CREATION CENTER』という名前だと硬派な印象なため、親しみをもって呼んでもらえるよう愛称をつくることに。かつて長浜のまちは、琵琶湖の港から「新しいもの」が運ばれてきて、文化がつくられた。現代においても、この場所が「クリエイティブの玄関口」となるよう港を開くイメージで、『長浜カイコー』という愛称をつけた。
 
さらには未来を担う若い世代にもぜひ参加してもらいたいと考え、滋賀県立大学・生活デザイン学科へコアメンバーが学校へと足を運んでミーティングを重ねた。その結果、駅と『えきまちテラス』を結ぶペデストリアンデッキの使い方を考えるなど、これからのまちづくりを一緒に考えるきっかけも生まれた。
 
オープンした後も、この場所のあり方を考え続けていく姿勢は変わらない。たくさんの視点や意見があるからこそ、クリエイティブな風土はより豊かに耕されるのだ。
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滋賀県立大学・生活デザイン学科の守屋美希さん(左)と、真鍋嘉那さん(右)。今後は『長浜カイコー』の季刊誌制作を担当予定。
photographs by Hiroshi Takaoka text by Kaya Okada
記事は雑誌ソトコト2022年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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