サツマイモと人との深い関係。
「和食」に接する機会は、年々少なくなり、一汁三菜も耳慣れない言葉になっているかもしれない。一汁は汁物を1品、三菜は料理を3品という意味で、江戸時代の懐石料理の頃から一般的に使われていたらしい。
この一汁三菜をいただくにもマナーがいくつかあり、そのなかには、箸をつける順序というのがある。
最初は汁物からとされ、箸を汁で湿らせておくと汚れがつきにくく、きれいに食べられるという狙いがあるらしい。
汁物の次は、味の薄いご飯。食事の風味を楽しむために味の薄いものから順番に箸をつける。三菜(おかず)が最後で、これらを繰り返しながらいただくのが基本とされている。
最初に一汁からいただくことに疑問がある。「味の薄いものから順番に」であれば、最初はご飯のはず。お米の味は繊細で、汁につけた箸に香りがついて、米本来の味を感じることができなくなってしまう。繊細な香り、甘み、旨み、コクが台なしになる。
和食はお米の味にこだわり、品種、炊き方、保存方法にまで心遣いをもって提供されているはず。お米を最善の方法で味わうのであれば、最初に箸を汁につけるなどあり得ない。
箸に汚れをつけないようにしたいのであれば、フィンガーボウルのように箸ボウルを提供すべきだと思う。
今回紹介するリトルプレスは、「サツマイモと、人と、本のまわり」をテーマにした『イモヅル』。4号の特集は「戦と芋」。
戦時中の食糧事情などとともに、当時のサツマイモの役割が見えてくる特集になっている。
特集の扉ページにある、「おいもは大切な主食物!」というポスターには、金太郎がサツマイモなどが入っているであろう茶碗を持ち、代用食を宣伝している姿を見ることができる。
当時の政府は、液体燃料の代替としてのサツマイモ(アルコールを製造)と、主要食糧としてのサツマイモを、「甘藷増産運動」として生産を喧伝していた。
『イモヅル』発行者の藤田一樹さんは、サツマイモを使った代用食3種「藷すゐとん」「甘藷パン」「健民きんつば」を実際に再現(調理・試食)している。
戦時下ならではともいえる3種の代用食は、テレビや教科書から想像していた食べものとは異なっている。これも、歴史の中で生まれた「和食」といえる。例えば、この「和食」のマナーはどんなものになるだろう。
「コメ」にしても、「サツマイモ」にしても、マナーのような社会的な了解や、いろいろな思い込みは、異なる視点で見てみることによってこそ、多様性や真実に近づいていくのだと思う。
これからも「サツマイモ」をテーマに発行される『イモヅル』は、また新たな視点を与えてくれそうだ。
今月のおすすめリトルプレス
「サツマイモと、人と、本のまわり」をテーマにしたリトルプレス。
発行者:藤田一樹
2018年10月発行、
149×210ミリ(32ページ)、
500円
『イモヅル Vol.4』発行者から一言
サツマイモにまつわる歴史や人物、文化などを「イモヅル式」に掘り下げていくリトルプレスです。「サツマイモが好き」という、ただそれだけの軽い気持ちで始めましたが、調べるほどに意外な事実や新たなつながりが見えてきて、もう抜けられません。